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第五十一話 暴走特急妹号

シリアスが……シリアスがぁ!


 冗談抜きで、麻衣が言っている意味がこれっぽちも分かんねー。ふと視線をローザに向けると、あっちはあっちで困惑した――こう、なんだか泣きそうな表情を浮かべていやがる。あー……まあ、なんだ。ちょっと気持ちは分かるぞ、おい。

「……麻衣。いいからお前はちょっと下がってろ。話がややこしくなる」

「なんでよ! 私が人質になるって言ってるんだから下がったらダメじゃん!」

「いや、だから……」

 ……どうしよう。どう言ったら良いんだ?

「……その……なんだ? 別にお前が人質になる必要は無くね?」

「何言ってんのよ、バカマリア! いいの? 咲夜が人質になってるんだよ! 可愛い妹が人質になってるんだから助けなきゃダメでしょ!」

 胸を張ってそんな事をのたまう麻衣に心持大きめの溜息を吐く。あのな?

「お前は嫌がるだろうけど、はっきり言っておくぞ? 咲夜が大事な妹なのは否定はせんが、お前だって俺の大事な妹だ。全員助かる選択肢なら喜んで取るが、咲夜の代わりにお前を人質にしてめでたし、めでたしなんて展開は俺は望んじゃいねーんだよ」

 つうか、そこまで薄情な奴だと思われてるのかよ、俺。今までの付き合い考えれば、そんな事は――

「……おい。なんで顔真っ赤にしてんだよ、麻衣」

「へ……へへへ……だ、だって……マリアが、そ、その……可愛いって……」

「……俺、可愛いなんて言ったか?」

 大事な妹だとは言ったが。

「な、なによ! 可愛くないって言うの! 私、そんなにぶちゃいく!?」

「自分の顔を鏡で見てから言え」

 アイドルだろうが、お前。そんじょそこらの女子中学生なんてメじゃねーぐらいに可愛いに決まってんだろうが。

「……え……えへへへへへへへへへ~……!」

「……前言撤回だ。自分の顔を鏡で見ろ。今、もの凄い不気味な顔をしてるぞ、お前」

 頬をだるんだるんにして、前髪をちょいちょい弄りながらモジモジする麻衣。基本美少女なのにその、ある種情けない顔に盛大な溜息が漏れる。

「……マリアさん」

「ん?」

 と、そんな俺の服の端をちょいちょいと摘まむ手の感覚に、俺はそちらに視線を向ける。そこには遠慮がちに、それでも意思の強い瞳を見せる奏の姿があった。

「……どうした、奏? なにか――っと、そうだな。お前にも説明がいるか」

「ああ……いえ。説明は宜しいです」

「いいのか?」

 魔王になったとか言われてんだぞ、俺。普通は『な、なんだってー』ぐらいは言うんじゃねーの?

「マリアさんが天使になった、と言われれば驚きますが……その、魔王だと……」

「……ぴったりってか?」

 俺の言葉におずおずと、だがはっきりと頷く奏。理解ある妹を持って幸せ者だな、俺は!

「そ、それはどうでもイイのです!」

「いや、どうでも良くは無いと思うが……」

「どうでもイイのです! それよりも!」

 そう言って奏はズビシっ! と音が鳴りそうな勢いでローザを指差す。その行動に、先程まで俺と麻衣のやりとりを呆然とした表情で見つめていたローザがはっと意識を取り戻した様にコホンと一つ咳払いをし、妖艶な笑みを浮かべて見せる。

「……ふ、ふふん? あら? どうしたの、可愛いお嬢さん? なーに? なにか文句でもあるのかしら?」

「あるに決まっています!」

「あら、そう? それじゃ言ってみなさいな。聞くだけは聞いて――」



「攫うなら咲夜さんでも麻衣さんでもなく、この私! この私でしょう! 何をお考えなのですか、貴方は!」



「……ローザ、タイム」

「……いいよ。むしろ、こっちからお願いする」

 ……うん、ローザ。分かる。分かるからそんな泣きそうな顔でこっちを見るな。俺だって泣きそうだよ。ごめんな? 『妹』がアホばっかりで。

「……か~な~で?」

「な、なんですか! そんな怖い顔しても無駄です! 怖い顔は見慣れてますから!」

「さらっと人の心を抉るな! じゃなくて! お前まで何言ってんだよ!」

「だ、だって! 攫われるのは清楚なお嬢様キャラと相場が決まってるじゃないですか! でしたら此処はこの私! 私こそが相応しいと思いませんかぁ!」

「何処の世界の相場だ、それは! つうか何だよ、『清楚なお嬢様キャラ』って!」

「KIDではそういう売り出しですし、私!」

「清楚なお嬢様キャラは自分達より数の多いナンパ男をコテンパンにしねーんだよ!」

 お前に分かるか!? 警察官に『事情を伺う限り、妹さん達に非が無いのは分かりますが……その、もう少し加減を。明らかにやり過ぎです』って言われた俺の気持ちが! 顔から火が出るかと思ったわ!

