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英雄の休日8

 その瞬間四隅のゲージは大幅に減少し、銃口から大出力のエネルギーが放出される。


 その瞬間とんでもない衝撃が銃を握っている右手を襲った。


 思わず顔を強張らせたが、敵の様子を確認しようと目を開くと、白騎士の鎖骨から上の部分は完全に消滅し赤い血が噴き出していた。


 赤い血はまるで噴水のように・・・


 赤い血?


 すぐにその異常に気付いた。


 先ほどまで銃の影響で視界が変化していたのに今はそれが解除されている。


 エネルギーが切れたのだろうか?


 確かにあれほどの高エネルギー弾を放出したなら考えられる。


 銃の状態を確認しようと右手を持ち上げようとするが感覚がない。


 恐る恐る右手を確認するとそこには銃どころか腕すらなかった。


 自らの腕が欠損していることに気づいたからなのかアドレナリンの分泌が減少したからなのかはわからないが右肩の傷口に激痛が走る。


 あまりの痛みに立っていられず思わず膝をついてしまう。


 激痛にゆがむ視界の中、床に銃が転がっていることに気づく。


 残っている左手で銃を拾い上げると冷たい無機物の触感が手のひらから伝わってくる。


 しかし俺はそこで違和感に気づいた。


 右肩はこんなにも痛み、熱い血液は体の側面を流れ地面に滴っているのに、なぜ爆ぜた右手が持っていた銃がこんなに冷え切っているのか。


 銃が落ちていた床を見ると右手の破片どころか血痕の一つも見つからない。


 どういうことだ?


 いや間違いなくこの銃が原因であることは確かだ。


「ヴァァアアアアァ」


 突如鳴り響いた鳴き声が強制的に思考を停止させた。


 ありえない・・・


 頭部と思われる部位を吹き飛ばしたはずなのに絶命しないどころか発声している。


 少なくともあの白騎士は生物学的に人間と同じでないことは確かだ。


 足がすくみ手に力が入らない・・・・


 これは恐怖なのだろうか?


 これは弱さなのだろうか?


 すると再び脳裏に焼き付くような痛みが走る。


 肩と脳に走る激痛に悶えながら俺はある事実を思い出した。


 そうだ。俺は弱さを捨てはずだ。


 足に力を込め立ち上がり、左手で銃を強く握り敵に向け、トリガーに指をかける。


 またもや視界が緑色に変わった。


 もしこのトリガーを引けば次は左手がなくなるかもしれない。


 そんな思考を巡らせたとき、先ほどよりも強い痛みに脳が襲われた。


 逃げることは、すなわち弱さだ。


 俺はすでにここから立ち去ることはできない。


 俺は意を決しトリガーを引いた。


 二度目のエネルギー弾は、敵の中心を貫き四肢だけを残して消滅した。


 銃は地面落下し、俺は気絶した。


 多量出血によるものなのか、銃の影響なのかは、わからないが意識が途切れる瞬間、脳の痛みが消ていることに気づいた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 瞼を開くと趣味の悪い間接照明が取り付けられている黒い天井があった。


