凡人と天才
今度こそ鋒が自らの体を貫く、その確信が死のイメージを想起させ体を強張らせる。
いや迫り来る鋒を避ける必要はない。致命傷さえ避ければいい。
ほんの少し自分の肉体の正中線からずらせばいいだけだ。
俺は迫り来る鋒を持った敵の手に自分の左拳をぶつけ右にずらす。
予想通りに軌道がはずれて、剣は俺の右肩につきさった。
鋭い痛みが俺の肩を襲い、思わず顔を歪ませる。
しかしこの好機を逃したら次はないと思い、先刻の拳の衝撃が残る左手で覆い被さっている兵士の頭を掴む。
俺は、もがきながら突き立てた剣をさらに捻り痛みを与えてくる兵士を必死で抑えながら右手に持っていた剣を一度地面に置き柄を握る。
自分の体で抑えるようにして、何とか鞘から抜き放つとそのまま兵士に突き立てる。
兵士はそれを避けようともがくが、抵抗も虚しく俺の剣は彼の左脇腹に刺さる。
しかし彼は動じるどころかむしろ冷静にもがくのを止め、俺の右肩に刺した剣を無理やり上に切り上げる。
すると力を込めていたはずの右手から力が抜け剣を落としてしまう。
それを確認した兵士は俺の左手を振り払い、俺から一定の距離を取った。
それを受けて俺も立ち上がるが、右腕は辛うじてくっついているがピクリとも動かせない。
そんな俺の様子を見て
「もう勝負はついただろう。その傷では剣を握れまい。
早く止血して城に帰るんだな。
エリュテイア様なら治療できるだろう」
そう言って彼は自らの服を破いて俺の傷を止血しようと近づいてくる。
そんな彼を無視して俺は左手で剣を拾う。
そんな俺を見た彼は哀れみの表情浮かべる。
「もうやめろ。分かっただろう。ここに居るのは、自らの振るう剣に魂を持つもの達だ。
見ただけでわかる。剣も振るったこともない、人を殺したこともない、そんな者にそれ以上戦場を汚してほしくない」
その言葉を聞いた俺は怒りに任せて辛うじて繋がっていた右肩を自らの剣で切り落とした。
その奇行に驚き動揺している兵士に言い放つ。
「人なら殺したことくらいあるさ。
誰にでも存在する、生まれてから一番最初に対面したであろう愛しい人。
俺はこの手で自らの母親を殺したことがある」
そう俺は殺した、自分の母親を……
階段から突き落とした。
そういえば誰もが取っ組み合いになった末母親が足を踏み外した。そう言うシナリオを想像するだろう。
違う俺はあの時も今みたいに、怒りに支配されながらも冷静だった。
口うるさい母親に苛立つという思春期にありがちなこと。
そして俺はこの母親を最速で確実に黙らせる方法として、彼女を突き落とした。
彼女が意識が朦朧とした中で自ら転んだと言ったのか、何があったのかわからないが俺は罪に問われることはなく。
結果として俺の殺人は最適な方法だということしかわからなかった。
法が俺を罪に問わなかった。
そして父でさえ俺を罪に問わなかった。むしろ賞賛した。
お前はそのままでいいと。これからも努力し力をつけ最適解を最速で見つけられる、天才の道を歩めと……




