第35話 アンネリーゼと旅支度
アンチエイジングポーションたちを売って、思わぬ大金持ちになった私たち。
薬師の店にいくと、ポーション汲み器というものを勧められた。
大きなお店じゃなくても、ある程度稼ぎのある薬師はこれを使ってるそう。
確かに、今まで100本とかを手動でやってた私たちがちょっとおかしいよね……。
汲み器は銀貨2枚で買えた。
しかも、おまけで小さな魔石を幾つか貰ってしまった。
使徒だからなのか、小さな女の子だからなのか……。
ひとまず、マジックバッグにしまうと今度は露店回り。
「ロザリーさーん!」
「あら、アンネリーゼちゃん!」
ロザリーさんは、シミもほうれい線も消えていた。
五歳以上、若返ってる気がする。
「お肌綺麗になりましたね~」
「アンネリーゼちゃんのポーションのお陰だよ。もう、ここら一帯の露店の女衆に大人気でね。噂を聞きつけて、何人もアタシの顔を見にきては、次のポーションの入荷を待ちかねてるってわけさ」
「あ、さっき100本納品してきましたよ! お値段があがちゃったんですけど」
ロザリーはニカっと笑う。
「そりゃあんた、当たり前さ。肌がきれいになるポーションなんて聞いたことがないからね! アタシらみたいな庶民はせいぜい月に一度、シャムの皮を顔に貼るくらいしか出来ないからね。美容グッズは基本的にお貴族様のもんさ。あのポーション一個飲むだけで、ここまで綺麗になれるんだ。ありがたいよ」
そんなロザリーの胸元には、エヴァリディアス様の信仰札が揺れている。
信心深いロザリーさんのことだから、住民の激怒状態を解いただけでもきっとエヴァリディアス様を信仰してくれてたのかもしれない。
「おおい! アンネリーゼ!」
おや、ついさっき聞いてた声が。
振り返ると、案の定フランクさんが走ってきた。
「すまんすまん、アンチエイジングポーションですっかり忘れてた。フェニックスの羽のパーティーが、栄養満腹ポーションと匂い消しポーションのお礼でこいつを預けてったのを渡し忘れてた」
ギルマス自ら、走って探してくれたんだ。
部下の人にも任せていいのに……あれ、でも私たちはいつもフランクさんとした取引してないから、他の人を知らないや。
だから、顔見知りのフランクさんが走ってきたんだ。なんかごめんなさい。
「フランクさん、うっかりしてんな」
「おまえさんだって、さっき売り上げで震えてただろうが。ここ最近、大きな仕事が絡んで俺も慌ててたんだよ」
邪神の使徒の騒ぎに、大きな討伐に、フランクさんも忙しい中、ジャンル外の美容品を扱ったんだもんね。
なんかごめんなさい……私が二年後に十歳になって生産ギルドに登録するまで、あちこちの冒険者ギルドに迷惑がかかるね……。
「これと、これと……」
フランクさんが、空間収納からどんどん魔石を出す。
慌てて、私はマジックバッグを開けた。
大人の手のひらサイズの魔石がごろごろ出てくる! 小さくても私の手より大きい。
「え、まだあるんですか!?」
「フェニックスの羽はAランクパーティーだぞ。栄養満腹ポーションポーションを飲んだ他の人気パーティーも含まれてる」
私のマジックバッグは、いくら入れても重さが変わらない。
最初に肩にかけたときと同じだ。
すごい、すごい。
錬金術師しておいてなんだけど、魔法だ!
30個近くの魔石をもらってしまい、私はなんだか申し訳ない。
「こんなにいいんですかね……?」
「全員、ただの栄養満腹ポーションや匂い消しポーションを飲んだつもりが、美肌効果で助かったそうだ。肌が弱くて日焼けが痛かったもの、手荒れがひどかったもの、背中のあせもがつらかったもの、それぞれが感謝してたぞ」
美肌効果って、顔だけじゃなかったんだ!
それは確かに、お礼されるのかも……?
