凡人の功罪
門(正確には門の横の扉)を出て数分間歩くと巨大な建造物が見えてきた。
その建物は一見イタリアにあるあの闘技場のようにも見えるが、屋根の骨組みのようなものが少し残っていることからドーム型の施設だったのだろう。
入口という入り口は崩壊しており、探した結果一つだけ無事なものがあったのでそこから入場する。
中も想像通りの構造をしており中心から数十メートルの円形状の砂場そしてその同心円状に観客席がある。
「お前何か武器を持っているか?」
「何も持ってない」
俺の返答を聞くとアスールは背中につけた長剣を地面に置きさらに鉄製の籠手も外し、指をポキポキと鳴らしながらルールを述べる。
「ルールは簡単だ。どちらかが死ぬ直前まで行ったらそこで終了」
死ぬ直前?それじゃあ回復してる期間は何も鍛錬できないし、下手したら死ぬこともあり得るだろ。
俺の心の不安を読み取ったのかアスールはさらに説明を加える。
「安心しろ。治療術に関しては、お前らの世界より進んでいる」
「確かにそうかもしれなっッッ」
俺はしゃべってる途中に顎にアッパーをくらい自らの舌を噛みちぎってしまった。
口から大量の血液を流してうずくまる俺を見て、アスールは至って冷静に冷静に話しかける。
「黙ってろよ。少なくともまず強くなろうと思ったら考えるより手が動かないとな。
もしかしてもうギブアップか?ダメなら言えよ。
舌噛みちぎってしゃべれねぇか」
痛い苦しい。
しかし地面に這いつくばって気づく、下唇に当たるジャリジャリとした砂の感触。
そういえば俺は周りの物質を吸収して肉体を再生できる。さらに体積の小さければ小さいものの方が吸収しやすい。
イメージするんだ舌が再生するイメージを…
舌がが再生したのを確認して俺は口内に残った血を啜る。
ジュルルゥ。
「ふんっ。これからだろ」
俺の精一杯の歪なつくり笑顔を見てアスールは、さらに追撃を加えてくる。
右頬、左脇腹、鳩尾上半身を重点的に殴られ、後方に蹴り飛ばされる。
そのまま地面に倒れるが何度やられても同じ、これだけ砂に満ちた場所ならいくらでも再生できる。
「面白いなお前は。だったら今から技を教えてやる。
この世界には空気中に大量にマナが含まれてる。
そしてこの世界の人間の細胞にはそれを吸収し使用できる器官が組み込まれている。
優れたやつは魔法も使えるらしいがな、俺を含め殆ど人間が使えるのはこれだ」
そういうとアスールは拳を堅く握る。全くさっきと同じモーションで殴りかかってきたが拳が放たれた瞬間。
一瞬彼の腕が輝いたかと思うとすでに俺の顔にめり込んでいた。
観客席まで吹き飛ばされる俺にアスールは技の説明を続ける。
「空気中のマナ光エネルギーに変えてから体内に取り込んでいるからこの技は光るらしい。
どうだ効いたか?これなら自分の拳を速く重くできる」
効いてるか?だと。聴こえてるよ……
でもな…俺はこの世界の人間じゃない。
どうしてもその壁を越えられないこれじゃ同じじゃねぇか、元々生まれた世界の決めた体の構造の性能なのか……
観客席で打ちひしがれてる俺を見てアスールはつぶやく。
「ほんと弱いなお前……」
弱い……
ドクンドクン
そうか俺にはクオンから貰った呪いがあるじゃないか…
弱さを否定するための力を求める呪い。
俺は意を決し立ち上がり観客席から降りるとアスールに向かって走り出した。
アスールは特に構える様子もなくただ見つめている。
俺の拳を受けてもなんともならないと思っているんだろう。
クオンからもらった呪いは俺の行動や思考を制限する。
だからこそ、弱さを認めない呪いは俺の限界を超え得る。
走りながら俺はどんどん加速していく。
通常より早く動かした足は、軋むような音で悲鳴をあげている。
俺は拳を引き絞り放った。
放たれた拳はアスールの顔に届く前から自壊し始め俺の腕の皮膚そこらじゅうが裂け血が吹き出す。
そのまま複雑骨折により露出した骨はアズールの顔に突き刺さった。
彼の顔が初めて痛みに歪む。
すぐさま俺は回し蹴りで右後方に飛ばされる。
しかし腕は砂粒を光子にして再生を始める。
俺は無意識に叫んでいた。




