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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第一章 MOB男な新生児は他業無得の零才子
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EX04 異世界0日 灰魔術師入門その1







「さて、エド。さっそく修行を始めるわけですが」



 俺がこの世界にきて数週間、再会した上郡さんとまた別れた直後、師匠がさっそく灰魔術師修行の開始を口にした。


 今、俺達がいるのは『箱庭』という、俺の夢の中に創った仮想世界で、真っ暗な暗闇の世界。あるのは教室くらいの範囲を照らしている天からの光、六畳の畳とその上の卓上台、200インチのディスプレイのみ。なにかアベコベな世界観だな。


 師匠であるセドリック・アルベルトは1000年前の元日本人だし、今はエドゥアルド・ビスマルクという名の俺は先日まで現代日本の元高校3年生。その二人が創った仮想世界なんだから、若干の齟齬は致し方ない。



「まずは、あなたの修行を手伝ってくれる二人を紹介することから始めましょう」

 師匠は烏帽子に白装束姿の懐から、これまた白い扇子を取り出した。


「二人?」

 意味がわからずオウム返しに疑問点を返す。誰ぞやってくるのか? 

 俺の問いに、師匠が涼やかに微笑んだ。相変わらず中性的というか、男の俺もちょっとゾクッとするほどの色気がある。ちょっとだけよ?


「まず会ってみたほうがわかりやすいでしょう」

 そう言って師匠は扇子を一払いした。


 ゴロゴロと雷鳴が轟いた。

「カミナリ!?」

 突然の天変地異に驚いて俺は空(上)を見上げる。


 そこには黒灰の雲が渦を巻いていた。

 なに人の精神世界を悪天候にしてくれちゃってんの?


 その黒雲の中が光っている。

 赤い光。燃えてる?


 すぐに正体が明らかになった。

 火の車だ。懐具合が、という意味でなく牛車のほう。あとで聞いたところこの車は八葉車と言うんだそうだ。ただ牛はおらず、自走している。スゲーな、どういう原理になっているんだろう。2つある車輪が燃えているからディーゼルかガスタービンか。まあ、魔力なんでしょうけど。


 牛車は螺旋を描くように空を走り、着陸した。牛車なのに着陸した。

 さきほどまで蜷局を巻いていた黒い雲が消え、牛車の炎が心持ち落ち着いた。


 ひらり。


 牛車のまわりを小さな炎の固まりが舞っているのが見えた。


「キツネ?」

 炎はよく見ればキツネの形をしている。

 2、30センチほどの小さなキツネたちが何匹も、牛車の周りの宙を飛び跳ねていた。


「掛巻も恐き、彩の森の姫君に恐み恐みも白く」

 キツネたちが一斉に歌い出した。それだけでなく何処から取り出したのか拍子や鼓を打ちだす。


「なによ!?」

 突然始まった能だか歌舞伎だかの演奏に頭がついていけない。炎の狐が楽器を鳴らして燃えないのかというツッコミも俺にはなかった。


「……のぞみのぞめ有むをば、御格子上げさせて、御簾を高く上げ給え」

 成り行きを見守っていたら、そのうち歌が終わった。シンとした空気が辺りを支配する。

 

「え? なに?」

 キツネたちが一斉にこちらを見つめてくる。見つめられてもどうしたらいいのかわからないのでボーっと立っていたら、キツネたちの一匹が側まで飛んできた。


「若殿、若殿。近う、近う!」

 キツネが俺の周りを飛び跳ねる。

「寄ればいいの?」

 尋ねたが、キツネはまた牛車の方へ返っていく。しかたがないのでついて行った。


「若殿、若殿。御簾を上げて、姫様のご尊顔を拝されよ。さあさあ」

 若殿? 俺? 姫様? 誰?


 とにかく牛車の正面に近づく。

「さあさあ、御簾を上げて、ご尊顔を拝されよ」


 御簾を上げるってこれか? 自分で開けるの?

 簾の脇に編紐が下がっている。ブラインドと同じようなものか。

 紐を手繰ると、するすると薄い木製の簾がゆっくりとあがった。


 中が見えてくる。

「んー?」

 なんかおかしい。

 姫様?


