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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第二章 MOB男の人言奸計と片隅の原始星
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01 エピローグエピソード





 僕は倒れている。


 人が死んでいる。


 炎の灯りが赤く染める。


 傍に少女が立っている。




 死体の傍で僕は寝転んでいた。

 寝転びたくて寝転んでいるわけでは決してない。

 倒れていると言ったとおり、僕にも僕なりの事情というものがあるのだ。


 その場所を舐めあげるような炎に囲まれていた。

 このままだとそれほどの時間を要さずに僕も炎に包まれそうだ。

 参ったな、という感じではある。

 今までずっと参ったな、という感じだったのだが。

 この先も僕なんてずっと参ったなという感じに違いないが。


 そんなネイティブにネガティブな諦めに辿り着いた僕を、ジッと見下ろしている少女がいた。

 それが誰かなんて言う必要はない。僕は彼女をよく知っているんだから。


 彼女はジッと見つめる。こんな僕を。


 僕はそれを無視して、今までのことを思い返そうと思う。

 どうせ動けやしないので、炎に囲まれているけど、やることもないので思い返してやる。

 こんな状況で人生を思い返すなんて、走馬灯のようだが、まさにそれでそうなのだろう。


 少女が無言で、無言の僕の傍にしゃがみ込む。


 そして躊躇いもせずに、その唇を僕の唇に合わせた。つまりはキスをする。

 ファーストキスは血の味がした。それは僕自身の血の味だけど。


 彼女が瞳を閉じたので、僕も瞳を閉じる。それが作法でもあると思うが、そんなことより時間があるのでそうした。

 瞳を閉じて、今まであったことと、見たことと、感じたことなどを全てすべからく思い出そうとしても普通の人間にはそれを全て並べることなんて出来はしないし、僕は出来てもやらない。




 ブレザーの美少女。桃色の髪。茶色の髪。金色の髪。黒色の髪。青い瞳。黒い瞳。赤い瞳。

 狐、鼠、蛇、人間。街。銅貨。朝日。汚泥。金槌。人参。

 墓碑銘。死体。物体。陽光。人影。

 憎しみ。痛み。微笑み。悲しみ。馬鹿笑い。


 瞳を閉じれば脈絡のない夢の様な現実にあった場面々々が瞼の裏に映写された。


 人は自分が寝て見た夢さえ全て語れないが、印象に残ったことを曲解して尤もらしく述べることはできる。

 それをしようと思う。時間はないけれど、何かをできるようでもなかったから、暇を持て余すのでしようと思う。


 これから話を再開しようと思う。

 これは僕達の再会の物語なのか、決別の物語なのか。それはわからない。

 これは僕自身の話で、僕は評論家じゃないから。

 中途半端を終始して、誰も気に留めない僕の話だ。


 六年。


 小学1年生なら小学校を卒業するし、中学生なら高校を卒業する。

 大学生なら、

 大学生だったことはないので、分からないが上手くいけば社会人だ。

 これが剣と魔法の幻想世界であったなら、どうか。

 ……まぁ、それは時と場合によりますわな。


 喩え話がおかしな感じになってきたが、何が言いたいのかというと、六年という歳月は、それなりに意味ができるなりに短くはない年月だということを言いたいわけで。


 剣と魔法の国なら尚更に、0歳から6歳までなら尚更に。

 その間、色んな事がこの世の中に起こったわけだ。

 それでも世界に起こったことは、生まれて死んだの繰り返し。そんな単純な分け方で十分だという見方もあるけれど。自分の人生はそんな単純なモノではない。


 少なくとも、僕の周りで起こったことは、そんな単純化した物語にしたくはなかった。

 理由は世界の命運とかとは関係なく、僕の矮小なプライドに過ぎないのですが。


 だから、この六年のことを、事細かに話したいと思ったのだけど、そんな物は他人にとってBGMにもならない、意味の通らない退屈な夢と同じわけで、最後の部分だけを僕なりに話そうと思う。


 つまり今から話すことはエピローグというわけだ。

 エンディングだけの物語なんて論評にも値しないが、僕の物語なんてFullでも所詮は僕の物語だ。

 

 普通の人生ではないが、平凡で、卑凡な僕のエピローグ。

 とはいえ六年分ともなるとそれなりだ。

 少し長くなるが、それくらいは我慢して欲しい。


 もう一度言うが六年はそこそこ長い。

 僕から俺ではなく、俺から僕に変わるには十分に。

 事情が変わって、心変わりするには十分に。

 だからもし一言で済む話だとしても、言い訳くらいはウダウダとさせて欲しい。


 キスが終わって、瞳を開けるまでに。炎がのんびり順番にやってきて、僕が焼き殺される前に。

 話し終えることができるかわからないが、ひとつやってみよう。

 森羅万象、一億秒には少し足りない中から、僕が曲解して、誰かが誤解して、世界が歪曲したお話しをしようと思う。




 それでもきっとこのエピローグは、彼女にとってのプロローグなんだから。










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