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凡人の蛮勇

 倉庫に侵入した瞬間、驚愕の光景に目を疑う。


 コンクリートで出来た床と壁は、霜が降りたように純白に変わり、入り口から五十メートル先、つまり倉庫の奥の方に高さ二十メートルくらいはありそうな巨大な生物がいる。


 全体像をつかもうと目を凝らす。


 これは…巨大な翼を持つ西洋のドラゴンだ。


 鱗、皮膜、爪、牙、全てが純白で、全身で唯一有色である瞳は、冥海を思わせる深い紺碧。


 その外見から仮に《白竜》とでも名付けようか。


 俺は、右手の銃と左手のエアブラシを強く握り直し、標的を見据える。



 簡単な話だ、エアブラシで小麦粉を噴霧し右手のトリガーを引く。


 それでお終い。ミスしないためにも、なんの駆け引きもない作業だと思って望んだ方がいいだろう。


 俺が意を決してトリガーを引こうとした時、後方から奇怪な音が鳴った。


 《ピロリン♪》


 紅衣奈が動画配信ボタンを押したのだ。


 普段なら気にも留めないはずのその効果音に意識を引っ張られるほど、どうやら俺は緊張していたらしい。


 もう一度、《白竜》の方に振り向くと、顎に謎の光源が発生していることに気づく。


 完全に失念していた。おとぎ話に出てくるドラゴンから最近のファンタジーに出てくるドラゴンそのほとんどが口から炎を吐く。


 どうやらあの《白竜》も例外ではないらしい。


 避けるために右側に走り出す。


 すると《白竜》の白い炎は直線的な軌道で放射された。


 炎のように拡散するわけではなく、どちらかと言えば光線の性質を帯びているようだ。


 先刻自分がいた位置を見ると、コンクリートの床が溶けて歪んでいる。


 おそらくこれを体に浴びれば回復することはできず、蒸発するだろう。


 今の状況は、まるで20世紀末に流行った縦スクロールシューティングゲームだ。


 一度でも相手の攻撃に当たれば、ゲームオーバー、全ての攻撃を避けながら相手を撃破することが勝利条件。


 しかし問題が一つある。


 それは、左手のエアブラシが一度に噴霧できる小麦粉の量は限りがあるということだ。


 この銃で、《白竜》の頭部を破壊できるほどの威力を放出するには、最低でも10秒は小麦粉を噴出し続けなければならない。


 しかも《白竜》の攻撃は、光と熱エネルギーの移動であり、着弾した床などは溶けるため粉末にならないため、銃では吸収しにくい。


 床に伏せ、片腕と一部のコンクリートを利用してもいいが、遠距離火力を持つ相手の前で寝転ぶことは言うまでもなく死に直結するだろう。


 つまり考えられる方法は、一つ。


 避けながら倉庫内を縦横無尽に走り続けある一箇所を通り過ぎるたびに小麦粉を噴射する。

 ↓

 それを繰り返しある一箇所に小麦粉集めていく。

 ↓

 そして撃つ。


 俺は、倉庫のの中心を小麦粉地帯と定めまず次に襲いかかってくるであろう光線を避けるために走り出した。


 それから幾度となく背中に熱を感じながらも、一箇所に小麦粉を集めていく。


 五分後、小麦粉を噴霧すること数十回、倉庫の中心には、小麦粉の煙により白く染まった空間が存在した。


 俺は、光線を避けつつスライディングしながら煙に飛び込むと、トリガーに指をかけ、標準を《白竜》の頭に合わせ、銃を放った。


 銃から放たれたエネルギーは、《白竜》の頭を打ち抜き消滅させた。

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