 空っぽだった。


 そこにあるのは只の薄暗い空間。中に一段高くなった小さな畳が敷かれており、そこに座るようになっているみたいだが、誰の姿もない。

「なんだ?」

 顔をツッコムようにして中を観察してみたが、そこに人の気配さえ残ってはいなかった。


「見えませぬか?」

「はあ、なんにも……えっ?」


 反射的に答えたが、すぐ耳元で聞いたことのない声がしていたことに気がつく。


「ひっ!」

 ピッタリと背後に人がいる気配がして俺は飛び上がって、跳ぶように後ろへ下がった。


「あいた!」

 おかげで牛車のながえに足を引っ掛けて見事にすっ転んでしまった。


「あははは」

 あかるい、それでいて艶のある笑い声が響いた。


「なん……?」

 なんなんだ。この大げさな割に小さな悪戯は!


 そこには一人の女性が立っていた。


 白いドレスを着崩した妙齢の女だ。

 ただの人間ではないのは分かる。ただの人間にはケモミミは生えていないからだ。

 先程の情報から推測するに、狐の、獣人? というやつだろうか。


 口元を抑えて、呵々大笑している。肉食獣を思わせるような大きくても眼力のある瞳を細めて、その端に涙を浮かべるほど笑い声をあげていた。

 白を基調としたドレスは、赤と金を差し色に使い、着崩すのが勿体ないほど高級そうな服だが、それは日本の着物とも、この世界の欧風ドレスとも少し違った不思議な衣装であった。


 だが、俺の視線はある一点に集中する。


 男の俺にはドレスの違いなどほとんど分からないが、着崩したその胸元から覗く見事な果実の価値は一見すれば十分だった。

 ねっとりとした肌の白さと、まるで腐臭すら発しそうなほど、熟れに熟れた大きな乳房の山が覗いている。十代の少女には決して作り出せない柔らかさ。しかし身を崩すことなく布地を押し上げる双球は、0.102×F/S では表せない神の奇跡!


「けしからん!」

 思わず声が漏れるほどありえん物体だ!


 おまけにその双子の惑星を支える腰は、これまた見事なほどにくびれ、鷲掴みしたくなるような尻肉と、カー○が『ウィンウィン』やりたくなった気持ちが心底分かる美脚にジョイントしていた。


「あはは。怒らないでおくれまし、若君。少し驚かせたかっただけなの」

 誤解したのか、その女性は自身のイタズラを謝って倒れている俺に歩み寄った。


 下から覗くと、柔らかそうな胸の丘がまた別の姿を見せる。

 ううむ、この素晴らしい楽園を計測するにはパイアールの2乗を使うべきか3乗を使うべきか。パイがあーることだけは紛れもない事実だな!


 アホなことを考えていたら、彼女が俺の顔を覗きこんできた。

「あなたが主セドリックの後継者ね」

 興味深そうにジロジロと俺の顔を見る。近くに来ると気持ちのいい、男を堕落させる桃のような香りがした。


「……(おお!)」

 思わず声を上げそうになったが今度は我慢した。腰を折って覗きこんできたのでドレスの胸元が伸び、ついでに中身のおモチチも伸びていた。


 これがほんまのスライムやぁ!


 なんて彦○呂風にガン見していたら、彼女がはっきりと性臭を含んだ笑いを浮かべた。

 さすがにこんだけ見ていたら視線の行く先に気がつくか。

 年上女性の余裕のある笑みに恥ずかしくなって、俺は急いで立ち上がった。


 よし、大丈夫。

 股間がジャングルの王者みたいな恥ずかしいシミも、新宿の掃除屋みたいなチョモランマもまだ起こしていないことを確認してから女性に尋ねた。


「あの、お姉さんは一体?」


 俺の問いに、お姉さんは口元に手をやって、しなをつくって見上げてくる。身長は160センチ後半くらいなので、首をかしげると頭の位置が下がって、下から見上げるようになるのだ。いまさらながら彼女の身長に目が行ったよ。


「おしえて欲しい?」

 お姉さんがウフフと笑う。

 教えて欲しいっす! 色んな事を。いやむしろ色のことだけおしえてくだすわぁい!


