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第七十九話 堕天使の本気

色んな意味でギリギリ(アウト)


「……」

「そ、そんなに緊張しないでよ、マリア。だ、大丈夫! 大丈夫だから!」

 実家で年を越し、新年早々妹ズに振り回された……まあ、具体的には初詣とか晴れ着で挨拶とか、一通りのイベントをこなした俺は正月二日を完全にグロッキー状態で過ごした。まあ、元々体力には自信もあるんで三が日最終日である今日、魔王城に来ていたりする。

「じ、ジーヤはこう、く、『クール』な感じだけどね? その、そんなに怖い人じゃないから!」

『パパに説明する前に、ジーヤに説明した方が良い』というヒメの意見を聞き入れ、取りあえずヒメの……なんだ? 家政婦さん? 的なジーヤさんの部屋の前に来た。来たんだが……

「……なあ、ヒメ? これ、今日は止めといた方が良いんじゃねーか?」

「な、なんでよ!」

「いや……だって部屋の前に思いっきり『行事明けにつき、取込中。松が取れるまで入室禁止』って書いてあるんだけど?」

 行事明けって、あれだよな? 年末に行われる例のあの一大イベントだよな? なんだよ、取込中って。

「あ、あはは……じ、ジーヤはいつもこうなんだ。お盆と正月、人間界から帰ってきたら数日部屋に籠りっきりで……」

「……」

「なにしてるの? って聞いたら、『戦利品を整理しているのです』って……」

「……言葉もねーよ」

 松が取れるまでって、七日ぐらいまであるぞ? どんだけ買い込んだらそんな事になるんだよ。

「と、ともかく! 取込中って書いてるけど、逆に部屋に絶対いるから! 入るよ! おーい、ジーヤ!」

「ちょ、お前! ノック!」

 言うが早いかノックもせずにジーヤさんの部屋を開ける。慣れた環境がそうさせるのか、マナー的には完全にNGな事をしながら勝手に部屋に入るヒメ。

「……ヒメ様。日本語が読めないのですか? 取込中につき、入室禁止と書いてあるでしょう?」

 バンと開け放された事により、室内の様子が見えた。部屋の一面が全面ガラス張りになっており、室内の中央には白いテーブルと椅子。テーブルの上には紅茶セットが置いてあり、なんだかお洒落なカフェの様になった部屋で、物凄い美人が読んでいた本から視線を上げて無表情でヒメを見つめ――そして、その視線を俺に向ける。

「あ……ど、どうも……」

 正面からこちらを向いた事で彼女の美貌がより鮮明になる。肩口で切り揃えた銀髪に、無表情ながら凛としたものを感じさせる表情。メイド服に似た服を着こんだその姿は『出来るメイドさん』と紹介されてもなんの違和感も覚えず、唯一彼女が『堕天使』だと認識できるとすれば、それは背中に生えた漆黒の羽ぐらいだ。まるで一枚の絵画の様、手に持った本を優雅に――



「……」



 …………ガチムチなマッチョメンが絡んでおられる表紙なんですが。

「……この本が、なにか?」

「上にあげないでください、割とマジで」

 俺の視線に気付いたか、本を上に掲げるジーヤさん。色々台無しだ。

「……ヒメ様? そちらの方は?」

「へ? あ、そ、そう! えっと、紹介するね? 彼はマリア! オオモト・マリア! その、ママが言ってたでしょ? 日本で、その……お婿さんを見つけて来いって」

「……ああ、言っておられましたね。それで――マリア?」

 言葉を途中で止めると、ジーヤさんがまじまじとこちらを見つめる。無表情のままのその視線が若干怖いんだが……なんでしょうか?

「……本名、でしょうか? マリア、というのは?」

「えっと……本名です。その……なんか、済みません」

「いえ、大変素晴らしい名前だと思います。由来は『聖母』からでしょうか?」

「ええっと……はい。正確には、母親の知り合いの名前を頂いたんですが、まあ、その知り合いの由来は聖母なんで」

 間接的には聖母って言っても間違いない。ええっと……

「その……良いんですか?」

「はい?」

「いえ、魔王様……アイラ魔王様に『名前があの子と一緒なのはマイナス点』って言ってましたんで……」

 あの子がどの子を指すのか知らんが。まあ、どっちにしろ魔界で『マリア』って名前はあんまりよろしくはねーんだろうしな。特にジーヤさんって堕天使なんだろ? 堕天使ってアレだよな? 天界から追放された系の天使だよな、確か。

「アイラ様はそう仰るかも知れませんが、私はむしろ真逆ですね。あの澄ました顔をしている女から名前を貰った人間が、オークと見間違われる程の巨体、という事に面白みすら感じます」

