表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

心臓のストックは切らさないようにしましょう

お久しぶりです。しろねこです。にゃにゃにゃ。

 とある病室のベッドの上で、静は寝かされていた。

 先程までフィリスの攻撃をまともに喰らい気絶しており、たった今目覚めたところだ。

 部屋はすっかり暗くなっていて、既に夜になっていることが分かる。


 ん……。


 ここは……ベッドの上か。



 静は目覚めたばかりなので、まだ頭がうまく機能していなかったが。なんとなく自分がどんな状況にあるのか予想できた。



 あの後気絶して、ここの病院の人に今寝かされている?


 ……まったく、酷いことをしてくれるなぁ。病院の治療費だって仕事無しの僕にはキツいのになぁ。



 静は今、仕事といえる仕事をしておらず今までの貯金を切り崩してなんとか暮らしている状況だ。

 そんなところへさらに入院費というお金が飛んで行く……。


 死活問題なのに間違いは無いだろう。


 しかし静は


 親に心配をかけたくないし、生活が落ち着くまでは何も言わないでおきたい。――と思っているので、親に助けを求めるなんて事はできないらしい。


 そんな静だったが、ふとある事に気がついた。


 ……あれ?そういえば点滴とか、包帯とか巻かれてる感覚が無いな。


 ただ気絶していただけだからかな?



 静はとくに気にしていない様子だったが。

 なんだったら、


 ……どうせならもっと寝ておこう。気絶して寝たって疲れが取れるわけではない。治療費だって払う事になるんだから、このふかふかなベットを満喫せねば。



 とまで考えていた。


 実際静はその言葉通り、寝返りをうち完全に脱力してリラックスしていた。


 そんな時、背中に何か柔らかいものがあたった。

 それだけでない、後ろから腕をまわされ抱きつかれたのだ。


 突然起きたありえない状況に静は思わず


「はっ!?な、何事ッ!」


 と、どこかの侍のような声をあげたのだった。

 さらに、同時に未だ気絶した反動で活性化していない脳のせいで思考が追いついていなかった。


 いつもの静ならば、見なくともこの状況だけで全てが分かるのだが、残念ながら今は頭が回っていない状態。

 静は何が起きたのか確認するべく後ろを向いた。



 考えれば分かる事だったのだ。

 胸が当たるほど近い距離、そんな状態で後ろを振り向いてしまえばどうなるか……


 考えられる最悪の状況……にはならなかったが、今二人の間の距離は1センチにも満たない。


 静の頬にはフィリスの息があたり、寝息も鮮明に聞こえた。


「なっ……やばいっ!」


 静はまた気絶させられるなんて事にはなりたくないと思い、咄嗟に元の体制に戻った。


 不幸中の幸いかフィリスに起きる様子は無い。


「はぁ……」


 それが分かった頃静はほっと胸を撫で下ろしていた。



 ……もう、やだ。


 一体僕が何をしたっていうんだよ……。ありえないでしょ。本当になんでフィリスが一緒のベッドにいるの!?


