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三十五話「悪巧み」

 その晩、僕はまともに睡眠をとることはできなかった。反対に青宮たちは薬のおかげかよく眠れたようで元気そうだった。僕は寝不足でフラフラの体を引きずって、リッツの部屋へ向かっていた。

 魔王たちの住む城には、それぞれ別の国の魔王専用の部屋が設けられるそうだ。この城にも、リッツ専用の部屋が設けられていた。僕はそこに向かっている。


 扉をノックすると、「入っていいぞ、キザキだろ?」と非常にムカつく言葉が返ってきたのでぶすっとした表情で扉を開けて入る。


 椅子に座っているリッツは、手でソファに座るように指示する。大人しくソファに座る。正面には、リッツの座る椅子があるので、向かい合う形になる。


「で、昨日の続き話せよ」

「おう。キザキなら知ってると思うけど、バリって記憶喪失じゃん?」


 軽い感じで話された内容に、思わず飲んでいたお茶をリッツの顔面めがけて噴き出すところだった。噴き出さなかった代わりに、変なところに入ってむせる。


「げほ、何で……リッツが知ってるんだ」

「ああ、言い忘れてたな。俺の目って特別でさ、精霊なのよ、目が。んで、その精霊の力で人の過去が見える。昨日の夜お前の従えている精霊抱っこした時見えた」

「だからって僕が知ってること前提で話すなよ驚いただろ」

「わりーわりー。んでさ、俺……あいつに記憶取り戻してほしいんだよね」


 ははは、と笑って軽く謝ってから、突然真面目な顔になる。この切り替えの早さ、ここのメイドさんを思いだすなぁ……。この世界の住人は皆表情の切り替えが早いもんなのか?


「何でまた」


 疑問を口に出すと、リッツが昨夜見せた悪い笑みを浮かべる。あ、こいつ何か悪巧みしてやがる。ピンときた。こう言う時の勘は、当たるもんだ。


「記憶取り戻して、バリには蒼魔女とくっついてもらいたい」

「は……。でも、二人も魔王がいなくなったらどうするんだよ」

「そこらへんはうまくやるよ。とにかく、記憶を取り戻す足掛けとしてもバリに過去の自分と蒼魔女の姿を見てほしい。運がよけりゃ一発で思いだすかもしれねーし」


 つーわけでバリのところで行くぞ、と言うリッツの言葉に、僕は嫌だぁーと抵抗したが文字通り引きずられて行った。何だよ、ユニコーンのくせにクッソ力つえぇ。おまけにシェラには「主殿のお手を煩わせるな」って怒られたし。僕が一体何をしたって言うんだ! 僕はせめてもの抵抗として最後までリッツに引きずられた。


「ようバリ。お前の過去見に行かないか?」


 そうだ、京都へ行こう! のノリでリッツがバリを誘う。当然バリは怪訝な目をしてリッツを見る。ついにこいつ頭のネジ外れたか? と言う顔だと思う、多分。


 僕はなるべく身を縮こませて目立たないようにしてたのに……。


「こいつ、キザキって言うんだ。キザキの力で行けるからよー」


 ああああ! リッツの野郎思いっきりバラしやがったよちくしょう! おかげでバリの視線が痛い、痛いよ! 僕は目立たず魔族と関わらず地道に生きていくのをモットーとしているのに……。魔族と関わらないのは当然魔王と関わらないためであるのに、思いっきり魔王と関わってるよ僕。何のためにフラグ回避してきたんだか……。いや、でも正規のルートからはかなり外れた道を歩んでたから知らないうちに魔王と遭遇するフラグ作ってたとか? うーむ、ありうる。


「俺の過去を見に行って、どうする」

「お前には、どうしても思いだしてほしい記憶がある」

「今の俺は過去の記憶なんて必要としない。結構だ」


 ビシッと手で制されてしまった。すると、突然リッツがバリの体を羽交い絞めにする。バリが抵抗するが、リッツが押える。


「キザキ! さっさとこいつから精神体を引きはがせ!」

「ええー……やり方なんて知らないんだけど。スフル、できるか?」

「任せて!」


 スフルが元気よく答えると、途端に辺りが黒いもやに包まれる。それはすぐ目の前にいたはずのリッツやバリの姿が見えなくなるほど濃く、スフルと契約した時同様、僕は眠気に襲われて意識を闇の中へ引きずり込まれた。

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