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少女の嘘

「嘘をつく」という行為に対する善悪の考えなんて、今まで人類が誕生した時から幾度となく考えられてきた議題だろう。


 しかし私はあえて断言する。


「嘘は悪である」と……


 ——————————————————


 私=大鷲紡葉は、聡い幼児だったらしい。


 それに加え私は人の《嘘》に敏感だった。


 小さい頃から、子供がつく《些細な嘘》も大人がつく《醜い嘘》もすぐに見抜いてしまう。


 同世代の友達からは煙たがられ、大人たちには気持ち悪がられた。


 いやそんなふうに言えば私が悲劇のヒロインのように映るかもしれないが、それは違う。


 私は、私で嘘をつく人間を嫌っていた。


 自らの利益のため現実を捻じ曲げて他者に伝えるという醜悪な行為にはどうしても容認し難いものがあった。


 《嘘》をつかないこと=正直であることが大事かどうかじゃない。真実を知れば傷つくこともある。


 だが《嘘》という現実を捻じ曲げる行為は悪だと断じることはできる。


 真実を伝えてどうなるか以前の問題として、《嘘》という悪行を犯す。


 《嘘》が真実より優しい結末をもたらすことがあっても《優しい嘘》は存在しない……そういうことだ。


 私は多くの人間に嫌われ続けた。しかし数は少ないとしても友と呼べる人にも出会えたこともまた事実だ。


 《嘘》をつかず真っ直ぐに生きようとする人間。そんな人達だけで私の周りの世界は構成されていた。



 そんな中、私はある男子と出会う。


 たまたま同じ部活になった関谷陵魔という少年。


 彼の言葉は《嘘》ばかりだ。口から出てくる言葉のほぼ全てが《嘘》とも取れる。


 そのあまりの醜さに吐き気すら覚えたわたしだったが、一つ不思議だったのは彼がつく《嘘》は全て自分を蔑むものだったことだ。


 《嘘》をつくとこは自分の利益——つまるところより良い結果を不正に導くための悪行だと断じていた私は、彼に対して不審感を覚える。


 だから部活で彼が《嘘》をつくたび注意し、《嘘》を否定し続ける。


 そんな日々を繰り返していくごとに彼は私の前で《嘘》をつくことはなくなっていった。


 彼の表情は以前の作り笑いと比べ乏しいものとなってしまったが、そんな彼の顔は充足したように見える。


 かくいう私も嘘のない時間を二人で共有できることに幸福感を感じ始めていた。


 あくる日のこと、いつものように部活に行き幸福な時間を過ごした。


 何となくそのまま帰りたくなくて、その日は偶然にも彼がいつも帰ってる幼馴染が校門前にいなかった。


 私は彼を一緒に帰えらないかと誘い、彼もいつも通りの無感情で快諾する。


 何気ないやりとり……


 互いの腹の探り合いを必要としない真実のやりとりは時々話すことがなくなり無言になる。しかしまたどちらかが喋り出すという不規則なリズムで奏でられる。


 そんなやりとりの中、私はふと自分の気持ちを吐露してしまう。


「じゃあ私と付き合わない」


 彼は驚いたような表情を浮かべて聞き返してくるので、私はもう一度気持ちを言葉にした。


「だから、私と付き合ってよ」


「いいよ」


 私は彼の返答が聞こえているのに、嬉しくて聞き返してしまう。


「本当に?」


「また下校に付き合うよ。時間が合えばだけど」


 そこまで言葉にされてようやく私は気付いた。


 彼の顔に作り笑いが貼られいることに。


 それと同時に悲しくもあった。


 自分を卑下する嘘をつき続けていた彼は、私と出会い嘘をつかなくなっていった。


 そんな彼が初めて誰かのために嘘をついた。


 誰でもない私を傷つけないために。


 だから私も《嘘》という悪行を働こう。


 自分でも吐き気がするほどの作り笑いで、上ずるほどの陽気な高い声で呟く。


「じゃあね」


 そんな私のはじめての嘘は胸が張り裂けるほど苦しく、切なく、醜かった。




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