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第八十一話 突然の闖入者


 俺とヒメのシラーっとした視線を受けて流石に気まずくなったのか、ジーヤさんが視線を逸らしてコホンと咳払いを一つ。

「…………無論、冗談です」

「嘘だっ!」

 ヒメのどっかで聞いた事のありそうなそんな突っ込みにも涼しい顔を浮かべたまま、ジーヤさんは言葉を続ける。

「嘘ではありません、ヒメ様。アレですね? 今日の晩御飯の話ですよね?」

「そんな話はしてないんだけど!」

「失礼、東京で見つけた美味しいカレー屋の話でしたか?」

「ジーヤ!」

「……ですから冗談ですよ、ヒメ様。心配ないです、カイワレ大根は順調に育っていますから」

「マリアぁ~」

 ……泣きそうな顔でこっちみんな。

「……ジーヤさん?」

「……真面目な話がお好みですか、新魔王様は」

「冗談も別に嫌いじゃないですけど、時と場合に寄ります」

「回り道も必要ですよ、会話には。彩を与えますから。人の子は直ぐに結論を求めたがりますね。この早漏が」

「え? なんで最後ディスられた感じなの?」

「まあいいでしょう。先程も申した通り、我々堕天使族はマリア様、ヒメ様の新魔王就任に異議を唱える事は致しません。忠誠――に関しては、あまり期待して貰っては困りますが、少なくとも敵になる事は御座いません」

「……ありがとうございます、と言うべきか、忠誠は誓ってくれないのですかと言うべきか悩むところなんですが」

「こちらも先程申しましたが、堕天使は個人主義ですので。私も族長と言っておりますが、然程強権がある訳ではありませんから。王城に馳せ参じ、臣下の礼を取ることは……しない、とは申しませんが、それは個々人の意思です。ご不満でしょうが」

 別に不満じゃないんだが……

「……それ、魔界的に大丈夫なんです?」

 堕天使族……という言い方が正しいのかどうか知らんが、リーダーはジーヤさんなんだろう? そのリーダーが自ら『管理出来ない』みたいな事言ってるって、安定的に大丈夫なんだろうか?

「お気持ちは分からないでもありませんが……ですが、マリア様? 仮に『魔王に反旗を翻してやろう』とか『魔界でトップを取ってやろう』とか目論んでいる天使が、態々堕天すると思いますか? それだったら天界で徳を積んで出世した方が余程楽です」

「……そういうもんです?」

「天界から堕ちる、というのは中々にリスキーですので。言ってみれば、大企業からわざわざドロップアウトしてベンチャーでトップを狙うようなモノです」

「……多くないです、そういう人?」

 最近はむしろそっちの方が主流派な気がするが。

「あまりにも畑違い過ぎる『業種』ですから。そんなもの、ポンポンいる訳では無いでしょう?」

 ……確かに。善と悪の真逆だからな、言ってみれば。

「加えて私の知る限り、『堕天使』にその様な気概のある者はおりません。われらの信条は『絶対に働きたくない』ですから。元々天使ですので、ある程度素養はあるのですが……先程も申した通り、モチベーションの高い天使はそもそも堕天しませんので」

「……」

 ……ニートの集団かよ、堕天使。それ、マジなドロップアウト組の集団じゃん。

「元々禁欲的な生活ですからね、天界は。ネットもテレビも漫画もBLもある魔界は楽園ですよ。魔界なのに」

「反動が半端ないパターンですか?」

「有体に言えば。なので、マリア様やヒメ様が魔界を大改造する様な事をしなければ、わざわざ反旗を翻すようなことはしません。そして、私の知る限りヒメ様は今の魔界を随分と気に入っておられます。ならば、その様な心配も無いでしょう」

「……もし、俺が魔界を大改造すると言ったら?」

「そんな事は有り得ません」

「……分かんないじゃないですか」

 そんな俺の言葉に、ジーヤさんは首を捻って。


「――ヒメ様が選んだ方、でしょう?」


「……」

「ヒメ様は幼少時代から存じ上げております。優しく、素敵な淑女です。そんなヒメ様が選んだ――まあ、どうせアイラ様の事ですから? 碌な選出方法ではないでしょうが……それでも、そんなヒメ様がわざわざ私にご紹介して下さる殿方ですよ? その様な方が、ヒメ様の悲しむ様な事はしないでしょう? 今まで通り、平和で仲の良い魔界を作り上げて頂ければ、それで結構です。私は今の魔界が結構気に入っていますので」

 そう言って、『違いますか?』と言わんばかりに首を傾げて見せるジーヤさん。その姿に一瞬言葉に詰まり、その後俺はゆるゆると息を吐き出した。

「……あー……はい。分かりました。『平和で仲の良い』魔界にしたいと思います。魔界っぽくないですが」

「構いませんよ。魔王の好きな様にするのが魔界のルールですので」

「そんなものですか」

「そんなものです。ですので、私共堕天使はマリア様、ヒメ様のご婚儀とマリア様の魔王就任に異議を唱えるつもりは御座いません。末永くお幸せに」

「……ありがとうございます」

「いえ。ただ……私は良いのですが――」

 そこまで言いかけて。



「――ジーヤ~? ねえ、ちょっと、この資料なんだけどちょっと教えて貰っても良い?」



 ふいに、ジーヤさんの部屋の扉が開く。入口から顔を覗かせたのは、温和を絵に描いた様な垂れ目な男性。年の頃は二十歳を少し過ぎたくらいか、イケメン、という程ではないにしろ、隣にいたら落ち着きそうな雰囲気を醸し出す男性が何やら分厚い本を持ってジーヤさんの部屋に入って来た。

「……いつも言っているでしょう? ノックぐらいはして下さい、と」

「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事してたから。それでさ、ジーヤ、この資料――」

 そこまで喋り、男性の言葉が止まった。少しだけ驚いた様、その垂れ目を大きく見開いてこちらを見つめている。しばしの間、その体勢で固まっていた男性だが、やがて手に持った資料を頭上高く振り上げて。



「――――――しねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



 走りながら、それを俺の頭上に振り下ろして来た……って、なんで!?


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