「……そうっすか」

 なんか軽くディスられてる気がするんだが。

「まあ、ともかく私は構いません。マリア様、ヒメ様、どうぞお幸せに」

 そう言うと、視線を本に戻すジーヤさん。その姿に若干ポカンとしながらも、俺は口を開いた。

「えっと……軽すぎませんかね、それ?」

「軽い、とは?」

「い、いえ……こう……『ヒメ様を幸せにする人ではないと認めません!』みたいな……その……貴方は……」

「ジーヤ、とお呼びくださいませ、マリア様」

「ジーヤさんはその、ヒメの養育係と言いましょうか……なんというか……」

「……確かに、私はヒメ様の養育係を務めさせて頂いております。そして、憚りながら誰よりも……それこそ、実の母であるアイラ様よりもヒメ様にお詳しいと自負しております。ヒメ様はお優しく、聡明なお方です。そのお方が自ら選んだ人であれば、私が異を唱える必要もありません」

「……それは……そう、なんでしょうけど……」

「お話の中だけで結構に御座いますよ、『お前らの仲を認めない』などという戯言は。私がどの様に思おうが、ヒメ様が宜しいのであればそれで構いません。現実はもっと優しくて良いですから。それともなんですか? 『私に勝たなければ認めません!』みたいな展開がお好みですか? そうであるのならばお付き合いするのは吝かではありませんが」

「……そういうのはラインハルトだけで十分です」

 オーク族で懲りたよ、ガチの殴り合いは。ま、それはともかく……なんつうか、別に軽い人な訳じゃねーのか。それだけヒメの事を信頼しているって事なのか? ヒメが選んだ人なら構わないって、そういう事だろ? なんかいい関係じゃん、それ。まあ、選んだ……つうか、俺が選ばれた経緯を知ったらジーヤさん、卒倒するかも知れない――

「……なんですか、ジーヤさん? 俺の顔じーっとみて。なんか付いてます?」

「失礼、そうでは無いのですが……済みません、ラインハルトと云うと……オーク族の族長のラインハルトの事で間違いないでしょうか?」

「えっと……そ、そうですけど?」

 あ、あれ? なんだ、この人? 相変わらずの無表情な癖に、なんだか眼だけキラキラしてるんですけど?

「ラインハルトと勝負をした、と? まさか、ヒメ様を掛けて?」

「えっと……まあ、はい」

 正確には魔王の座を掛けて、だった様な気はするが……まあ、おまけでヒメも付いてくるから、間違っちゃいないか。

「……今、マリア様が此処におられるという事は……ラインハルトの息の根を止めた、と?」

「いや、止めてねーから」

 つい、タメ口が出た。いや、止めてねーから!

「……ふむ。反旗を翻したモノを許したのですね? それは今後の魔界運営に支障を来すのではないでしょうか?」

「いや、そんな大げさなもんじゃなくてですね? まあ……こう、お互いに譲れないモノがあったと言いましょうか……今では仲良くやってますし、こう、別にお互い恨みあっていたりとかはしてないんですよ? だからまあ、別に支障を来す事はないと思います」

 俺の言葉に『ふむ』と頷き、瞳を閉じるジーヤさん。待つことしばし、ようやっと瞼を開けたジーヤさんが俺に視線を向けて。



「――ご馳走様です」



「……は?」

 ご馳走様?

「はい、ご馳走様です。むしろ、大好物ですまであります。一人の女性を取り合い拳で語り合った男同士が、勝負を終えて友情を芽生えさす。やがて、その友情は愛情へと変化を――」

「ストップ!」

 何言ってるのこの人!?

「今年の夏はこれで一冊行けますね。オークのラインハルトが右側と云うのも捨てがたいですが、やはり次期魔王であるマリア様が右固定でしょうか?」

「でしょうかじゃねーよ! 何言ってんだ、アンタ!」

「ライ×マリの方がより『萌える』であろう、という話です」

「萌えねーよ! むしろ、燃えてしまえ!」

「はい。既に私の創作意欲はメラメラと燃えています」

「そういう意味じゃねーよ!」

 あかん。コイツ、マジであかん奴や。

「という事でマリア様? そのバトルシーンについて、詳しく教えて――ああ、結構です。やはりヒメ様からのお話の方が良いでしょう。ヒメ様? どのようなバトルを?」

「ええっと……でもね? ラインハルトとの戦いは結局一撃だったから、そんなに戦ったって印象がなくて……むしろ、オークの里に行った時の方が凄くて! マリア、格好良かったな……」

「え、なにそれ、くわしく」

「沢山の若いオークがマリアに向かってくるんだけど、それをマリアが一人で倒してね?その上、族長のエドアルドまで倒してさ! もう格好良くて!」

「ふむ……なるほど、力で負けたオーク族が寄ってたかってマリア様を、という展開もありですね!」

「ねーよ!」

 ちょ、え? マジで誰か助けて? この人、結構ガチで怖いんですけど!



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