「だからです!」

「なにが!」

「あれからマリアさん、私達の心配あんまりしてくれないじゃありませんか! 四人で遊びに行くって言っても、『気を付けろよ。ああ、自分の身じゃない。相手の方だ』とか言うし! 酷くないですか、それ!」

「酷いのは自分達の方だと頼むから気付いてくれ!」

 相手の心配するに決まってるだろうが! 嫌だぞ、俺! 拘置所に面会でお前らに逢いに行くの!

「で、ですから! こんなチャン――こほん」

「おい、今『チャンス』って言い掛けたろ?」

「い、言ってませんわ! 咲夜さんが人質になっているこの様な状況で、なにがちゃ、チャンスですか!」

 そう言いながら、あからさまに目を逸らす奏。そんな奏にジト目を向けていると、その視界の端にぴょこんと小さく上がる手が見えた。

「……鳴海」

「だったらさ! やっぱりこういう展開では一番『どんくさい』子を狙うのが定石だと思うんだよ、マリアお兄ちゃん!」

「……お願いだからお前だけはまともであってくれと願う俺の気持ちをあっという間に踏みにじるな。なんだよ、『どんくさい』って!」

「だって私、麻衣ちゃんとか奏ちゃんと違って近接格闘苦手だもん! それにホラ、文学少女だし! 此処は私を攫っていく、の一択しかないと思う!」

「ちょ、鳴海! なに言ってるのよ、貴方! 大体、貴方の何処がどんくさいのよ! 弓道全国制覇したでしょ!」

「そ、そうですわ! そもそも鳴海さん、貴方が『武器』を持ったら一番危険じゃないですか!」

「そ、そんな事ないよ! そもそも人質に武器を持たすなんて事する訳ないし! だったら一番安全だよ、ローザさん!」

「ちょ、違うって! 此処はホラ、私を攫うのが一番! ね、ローザ!」

「違います、違います! 私! 私ですよ、ローザさん!」

「ちょ、え、な、なにコレ! 状況が悪化してるんだけど、新魔王様!」

 三人からの、一種射殺せそうな視線を受けてローザがパニック気味に視線をこちらに向けて来る。あー……すまん、ローザ。俺は……無力だ。

「なに格好つけてるのよ! っていうかね! 貴方達、少しは危機感を持ちなさいよね! 分かってる? 人質よ、人質! 身の危険を――ちょ、辞めてよね! ロザリオ、こっちに向けて来ないで! ちょっと保護者! なんとかして!」

「……今俺は物凄くこいつらと縁を切りたいと思って……おい、咲夜! 欠伸するな! お前も危機感を持て!」

 クレアに捕まったまま欠伸しやがりやがった、アイツ。この状況で欠伸って、バカか大物かのどっちかだぞ、おい。間違いなく前者だがな!

「なんかもう、飽きて来ちゃった。えっと……ローザさん、だっけ? もうどうでもイイからさっさと私を攫うなりなんなりしてくれない? そろそろ眠たくなって来たよ、私」

「あ、貴方は……っていうか、おかしいでしょ、貴方達! もうちょっとこう、あるんじゃないの! 怖いとか、そういう感情が!」

「えー? だってクレアさん居るし……それに、ローザさんも言ってたじゃん? 私達に危害を加えないって。ちょこっと私が攫われて、後はお兄ちゃんに助けて貰えば終わりでしょ? んじゃもう、さっさとやってよ」

「ちょ、咲夜! だから攫われるのは私の役目だって!」

「ち、違います! 私です!」

「違うよ! 私! 私だよ!」

「~~っ!! なんなのよ! なんなのよ、貴方達! もうちょっと怖がりなさいよ! あのね? 私は吸血鬼なのよ? ヴァンパイアなのよ? そんな私に攫われるのよ? 怖くないの、貴方達は!」

「「「「全然」」」」

「ハモらないで! っていうか、なんでよ!」

 殆ど半狂乱。髪を振り乱して、血走った眼を向けるローザに怯える風もなく、咲夜、麻衣、奏、鳴海の四人が目を合わせて。



「――だって、絶対マリアが助けてくれるもん」



 代表して口を開いたのは、麻衣。

「マリアが助けてくれるから、別にアンタに攫われるのは怖くない。むしろ、心配して貰えるだけラッキー、みたいな?」

「こんなチャンス、滅多に無いですからね」

「そうだね。たまには心配されてみたいもん、私も」

 口々にそう言って、にこやかな笑顔を見せる三人。その姿をひくっと頬を引き攣らせてローザは見やり、やがて油の切れたブリキのおもちゃの様な、ギギギとぎこちない動きで視線をこちらに向けて。



「保護者ぁああああああーーーーーーーーーー!!!」



「……すまん。なんか……本当に、すまん」

 頭を下げるしかねーよ。おい、シリアス。頼むから裸足で逃げ出さないでくれ。


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