「パーティーランクが高い女性冒険者は、アンチエイジングポーションにも興味津々だったな。金回りがいいから、ああいう連中も買うと思うぞ」
ああ……魔物と戦ってたら美容ケアとかできなさそうだもんねぇ。
貴族の方と、冒険者の女性と、あとは儲けの大きい大店の商人さんとかかな。あれを買うのは。
「じゃあ、また明日な」
フランクさんは大きな体を揺らして、凄い速さで冒険者ギルドに戻っていった。
「なんだか、あちこちで活躍してたんだねぇ、アンネリーゼちゃん」
「あはは……」
予想外のことだったんですよー。
こっちも、ずっと”美”の正体がわからなくて。
それから私たちは、めいっぱいの小麦粉や卵、牛乳などを買い込んだ。
私がマジックバッグを使うたびにうきうきしているせいで、フェルはにこやかに見守ってくれる。
「こんなに買い込んだのに、銀貨1枚……? ロザリーさん、お値段あってます?」
「アンネリーゼ、露店でどんだけ買い物してもだいたい大銅貨支払いだぞ。あれだけ買い込んだから、むしろ銀貨1枚なんだ」
「そうだよ、アンネリーゼちゃん。たくさんお買い上げありがとうね」
あとで二個目のポーションも買おうかね、とロザリーさんはにこにこだ。
このあと旅に出るので牛乳の容器は返せない。だから牛乳瓶の値段も支払ったし、大丈夫だよね?
残金は大金貨8枚 、金貨8枚、 大銀貨4枚、銀貨1枚、 銅貨4枚。
「アンネリーゼちゃんに会えるのも、あと二日か……寂しいねぇ」
ロザリーさんの手が、私の頬を撫でる。
なんとなく、お母さんを思い出して少し泣きそうな気分。
「でもこんなに小さくてもアンネリーゼちゃんは、命の神のエヴァリディアス様の使徒なんだもんねぇ。この街だって、アンネリーゼちゃんにたくさん助けられて……。だから他の街の人も、助けてあげとくれ。アタシもエヴァリディアス様にお祈りするときに、アンネリーゼちゃんのことも祈るから。たくさん、ありがとうねえ。旅で怪我したり、病気しないようにねぇ」
「――はい!」
多分、今の私の笑顔は泣きかけてぐしゃぐしゃだ。
フェルと手をつないで、森へ帰る。
街ではほとんど話さなかったコハクは、歩きながら私の足に尻尾を絡ませてきた。
『アンネリーゼ、これからもたくさん別れはあるけど、出会いもたくさんあるから頑張るんだよ。寿命だってまだ6年分しかないんだから』
「うん」
邪神の使徒を追いかける。
そして、またトラブルを解決する。
あとは、私の寿命ゲージを伸ばす。
私の目標は、この三つ。
アイゼンシュタット国のソレビの街から始まって、次はどこに行くんだろう。
***
ランスロットさんは、二日以内に約束通り戻ってきた。
私たちは、色んなポーションを作り溜めたり、冒険者ギルドに売ったり。
慌ただしい思いをしながら、支度を頑張った。
家を出て、スマホで家のアプリを押すとしゅぽん! と家が消えた。
「コハク、これでいいんだよね?」
『出したいときは、また押せば出てくるから~』
「すげえ便利」
「旅をするのに宿は必要ないですね」
ランスロットさんも、フェルも身軽な旅姿だ。
私も、ソレビの街で買った長ズボンと可愛いシャツだ。
この旅のために、フェルの着替えもたくさん買ったもんね。フェルは、浄化すれば着れるのに着替えなんているのか? って文句言ったけど、色んな服のフェルを見たいんだもんと言って黙らせた。
マジックバッグの中は、作り溜めたご飯もいっぱい入ってる。
「ありがとなー!」
「またきてねー!」
「気を付けてー!」
大通りに出ると、いつの間にか顔なじみになった露店のみんなと、ロザリーさん。
それに冒険者ギルドのフランクさんに、商業ギルドのバーバラさんも見送りに出てきてくれた。
手を振り返しながら、コハクを先頭に私たちは初めてソレビの街の門から外に出る。
ここから私の新しい人生が始まって、使徒として初めて仕事した場所。
「みなさん、またねー!!」
見たことのない、街道を一歩一歩進んでいく。
エヴァリディアス様の使徒として、まだ見ぬ土地へ。
アンネリーゼとしての人生は、始まったばかりだ。
これからも、私の長い道のりをみんなで乗り越えるんだ。
だから、ありがとうを言うよ。
余命二年だった私が、空間収納(生)というマイナースキルからリスタートしたこの出会いに。
次の街も、今から楽しみだな。
END
最終回です。
プロットとしては何分の一かしか進んでいなくて、全部かけば何十万文字になるか……。
コンテスト文字数と一山超えたので、一旦終了です。ありがとうございました。




