戦斧の追憶3
次期皇帝になることが約束された、ゲール国の皇太子が国の法律を犯し両手が動かなくなっているなどということが周りに知れれば、この国が根本から揺らぐ。
そんな恐怖から俺は誰にも相談できず、ひたすらに隠し続けた。
しかし、それと同時に隠しきれないことも悟っていた俺はこの両手を治す方法を探し続けた。
しかしマナに細胞を侵された肉体の部位は徐々に結晶化し、最後には完全にマナの結晶体になる。
その危険性を示した文献は数多存在するが、その回復方法は一切載っていない。
恐らくこの世界でそれを克服できたものは存在しないのだ。
それでもなんとかしなければならない、俺は様々な重圧に押し潰されそうになりながらも解決策を見つけようともがいた。
あくる日大図書室の隅で埃を被った本を見つける。
毎日清掃され床や机まで輝くほど磨かれている清掃の行き届いた図書室。
当然本の管理も万全で、埃などが積もっているのはみたことがない。その証拠にその本の両横の本には一切埃が積もっていなかった。
不思議とその本に惹かれた俺はその本を大図書室から持ち出し、読み込む。
見るからに表紙は日光により退色し、地に使われてる紙も経年劣化で今にも破れそうだ。
使われている文字も見たこともないもので、この国で大昔に使われていたものでもない。
しかし一つ不思議だったのが、見たこともない文字であるにも関わらず、その文字の意味を理解できたことだ。
本には見たこともない魔法や暗黒術、神話について記されていた。
その中にはいくつか腕を治す方法が載っていたが、どれも魔法ばかりであった。
かつてこの世界では、すべての人間が魔法を使えるとされていたが、今となっては魔法が使えるのはロート国の王族だけであって、当然俺も使えない。
落胆し肩を落とす俺の目に入ってきたのは、暗黒術の項目。
魔法のようにエネルギーを消費し直接結果を引き起こすのではなく、エネルギーで召喚した物体と取引して結果を導くのが暗黒術。
様々ある術の中から一つ腕の治療に関わりそうなものがあった。
それは悪魔を召喚して、その悪魔が望むものを与える代わりに悪魔も望みを一つ叶える、というものだった。
混迷を極めていた俺にとって、その暗黒術は一筋の光明であり、迷うことなくその本に記したある手順で悪魔を召喚した。
しかしそこに現れたのは悪魔とは形容し難いほど美し容姿を持つ黒髪の少年、クオンだった。
彼は私の願いを聞くや否や、謎の錫杖をで俺の腕を叩いた。
するとたちまち俺の腕は陶器のような無機質なものから、以前のような血の通う肌色に戻った。
俺は喜ぶ気持ちを抑えて、恐る恐る彼に対価を尋ねた。
しかし彼は答えず、さらに俺に問いかけてきた「強くなりたくはないか?」と。
だから俺はその誘いに乗った。アスールを超えるために……」
そこまで一息で話したアスフィルは一旦呼吸を落ち着かせてから付け加える。
「あとは、アスールやエリーから聞いた通りだよ。そのままクオンは世界を救って消えた。
この俺に力を残したままな……」
俺は数分ぶりに口を開く。
「つまりクオンの望みは俺らに力を与えたその先にあるってことか?」
「そういうことだろうな。
そしてその望みを俺は叶えることが出来なかった」
「話してくれてありがとうアスフィル。何か答えに辿り着けそうな気がするよ」
「あぁじゃあ、また明日の朝な」
そう言ってアスフィルは隣の部屋に戻っていった。
俺は一人残った部屋でクオンの望みについて考える。
俺と紅衣奈がクオンに提案されたのは、共に戦うことだ。
彼自身も何度も世界を渡り世界を救ってきたと発言していた。
最も気になる点は、クオンはこの世界に来た理由が世界救済ではないという点。
そこで俺はクオンのある発言を思い出した。
そういえば彼は「始まりは忘れた」と発言していた。
つまりクオンのいう世界救済は白い騎士たちとの戦いであること。
そして恐らく世界救済の形は2パターンに分けられる。
既に敵に攻撃されている世界を救う場合と、敵が来るのを待ちそれから戦う場合だ。
しかし後者の場合なぜ来るとわかる?何千年も待つのか?
まぁ考えられる可能性としては、敵は無限に等しい兵力を有し、ほぼすべての世界に敵として送り込めること。
もう一つは……
俺はその可能性の恐ろしさに思わず唾を飲む。
もう一つは……クオンに引き寄せられるもしくは、彼目当てで異世界を廻っているという可能性……
もしそうなら一体クオンは何を望んでる?
前者の可能性なら単純な戦力としての助力で済む話だが、後者なら一体俺たちを強くした先に何を見ている?
俺は何か底知れない沼に足を踏み入れてしまったような感覚に襲われなかなか寝付けない。
部屋のランプを消し真っ暗な天井を見上げても眠れそうにない。
むしろその暗闇が、暗にクオンを表現しているようにすら感じる。
暗闇に恐怖を感じるという、根源的であり、幼児的とも取れる衝動から、結局空が白けるまで目を閉じることすらできなかった。




