英雄の休日3
3
俺も紅依奈が言うように訳が分からなくなり始めたし、このままだと話が終わるのが先かショッピングモールの反対側の入り口につくのが先かわからない。
「じゃあ、クオン早速使ってよ。」
そう実際の原理なんかどうでもいいのだ。
なぜなら俺が魔法が使えるようになるわけでないなら重要なのは、使えるという結果だけだからな。
クオンが、したり顔で先ほど召喚した指輪を右手人差し指につけた。
紅依奈と共にクオンの顔を凝視しているが変化する様子がない。
「うん・・まごうことなきイケメンのままだよね・・」
彼女が言う通りイケメンのままだ。
なんだ魔法なんてなかったのか・・いや感じる視線が明らかに減った。
すると俺の驚きの表情を読み取ったのだろうか、イケメンのままの口が動いた。
「この魔法は、一定以上の距離離れていると認識されなくなるんだよ」
なるほど容姿は変わらないのか・・・
「いやーすごいよっクオン君!」
どうやら一回離れて確認して戻ってきたらしい紅衣奈が叫んでいる。
それはいいが大声を出すなよ最初以上に視線が集まっちゃってるからな?
「まさかこんな道具が、町で役に立つとは思わなかったよ。」
「いままでの世界では、あまり使わなかったのか?」
「まあ隠密活動で使うことはあったけど、その機会自体少なかったしなー」
確かに英雄に隠密活動は似合わないか・・・
しかし面倒な客引きを避けるとか利点も結構ありそうなアイテムだけどな。
その疑問の答えは数分後に解けた。
「じゃあ、まずは服から見ようよ」
紅依奈が、俺とクオンの腕を引っ張って店に入った。
どうやら男性用衣類店のようだが、看板を読んでも、店名が分からない。
フランス語っぽい雰囲気だが読めない
そこまでは衣類に詳しくないのでもしかしたら有名店かもしれないが、価格帯や、ほとんどの商品に会社のロゴが入ってないところを見ると、恐らく高級ブランド店ではないだろう。
恐らくクオンの服は、俺が買うことになるので安いに越したことはない。
紅依奈がいろんなシャツを見てクオンに何を着せるか真剣に悩んでるのに対し、クオンも店内で何かを探しているようだが、彼にこの世界の服の良し悪しが分かるのだろうか?
クオンがレジの並んでる列しかない方向に歩いていく。
紅依奈のもとに連れ戻そうと呼び戻そうとすると、
「この店のおすすめの服ってどれ?」
クオンがレジ担当の女性店員に横から話しかけている。
レジの仕事してるのは知識がなくてもわかるだろ。
そもそも服の店でその聞き方じゃ要領を得ないだろう。ファッションなんてはやりはすぐ変わるし、人によって似あう似合わないもある。
やっぱり連れ戻したほうがいいなこれは・・・
しかし女性店員は、顔を赤らめながら
「じゃあ、私が選びましょうか。」
と返している。
いや名もしれぬ女性店員さんそれは、愚策でしょう。
そこまで大きいテナントスペースではないがレジ台は二つあるし、そして一つのレジに二人の店員がいるスタイルだ。
お昼前ということもあり、午後別の用事がある人や、昼食をだべたいひとなどでレジが小混雑しているときに、一人置いて出てくるだと・・・
せめて別の店員をレジに呼んだりしたほうがいいのでは?
ほら残されたおっさん店員一人で滅茶苦茶頑張ってるじゃん!
だが明らかに回転率は落ちてしまっている。
しかしクオンのほうに、ついていった女性店員は、一切悪びれる様子もなく、いわゆるメスの顔でクオンの服を選んでいる。
なるほどクオンがひごろから指輪を付けてこなかった理由はこれか…
確かにあんな絶世のイケメンが自分を頼ってきたら皆ああなるか・・・
突然飛ばされた異世界で貨幣経済が発展したら、まずその貨幣を手に入れなきゃいけなくなる。
イケメンならサービスされ放題で心配なしってことか…
イケメンのメリットとデメリットを考え、メリットを取ったのか。
つまるところここでの俺の役目はないな。店の外で待ってるか。
・・・数分後・・・
服屋の紙袋を両手に下げて紅依奈とクオンが店から出てきた。
するとクオンがこちらに近づいてきて耳元でささやいた。
「英雄はイケメンのほうが向いてるだろ?」
不意にも同性にドキッとしてしまった自分が憎い。
両手に紙袋を下げているクオンの対し、
「その服は全部サービスで貰ったのか?」
と尋ねると、
「これだよこれ」
と言って何か見せてきた。
クオンが右手に持ってるのは・・黄金の小槌だ。
もうこのチート持ち何でもありじゃん・・・