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君は人を救う剣を振れ

僕が喋れるようになると、お父さんは僕にケモノをどう倒したか聞いてきた。


まるで僕を何か売り物だと思っているように、何かとても嫌な目線で。


僕は何も覚えてないと何度も言うと、お父さんは怒り始めた。


それを諌めるお母さんはどこか安心しているように見えた。


「この子が英雄だなんて。この子は普通の子ですよ。」


ーーーーー


父親は僕が何者かであると証明がしたいようだった。


僕には英雄というものが何かわからないけど、それはきっと良くないものだと思った。


お父さんはあの日から僕を値踏みするような会話を幾度もするし、お母さんは僕を今まで以上に普通の子供でいさせようとした。


何より辛かったのは、お母さんに棒を振るのをやめろと言われたことだ。


おかげで僕は暇になったのだが、お母さんは代わりに僕に家事の手伝いをさせはじめた。


楽しいことはないけれど、お母さんといる時間は嬉しかった。


ーーーーー


ある日、お父さんはとてもニコニコしていた。


それはとても良いことのはずなのに、僕には何か悪いことが起こるように感じられた。


すると誰かが家のドアをノックした。


父親は更に喜んで、意気揚々とドアを開けた。


ドアを開けるとそこにはとても大きな男が居た。


大きいと言っても、お父さんより少し大きいくらいなのだが、身体の大きさ、そして何より、存在感と言おうか。


様々な要素が掛け合わさってその男はとても大きくみえるのだ。


呆気に取られる、僕とお母さんにお父さんは紹介を始めた。


「この人は剣の達人のムラクモさんだ。」

「お前の先生になるんだぞ。」


お父さんは僕を見てニコリと笑った。


僕は笑いを返すことができず、この状況にただただ立ち尽くすしかなかった。


ーーーーー


お父さんとお母さんの喧嘩が家の外まで聞こえてくる。


僕はただただこの状況が飲み込めなくて、ムラクモさんに外に出ようと言われても、ずっと呆然としたままだった。


そんな僕を見かねてかムラクモさんは声をかけてくれた。


「すまないな君。なんだか俺は厄介者だったようだ。」

「だが、お金を貰った以上俺は君に教えなければいけない。」


「君に剣を教えよう。」


ーーーーー


ムラクモさんと少し開けた野原に行くと、

ムラクモさんは腰にかけた、長い棒を抜いた。


「少年、これは剣というものだ。」

「見たことはあるか?」


僕はこくりと頷いた。

それほお父さんが持っていたものと似ていたけど、

この人の剣は何か違ってみえた。

なんというか何かとても危ないものにみえた。


僕が怯えているのを見ると、

ムラクモさんはそれを悟ったのか、少し笑った。


「その歳でこれが危ないと思えるなら上等だ。」

「これは命を奪うものだ。」

「人の命も。」


「僕はたぶん使えないと思います。」


震えながら、しゃがれた声で言った。

僕にはきっと無理だ。

人の命を奪うという言葉が何かはわからないけど。

とても恐ろしいことだとはわかる。


「そうだな。」


ムラクモさんは剣をしまうと、

そこら辺に生えている背の高い草を引っこ抜いた。


「では、これはどうかな?」


僕にその草を渡してくると、ムラクモさんはまた背の高い草を引っこ抜いて、草を振り始めた。


ヒュ。


僕は今まで剣を振ってきた父親を見たことがある。

それはなんだか無機質で、楽しくない、ただの作業に見えた。


だがこの人の草の振り方はどうだろうか?


ただの草を振っているのに、なんだかそれはとても自由で、そして綺麗に見えた。


ムラクモさんの取った背の高い草は多少芯があっても、決して頑丈なものではない。


適当に振れば幾度か振ってしまえば、折れてしまうはずだ。


だが、草を折ることなく、幾度も幾度も振り続けた。


何度か振り終わるとムラクモさんは振るのをやめて、僕を見た。


「少年、まずはこの草を折らずに振ってみろ。」

「この草をいかすんだ。」


僕は良くわからなかったが、とりあえず振ってみた。


ブンと振っていると、すぐに折れる。

何度も新しい草を持っては振るが、また折れる。


ムラクモさんはそれを見て、カカカっと笑う。


何度も何度もそれを繰り返していると。


なんだか、お父さんとお母さんのことも、ムラクモさんのことも、剣を教えるという話も次第に頭から消えていく。


やがて、僕は手に持ってる草に、野原に、野原に吹く風に、青臭い匂いに意識が向く。


僕は自由だ。


そう思うと、なんだか楽しくなって、変な力が抜けて、草を振るってることも忘れて、まるで踊ってるような気分になった。


そうしてしばらく、ただただそのこころに身を任せていた。


やがて、疲れてその場に気持ちよく寝そべると、

声をかけられた。


「気持ちよかったか?」


ムラクモさんだった。

僕はムラクモさんのことを忘れていたことを思い出して、なんだか急に申し訳なくなった。


その場にうずくまった。


また怒られる。


いつも僕は何かを忘れてしまう。

今度も怒られるんだ。


お母さんとお父さんの声が聞こえる。


怖くなる。


震える。


僕がうずくまっているとムラクモさんは言った。


「何か怖いことでもあったか?」


僕が答えずにいるとムラクモさんは僕の隣に座った。


「なあ少年。」

「わかんないことだらけだよなあ。」


何がわからないのか、その言葉が何を伝えたいのかはわからなかったが、この人は僕を見てくれていることがわかった。


僕は頭が良くなかった。

だからお父さんやお母さんによく怒られて、うずくまることがよくあった。


お父さんやお母さんはそれを見るといつも、僕を面倒くさそうに見て、どこかに行ってしまう。


でもこの人は隣に居てくれる。


何も言わないで、そこに居てくれる。


僕はムラクモさんの顔を伺った。


そこには何も怒ってる顔なんてなく、落ちていく日を見て笑っていた。


「なあ少年。」

「剣を教えるってのは、なにも人を殺すためだけじゃないんだ。」


僕はうずくまるのをやめてムラクモさんの隣に座ると、ムラクモさんは笑った。


「今日から君に教えるのは君を強くする剣だ。」

「決して命を奪うのではなく。」


「君は人を救う剣を振れ。」


その言葉全ての意味がわかったわけではない。

でもこの人は僕を何か温かい感情にしてくれて、

きっと良いものにしてくれる。


なんだかそれがわかって、僕は頷いた。


それを見てムラクモさんは僕の頭をワシワシと撫でて言った。


「君の名前を教えてくれ。」


これが僕の始まり。


長い長い物語の始まり。




「僕の名前はムサシ。」


「強くなることを僕に教えてください。」


不格好な言葉だ。


それでも僕の言葉を聞いて、ムラクモさんは更に僕の頭をワシワシと強く撫でた。


キャラの名前に迷ったが、この名前がやはり合うなと思ってこれにしました。


どうか温かい目で見守ってください。

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