 見覚えのある天井だ、恐らく紅依奈の部屋だろう。


「あっ、起きた」


 と、紅依奈の声が聞こえたので体を起こそうとするが、自分の両腕がないことに気づく。


 なんとか背筋と腹筋で起き上がろうともがいていると、それに気づいた紅依奈が介助してくれた。


 独特なインテリアで溢れかえっている室内を見渡すと、クオンが壁に寄りかかってラノベを読んでいることに気づいた。


 向こう側も俺が目覚めたことに気づいたらしく近づいてくる。


 クオンは、ベッドの横においてある椅子に座ると笑顔でしゃべりだした。


「初撃破おめでとう。今回現れた白騎士が世界危機の元凶だよ。まあいつも騎士の形をしいているわけじゃないけどね。特徴は、白くて狂暴ってところかな」


 あまりにも能天気なテンションで話しかけてくるのでこちらのリズムも崩されてしまう。


「まあ初出撃で両腕損失は、大きすぎる代償だけどな。」


 ハハハ。と自嘲気味に笑っていると、紅依奈が


「ほら見てみて」


 と言って後ろを向き服を脱ぎだした。


 こいつの常識観念と羞恥心の思考回路は壊れてしまったのかなどと思いつつも、白い素肌の背中から目が離せなくなっているとふとあることに気づいた。


 紅依奈は落下してきた天井から俺を庇い背中に大きな裂傷を負っていたはずだ。


 それなのに見たところ傷跡一つないし、それらしき痕もない。


 ふと視線を上げ紅依奈の耳を見ると真っ赤に染まっている。


 その瞬間俺は自分の過ちに気づくと同時に、自分の浅ましい思考を恥じた。


 別に紅依奈は、頭がおかしくなって急に服を脱いだわけでない。


 両腕を失い自暴自棄になりかけていた俺に、治す方法があるということを伝えて元気づけたかったのだろう。


「つまり俺の両腕も治る可能性があるってこと?」


 と、紅依奈に聞くと、彼女は屈託のない笑顔で


「うん!!」


 と答えた。


 するとクオンが再びしゃべりだした。


「リョーマもあの銃が普通の銃じゃないってことは気づいただろ?」


 確かにあのサイズの銃のどこにあれほどのエネルギー弾を発射できるほどのエネルギーを貯蔵できるか謎であるし、腕が破片も残らず消滅した。


 この二つことから推測するに・・・


「あの銃は、周りの物質を分解してエネルギーを変えるそんなところだろ?」


「大体あっているよ。そこで問題なのは、紅依奈は血液や皮膚がその場にあったから回復魔法が使えたけど、リョーマの場合は消滅しているから無理なんだよね。」



 その言葉に最悪の事実を想像したのか紅依奈の顔が青ざめる。


「つまり治せないってこと?」


 俺の率直な質問にクオンは、


「元の状態に治すのは無理だけど、新しい腕を作ることは可能だよ。」


 と笑顔で言い、濃緑色の液体が入った小瓶を渡してきた。


 俺はそれを受け取り、一気に飲み干す。


 その液体は妙に甘く炭酸の無いエナジードリンクのような味がした。


 クオンは、俺が戸惑いもなくそれを飲んだことに、一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔に戻ると、紅依奈の部屋の床に転がっていた謎のオブジェを拾い上げると、肩の傷口に近づけ紛砕した。


 すると砂状になった破片は、重力に逆らい空中に浮いたまま光だし傷口にくっついていく。


 数秒すると、自分の腕が謎のオブジェの質量と同じ分だけ再生していることに気づく。


「つまり代替できる物質があれば新しい腕が作れるってこと?」


 クオンは笑顔で


「そういうこと」


 と答えると部屋にあるものをはじから砕き始めた。


 数分後俺の両腕は完全に生成された。


 今まで通り動きをするので先ほどの劇薬は、元素がどうのこうのとかいう次元を超越したものだと知った。


 するとクオンは、


「その効果永続的に続くから。あと再生させるときは砂粒レベルまで細かいものが必要だよ。」


 と付け加える。


「それでこれからはああいう敵を倒すのを手伝えばいいってこと?」


 と尋ねると、すぐさま、


「そういうこと!」


 と返ってきた。


 ふと壁にかかっている独創的なデザインのデジタル時計を眺めていると、今が日曜日の夜九時だということに気づく。


 ふと脳内に浮かんだ問いをクオンに投げかけてみる。


「明日から普通に学校なんだけどどうしたらいい?」


 するとクオンは、(驚く答え・・・いや敢えて予想通りの答えと言っておこう・・・)


「もちろん俺も学校通うよ。敵が現れたらテレポートで向かえばいいしさ!!」


 と答えた。


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