「いちいち下品な仕草をするな、牝狐が」


 その言葉に先ほどまで微笑んでいたお姉さんの大きな瞳が、スッと細くなる。あいかわらず笑っていはいるが、微笑んではいない。


 え? なに今の声!? いや、俺じゃないっす!


 また背後からの声に俺は振り返った。

 仮想世界『箱庭』の影のような黒い地面がぐにゃりと歪み、徐々に渦を形作った。

 そして水面のようになった床の渦の中から、これまた別の人物が浮かび上がってくる。


 今度は黒い官服。ゆったりとしているのだが、ドレスを着崩したお姉さんとくべるとキッチリと着こなしたお兄さんが渦の中から現れた。服装は師匠の白装束に少し似ている。但しこちらは黒いが。


 あ、胸元に稲穂の刺繍があしらってある。こっちは男なので、お姉さんの時より余裕を持って観察できた。お姉さんの時だってしっかり見ていたが。一点集中で。


  男性だが、黒い髪を肩の下くらいまで伸ばしている。こちらもきっちりケモミミが装備されている。目つきは悪いというか鋭い。切れ長の黒い瞳は射るようにお姉さんを捉えていた。男がオッパイ天使に向ける目つきではない。俺だったらゴールドボールが縮み上がるな。精悍な顔立ちだが、粗野な感じはしない。

 背も高く、俺よりも、師匠よりも高い。190はないが、180センチ後半くらいか?

 お姉さんとお兄さんに挟まれているので顔を動かすにも動かせない。


 しばらく二人は睨み合っていたが、お兄さんは忌々しげに舌打ちすると、すっとその場を離れてまっすぐに六畳の畳が置かれている場所に向かった。

 そして師匠の座っているところまで行くと、膝を折った。


「主上、お呼びで御座いましょうや」


 いい声だなぁ!


 男の俺でも惚れ惚れするような艶と渋さをもった声だ。声優さんになれば大人気だろう。


 お姉さんの方がすっと俺の脇に来ると、腕をとった。大きな果実が肘に当たる。いや、当ててる?

「さあさあ、貴方も主の元へ参りましょう」

 ウフフと笑うお姉さんの色香に酔いながら、俺も畳へ向かう。


「さて、この二人が先程言ったあなたの修行を手伝ってくれる二人です」

 俺と二人が座ったところで、ようやく師匠が口を開いた。俺と師匠が向かい合い、お姉さんとお兄さんは師匠の左右に腰を卸している。


「わたしはヤーシャ。若殿、よろしくね」

 お姉さんが流し目を送りながら挨拶してくれた。


「私はウカだ」

 お兄さんがいい声で言ったが、俺はお姉さんの(胸の)ほうを向いたまま、

「エドです」

 とロックオンしたままそっぽを向いて挨拶を返したら、ゴホンと咳払いされたので仕方がなくお兄さんの方にも目を向ける。


「? あの……」

 俺は少し二人を見て気になったことがあったので聞いてみた。

「お二人はご兄妹かなにかですか?」


「どうしてそう思った」

 ウカさんの目つきがより鋭くなった。その反応に戸惑ってヤーシャさんの方を見るとこちらは好奇心を湛えた目でやはり俺の返答を待っている。


「どうしてって……なんか、似てません?」


 二人の共通点はほとんどない。ふたりとも黒髪の長髪というくらいで、身なりや雰囲気も全く違う。しかし、正反対なことが逆に共通点であるようにも思えた。

 どちらも獣人、というだけでない。人種による共通点という以外のものだ。どこをどうとも言えないのだが。感じる魔力が二人共、師匠にも似ている。


 そのことを話すと、

「さすがね」

 サーシャさんが音のならない程度の小さな拍手をして、師匠の方を見た。

「主が跡目とするだけのことはあるわ」


「フン。我が君の目に間違いのないことなど最初から分かっておったわ」

 ウカさんがサーシャさんの方を見ないで言った。


 なるほど、二人の仲がよろしくないのはよくわかる。


「それで師匠、こちらのお二人は……どういった?」

「この二人は私の『魂面』です」

「タマヅラ?」


「では、この世界の生き物についてお話しましょう」


 つづく! (エウレ○セブン風に)







昔書いたものが、出てきたので追加で。

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