第十八話 新たな刺客
「ガァアアアアアッ!!!」
「走れ走れ走れッ!!」
雷獣たちに追いかけられながら砦を目指すグレンたち。
セレスとジーノを守りながら走り続けると、ついに森を抜ける。
すると――
「砦が見えたッス!」
「よしッ! グレッタ、門を開けてこいつらを先に入れろッ!」
「分かったッ!」
彼らの視線の先に、放棄された砦が映った。何年も放置されているため、多少劣化している部分もあるが、砦を覆う石壁は健在で雷獣の攻撃にも耐えられそうだった。そのことを確認すると、グレンはその場に留まり、剣を構える。
「“炎“!」
「グルルルルゥゥッ!!」
「ガァアアアアアッ!!」
「ガルルルルルゥッ!!」
迫りくる雷獣たちに向けてグレンが剣を振り上げると、その動きに合わせるように炎が吹き上がり、瞬く間に一面を炎上させる。
炎に呑み込まれた雷獣たちは悲鳴を上げ、雷で出来た身体の輪郭がぼやけるが、数体の個体はそのまま炎を乗り越えるとグレンへと飛びかかっていく。
「オラァッ!」
「ガァアッ!」
飛びかかって来た雷獣を剣で切り捨てながら仲間が砦に入る時間を稼ぐ。
一方、グレンが時間を稼いでいる間に砦まで到着したグレッタは、巻上げ装置に飛びつくと、すぐにハンドルを回し始める。すると、大きな音を立てながら鎖が巻き上げられ、門が少しずつ持ち上がっていく。
「あんたら、急いで入りなッ! グレン、門を開けたよッ!」
セレスとジーノが門を超えると、グレッタは殿をしているグレンに声をかける。その声に反応したグレンは、最後に巨大な炎球を雷獣たちにぶつけると、門へと全力疾走をした。
そして――
「――っし、入ったぁ!!」
「ふんッ!」
――ガシャンッ!!!!!!
「ガァアアッ!!!」
グレンが滑り込むと同時にグレッタは巻取り装置から手を離す。すると、鎖が緩み、持ち上がっていた門は、凄まじい勢いで落ちると、目前まで迫っていた雷獣を遮るように閉じられた。
「ふぅ……上手くいったな」
「ああ、この門は頑丈な鋼鉄製だ。これなら雷獣の放電にも耐えられるだろうね」
「ジーノたちも……無事だな」
「はい……」
「つ、疲れたッス……」
「少し休憩したら……砦内を見て回るか」
非戦闘員が肩で息をしているのを見て、グレンはそう提案した。
~~数分後~~
休憩を挟んで息を整えた一行は、全員で砦内を散策していた。
何年も放置されていたため、室内は埃がたまり、棚やテーブルもいくつか崩れていた。
そんな中、ジーノはあたりをキョロキョロ見回し、首を傾げていた。
「どうした?」
「ああ、グレンさん。いや、ここって随分と昔に放棄された砦の筈なんスけど……。その割には最近、人が出入りしているような跡があるッス」
「なに?」
ジーノに言われ、グレンも辺りを見回す。
すると、地面に転がっている酒瓶の中に比較的新しいものがあったり、いくつかの椅子の上には他と比べても埃がたまっていなかったりと、確かに誰かがいた痕跡を見つけられた。
「野盗が住み着いたか?」
「ん~まぁ、あり得なくは無いッスね。こういった場所は拠点としては最適ッスから」
「なら、確認――ッ、誰か来たな……」
扉の向こうから、誰かの話し声が聞こえてきた。
グレンたちが部屋の隅にある物陰へと身を潜めると同時に、扉が開いて複数の男たちが室内に入ってきた。
「ったく、何だったんだよ。さっきの音」
「門が開閉した音だったと思うが……」
「一体、誰が――ッお、おい!」
「へ? ――ぐはぁッ!?」
「なッ!? だれだ、てめぇ!?」
「――がはッ!?」
男たちが喋っている途中で、物陰から飛び出したグレンとグレッタが奇襲をかける。
死角から突然、攻撃されたことで、男たちは訳も分からない様子で次々と殴り倒されていく。
「……よし、今のが最後か?」
「ああ、他にはいないね」
素早く男たちの意識を刈り取った二人は、他に誰かいないかを確認するが、周囲に人影はなかった。
「こいつら、野盗か? 雰囲気が一般人じゃねぇから、とりあえず攻撃したが……」
「いや、そんな判断で攻撃したのかい? こいつらの腕に理想郷のマークが刻まれているだろう……」
呆れた様子でグレッタが倒れた男の腕を持ち上げると、そこには三日月と歪んだ瞳がはっきりと刻まれていた。
「つまり、この砦は彼らの拠点だったってことッスか」
「そうなるな。他にもいるかもしれんから、ちょっと見回ってくるわ。お前たちはここで休憩してていいぞ」
そう言ってグレンは部屋を出て砦内の見回りに向かった。
「……で、何でお前はついてきたんだよ?」
砦内の安全を確保しに別行動をしたグレンだったが、後ろをついてきたジーノに声をかける。
「いやいや、せっかく敵の拠点に侵入したんスよ? だったら少しでも情報を集めた方がいいじゃないッスか」
「……で、本音は?」
「たぶん、こいつら商人から奪った荷物や金をここに集めてると思うんスよ。組織が大きい程、金がいるッスからね。それを回収したいッス」
「だと思ったよ」
相変わらずの強欲さに、もはや慣れを感じ始めているグレン。
近くの扉を開けて部屋の中を覗くと、そこは食堂だった。
数十人が一度に食事できるように部屋には長テーブルが並べられ、壁には明かりとして燭台が設置されているが、火が点いているのは僅かだったため、部屋はかなり薄暗かった。
特に誰かがいる気配もなく、そのまま部屋の中に入ったグレンだったが、ふと違和感に気づく。
「……」
「ん? どうしたッスか?」
「いや、誰かに見られているような気が……」
「え? 今っスか?」
キョロキョロと部屋の中を見渡すジーノだったが、特に異変を見つけられずに首を傾げる。
だが、グレンは足を止め、剣の柄に手を添える。
腰を落として重心を安定させると、いつでも斬りかかれるように気を研ぎ澄ませる。
すると――
――ヒュンッッ!!!!
「――っ!!」
どこからともなく、ジーノに向かってナイフが投げ込まれる。
瞬時に反応したグレンが剣を抜くと同時にそのままの勢いでナイフを弾き飛ばした。
「うわッ、何っスか!?」
狙われたジーノが遅れて、反応した。
目の前でナイフが弾かれ、それが地面に突き刺さったところで、ようやく状況を理解する。
いつの間にか殺されかけていたことに冷や汗をかいていると――
「……残念」
『――ッ!?』
突如、食堂の暗がりから浮かび上がるように一人の女が姿を現した。
光を感じさせない黒曜石のような瞳。
肩まで伸ばした黒髪が風に揺れ、さらには全身を包む真っ黒な外套が女の身体を暗闇と同化させていた。
「あの美人さん。どっから出てきたッスか?」
「分からん。いつの間にかそこにいた……」
一切の気配を感じさせないまま目の前に現れた黒い女。
新たな刺客を前に二人は警戒を強めた。




