英雄の休日5
5
ファミレスを出て歩き続けること五分、俺の頭は冷静さを取り戻していた。
感情を爆発させてその場から逃げ出すという、高校二年生にあるまじき行動をとった後悔に襲われていた。
今すぐ戻ってしょうもない言い訳で取り繕うかと思ったが、その前に携帯ショップによって用事を済ませてから戻るべきだと判断した。
普通の高校生なら一人で複数の携帯を持つのはなかなかレアであるが、俺はすでに三台所持している。
つまりこれから契約するクオンのものは四台目ということになる。
なぜこんなにお金があるのかと言われれば、それは、外国にいる父が毎月仕送りしてくるからだ。
その金額は、恐らく成人男性の平均月収よりも多い。
これを聞いたとき多くの人は羨ましいと思うだろう。しかしそれは違う。
冷静に考えてみてほしい。まだ高校生の息子を一人で放置している挙句、日本に帰ってくることはほとんどないし手紙やメールもない。
つまりこの仕送りは手切れ金ということだ。
これだけ潤沢な資金を渡せば金銭面で困ることはない。
だからこちらにかかわるな、こちらも関わらない、という意思表明だ。
十代の子供に、莫大なお小遣いと親の愛情のどちらが必要かなんて不毛な議論をするつもりはない。
もちろん自暴自棄になって無駄遣いしたこともあったが、無意味さに気づく。
その後自分一人でだれにも頼らずゼロから何かできないか考えたりもした。
しかし、たった八十年で何ができる
人類は、皆等しく十字架を背負って生まれてくる。
今まで人類が残してきた何千年分の歴史、いわば縦のつながりと
今生きている人々が形成している社会という横のつながり
人々はこの十字架からは逃れられない
つまりこの世界に生まれた時点で、一人で何かを成し遂げることなどできるわけがない・・・
・・・
「・・・さm・・・」
「お客様―」
店員の呼びかけで思考の世界から呼び戻された
「すいません。ここは、カタカナ表記でお願いします」
そうだ今はスマホの契約書を描いてる途中だった。
どうやらカタカナで記名するところに漢字で記名してしまったらしい。
なんやかんやで手続きに二時間近くもかかってしまった。
恐らく紅依奈たちはもうファミレスにいないだろう。
電話で現在位置を、確認するか…。
「「もしもし紅依奈。今どこにいる?」」
「「今二階の雑貨屋の前にいるけど…」」
ここから歩いて数十メートル先か…
「「じゃ今からそっち行くから」」
ピッ
電源を切り数歩歩くと紅依奈たちの姿が見えてきた。
しかし平和すぎないか…
世界の危機が聞いてあきれる。
まあラノベだとこういう大きな道がある、ショッピングモールや商店街で派手なバトルが起きるんだよな。
まさかな。そんなこと起きるわけ。
ゴゴゴゴ
地鳴りか?
いや地面が揺れている…
これは地震だ。まさか…フラグ回収早すぎるだろ。
モール内の照明や装飾が天井から剥がれて落下している。
まずいどうしたらいい…
このまま前方向に走ってクオンたちと合流するのがいいのか、それとも回れ右して入り口から屋外に出るか、どちらが安全か。
いやこの場合ただの自然災害である確率は低い、ならクオンと合流するほうが安全だ。
合流するため意を決して走り出す。
あと三メートルというところで紅依奈が叫んだ。
「上っー」
突然の絶叫に驚き足を止めて、上を見てしまった。
天井が崩れ落下してきている。
しまった足を止めるべきじゃなかった。
欠片が目の前に
ダメだ・・
死ぬ