 静は自分の境遇に文句を言っていた。

 ポジティブに捉えれば、それくらいの元気はあるという事だ。


 静はしばらく文句を言っていたが、だんだん落ち着いてくると


 ……天然、かぁ。


 と、結論を出した。



 いや、ただ単にそういう感じの事を知らないってだけなのかもしれない。……まったく、これじゃ心臓が何個あっても足りないよ。


 ……しかも寝れない。こんな状況で寝れる訳がない。



 静の心臓の鼓動はいつもと比べるとかなり速かった。

 自分の心臓の音がうるさいなんて事本当にあったんだな。なんて静は考えつつ、深呼吸をして息と心臓の鼓動を整えた。



 それから朝までフィリスが起きる事は無かったが、逆に静が眠れる事は無かった。



 ◇ ◇ ◇



 次の日の朝、だいたい六時ごろ


「静、おきて〜〜」


 と、いいながら静を揺さぶるフィリスがいた。


 揺さぶられている静はというと、ぐったりとベッドの上で横になっていた。


 因みに彼は起きている。


「やめっ、もう……だから……やめて……」


 あれだけ徹夜に慣れていると言っていた静がぐったりしている。それには色々と訳があった。


 まず、フィリスに気絶させられた事だ。


 気絶している間体力が戻っていく……訳がなかった。

 気絶状態が治っても体力は戻らないし、睡眠とは違うので疲れも残る。


 さらに、静の場合、昨日はフィリスのせいで寝れていない。……なんだったら心も体もくたくたになってしまった。



 そんな理由から彼はとても、すごく、むっちゃ疲れている。

 しかし、フィリスはそんな事知る由もない。


 なので、


「しずー、起きてよーー」


 と、静の体を揺さぶって起こそうとしている。

 静はそれに対し、


「おっ、おきてる……から、やめて……」


 と言うがどうやらフィリスには届いていない様だ。



 不幸だ……。


 彼は心の中でそう呟いた。



 この行為、どこが問題なのかと言うと静の疲労がさらに蓄積されるという点もそうだが……フィリスの揺さぶる強さが異常なのである。


 フィリスも静を気絶させてしまったあの一件から力加減には気をつけるようにしている、が。

 抑えても、残念ながらその揺さぶりは軽いジェットコースターに乗っている時くらいのものにどうしてもなってしまう。


 つまり、彼の体は疲労、揺れ、フィリスの天然という三つが揃ってツモりました。お疲れ様です。


「やめ……」

「しずーー」


 フィリスは静が全く起きないのを見て、さらに揺さぶりを強くするが……それにより静の体調も悪くなっていく。


 これ以上はまずいと思った静は最後の力を振り絞り


「起きてるから!!やめて!」


 と、叫んだ。

 その叫びはやっとフィリスの耳に入り、フィリスは揺さぶる事をやめた。


「おはよう、静!」


 そして、替わりに笑顔でそう言うのだった。

 そんなフィリスに静は一つ質問をぶつけてみる。


「ねぇ……失礼だけど、もしかしてフィリスって耳が悪かったりする?」


 その質問にフィリスは少し頬を膨らませて


「何をぉ、私は魔族だから人間と比べると五感は強いですよ!ピンポイントで見たり聞いたりできないから普段は力に制限かけているんだけど……それでも人間の平均よりはいいはず!」


 と言った。


 しかし、静からしたら平均より下じゃない?と言う感じなのだが、これには理由があった。


 フィリスは大量出血をして病院へ運ばれた。そこでフィリスの事を魔族だなんて知らなかった病院の人は彼女に輸血をする。つまり、人間の血が混じるということ。

 ……今フィリスは魔族と人間の成分が変に混じった状態になっている。そして、その歪な状態が彼女の能力を低下させているのだ。


 そしてそれにはその歪な状態が酷くなる周期の様なものが存在しており、今はその能力の低下が著しくあらわれている。


 ……といっても彼女が人間の血を上手く順応させられた時に元に戻るので一時的なものではあるのだが。



「まぁ、いいか。……ところで、フィリスはここにいるの?」


 静が前々から気になっていたこと。……何故フィリスはここにいるのかという事。


「……え?私の病室だからだけど」

「え?」


 その答えは思いもよらぬものだった。


 ……ここがフィリスの病室って事は僕がフィリスに自分の病室からここへ運ばれた?


 いや……もしかして。


 静の頭にはある一つの考えがあった。


「もしかして、気絶した僕を病院の人に内緒でフィリスのベッドに運んだ?」

「ん。それがどうかしたの?」


 ……やっぱり、僕病院のひとに内緒でここにいることになってしまっている!


「はぁ……まぁ色々とまずいことだらけだけど、寝かせてくれたのはありがとう」

「……どういたしまして?」


 ……まぁ、いいか。よくないけど。


 ていうか僕フィリスの親族の連絡先を聞いてこいって言われていたんだった。

 いや、それは結局無理な事だったわけだけど。

 だって、フィリスは異世界から来た魔族な訳だし。親族の方も……だしね。

 まぁ、病院の人には異世界から来たなんていったらどうせ面倒くさくなるだけだから、言わないで説明するのがいいのかな?



 あれ、そういえばフィリスってこれからどうするんだろうか?


