凡人のtea time
敵が撤退したのを視認した後、紅衣奈は持っていた予備の小麦粉を使い、俺の両手を復元させた。
隣に倒れている紡葉を見て一つのことを思い出す。
他に卵にされた人間はどうなったのか…
彼らがいた場所を穴があくほど見つめるが、そこには何もない更地が広がるだけだった。
彼らは特別知り合いだったというわけでもない。そしてこれから生きていく上で二度とか変わることもないだろう。
なぜなら彼らはすでに死んだからだ。
無関係だと割り切ろうとしているにも関わらず、何故かバツの悪さを感じてしまっている俺は、紡葉をお姫様抱っこで持ち上げると、家路についた。
———————————————————
家に着いた俺たち3人組は、クオンが現れた夜のように3人でコの字ソファーに座っていた。
無言で紅茶を飲むクオンに対して質問を投げかけた。
「今回倉庫に現れたドラゴンはショッピングモール現れた奴と、明らかに同じだった。そしてクオン。お前はそいつらについて知っているよな」
クオンは、落ち着いた態度でゆっくりとティーカップ置くとゆっくりと口を開く。
「いくつもの世界を俺は救ってきた。世界が滅びの危機に瀕している原因は、主に2つ。
一つ目は、その世界の住人同士の争いによる荒廃。
もう一つは、異世界からの侵略者だ」
あまりにもファンタジーすぎる話だが、もはや冗談と笑い飛ばすことはできないほど、その現実を目の当たりにしてきた。
さらにクオンは、続ける。
「世界エネルギーが少ないこの世界じゃ空想論に聞こえるかもしれないが、ここよりもっと中心に近い世界なら、様々な世界を渡る術なんかいくらでも存在する」
「中心?」
俺の問いに対してクオンは、筆記用具を持ってくるように要求する。
するとクオンは、シャーペンと蛍光ペンを両手で持ち白紙のB5ノートにいくつもの図を書いていく。
「これを見てくれ」
と言いつつクオンは、一ページ目に書いた幾つかの図のうち、円の形をしたものを指差した。
「この図に書いたように、エネルギーの本流の周りにいくつもの世界が同心円状になんでいる。そして中心に近ければ近いほど多くのエネルギーを有する。そして同じようなエネルギー量を持つ世界は大抵同じ文化レベルまでに成長する。」
クオンの喋っている世界についての概論は概ね理解できる。
実際俺たちが生きるこの世界にも《必要な発明の母》という言葉があるように、限られたエネルギーを効率的に使う目的による技術の発展は、外側の世界の方が発展していると考えて、なんの不都合もない。
熟考する俺を、無視してクオンはさらに話を続ける。
「俺は、かなり中心に近い世界の人間だった。そしていろんな世界を渡り歩きこの世界にたどり着いたわけだ。転移先に《敵》がいる度、何度も《敵》と戦ってきた」
なるほど。クオンの話は理解した。しかし一つ疑問が残る。それは、動機だ。
「クオンはなんで異世界転移を繰り返してるんだ?」
俺の質問に対して、クオンはティーカップを持ち、紅茶を一口飲んでから答えた。
「さぁ?もう随分前のことだからな。お前達の使っている暦に置き換えると体感で4024年25日。始まりはもう忘れたよ……」
そしてまたティーカップに口をつける。
彼が何かを隠しているのは、明白だ。
あえてわかるように誤魔化している、いやここはお茶を濁すと表現しよう。正にクオンはそれを実行していると言っても過言ではない。
俺とクオンが無言でしばらく黙っていると、ここで紅衣奈が初めて口を開く。
「ねぇ、敵とか世界とかややこしいから、呼び方決めようよ」
俺が呆れたように「じゃあ、任せた」というと、紅衣奈はノリノリで先程のノートに単語を書いていく。
「じゃあこれで決定で!!」
そのノートを見ると、
—————————————————
《敵》→《白騎士など》→《リッター》
《世界のエネルギー保有量》→《エネルジア》
《中心》→《ミリュー》
—————————————————
この紅衣奈のネーミングセンスに、数年前の自分を感じながらも、中心だけフランス語か…などと思っている。
このことから自分のネーミングセンスはあまり成長していないのだと思い知らされる。
「なぁこんなの絶対すぐ忘れるぞ。大抵こういう劇中の現象にすぐ固有名詞つけたがる作品は大抵ややこしくて読んでもらえないぞ?俺はすでにお前がつけた銃の名前すら忘れたからな」
ぼやく俺に対して紅衣奈は、「Noahだよ!」と叫んだ。
少しややこしい固有名詞なのでしばらくはルビで表示したいと思います。