「ねぇ、フィリスはこれからどうするの?」


 ……異世界から来たフィリスは行く当てなど無い。フィリス自身は生きていければそれでいいと思っているが、実際食べ物も寝る場所のあては何もないというのが現状なのでこのままでは生きていけない事は確かだ。


 静はそう考えて言ったのだが、フィリスは


「ん?聞こえないよ、静。さては起きたばかりだからといっていつもより声を小さくしてるな。ダメだよ、眠い朝だからこそ元気を出していかないと!」

「……いや、僕はいつも通りだけど?……って聞こえないのか」


 静はフィリス先程よりも多少近づいて話すことにした。


 耳が聞こえなくなった訳でもなさそうだし、単に聴力の低下なのだろう。

 沢山の血を失っていたし、そういう事もあるのかな?……でも、昨日は普通だったんだけどなぁ。


「なら聴力をもう少し抑えすぎないようにしたらいいんじゃない?」

「静がそういうなら、分かった」


 フィリスはいつもより少し出す力を多くしてみた。


「静、話してみて?」

「どう、聞こえる?」

「おー、ばっちし!」


 力を少し解放するといつも通り聞こえるようになった。


「……ねぇフィリス、これから行くあてとかあるの?」


 静はフィリスがちゃんと聞けるようになったのでさっき聞きたかったことをもう一度口に出す。


「ない!」


 フィリスはそうやってやけに自信ありげに即答した。


 ……静にはフィリスの実力がまだ全て伝わっていないので分からないが、彼女には余裕で何年も暮らしていける力があった。……文字通り野生児フィリスになることによってサバイバルして暮らしていける力があるのだ。


 しかし、そんな事を静が知るはずもないので


「そりゃそうだよね。……里親とか募集して誰かに引き取ってもらうしかないのかな?」


 と、言った。

 静からしたら助けた少女を放っておくことはできないので、誰かに引き取ってもらいたいと思っていた。


 が、フィリスには里親と言うものは何のことなのかよく分からなかったが、「誰かに引き取ってもらうしかないか」と静が言うのを聞いて目を輝かせた。


 そして


「引き取ってもらうなら静がいいな!」


 と、笑顔で言った。


「そ、そう?」

「うん、この世界の事を色々知りたいし、この世界で信用できる人が静しかいないっていうのもあるけど……静の事が大好きだから!」



 はっ……!?


 静はフィリスの言葉を聞いて固まった。



 口説き文句みたいなのを言われた!?……多分本人にはそういう自覚は無いんだろうけど。

 本当にフィリスと過ごしているとちょっと心臓に悪い。――――楽しい、けどさ。



 ――あの頃と比べると随分と笑うようになったな、笑顔も増えたなと正直思う様にはなった。でも、それがいい事なのか自分では分からない。

 あの頃の事を忘れて笑っていていていいのかと言ったら、それはダメだと思う。あの頃の事を忘れない様にして気をつけて生きていくのがきっと一番いい事なんだろうけど、僕にはそれができない。

 皆を見殺しにしてしまったという罪悪感がそれを許さない。


 それにこの先フィリスと過ごすことになるという事は、その『楽しい』が増えるという事。

 そしてそれが果たしていい事なのかは分からない。


 ――でも、そんなの勝手すぎるか。


 僕の勝手にフィリスを巻き込むなんて事は、もっとダメな事だよね。



 そうなると一番の問題は金銭的な問題。

 貯金を切り崩して生活している僕には二人暮らしというのはなかなかにキツいものだ。

 まぁ、少しは今しているコンビニのバイトで少しは補えるし、仕事を見つけられればいいことか。



 はぁ、ダメだと言う理由が無い。


 フィリスを引き取ることに「ダメ」と言うことができなくなってしまった静は呟くように言った。


「……本当に僕でいいの?世の中には僕よりもっといい人いると思うよ?」


 それに対していつも通り、フィリスは答えた。


「いいの、私の眼中には静しかいないから!」


 と。


 本当は狙って言っているんじゃないか?という疑いを隠せない静だったが、


 まずはともかくフィリスに言わなきゃならない事を言うことにした。



 すこし恥ずかしいけど……これから一緒に過ごすなら大切な事だよね。


「……これからよろしくね、フィリス」

「ん、こちらこそよろしくね!」


 ……心臓が何個あっても足りないような生活も、人生長いし悪くはない、かな。



 …………いや、心臓に悪い生活は普通に問題ありだけどね!?

ここまでお読み下さりありがとうございます!


お時間あれば下のリンクから試作的に作られた短編小説でも読んでいただけると作者が喜びます……


▽神様の子供達(上)▽

https://ncode.syosetu.com/n5689hp/


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