第1話 杏奈の終わり。アンネリーゼの始まり
世界がだんだん白くなる。
呼吸器をつけているのに、息苦しい。
点滴の付けた手で、呼吸器を外そうともがくけど……。
手がなまりのように重たい。
私、死んでしまうのかな……。
やりたいことは、たくさんある。
むしろ、やれなかったことが、たくさんある。
山を歩いたり、川に足をつけたり、海辺を歩いたり……色んなことしてみたかったな。
走ったり、転んだり、その辺を気まぐれで散歩してみたり。
すべては物語や映画の知識だけど、そんな当たり前のことをしたかったなぁ。
自分の手で、足で、歩くってどんな気分だろう。
点滴以外の食事ってどんなものだろう。
動物に触ったり、してみたかったな……。
次に生きるなら、そんなことを楽しめる人生だったらいいのに。
〈ヘェーーーイ!! 待たせたな! そんなお前に新たな人生を授けてやるぜぇぇぇ!!〉
突然、とんでもなくロックな口調が聞こえる!
なに?
辛すぎて幻聴まで聞こえているの?
〈その目をあけて、俺様を見な!! ロックでクールな、このエヴァリディアス様をな!!〉
涙がにじむ目を、そっと開けてみる。
なんだか、白くて眩しい。
そして――そして。
超ロックな服装に、虹色に輝く長い髪の男の人が見えた。
手にはギターに釘バッド。
え……絶対医者じゃないよね。
どっかでライブでもしているのかな?
〈そう、命というライヴをこなす、神。エヴァリディアス様だぜ!!〉
神??
なんか危ない人がいる……。
入院患者に宗教勧誘とか、怖い。
〈ノー、ノー。俺様が神!! 沢渡杏奈、異世界転生を知ってるかーー?!〉
異世界転生……?
具合が良かった頃、いくつか読んだことがあるけど……。
え? 待って、私、死んでるの!?
〈まーな! いきなり死んでるのはきついよな? でも、冒頭から杏奈は死んでたぜ!〉
冒頭ってなに??
え……私、とうとう死んじゃったのか……。
いまごろ自分の体を確認したけど、手がない……?
いつ死ぬか覚悟はしてたけど、こんなにあっけないんだ……。
たった二十二年の生。
わびしいな……何もできないで死ぬなんて。
〈今は魂だけの状態だぜッ!! 俺様はアストラシアという世界の神の一人でな、自分の使徒として杏奈を選んだってわけよ!〉
この……エヴァリ……なんとかさんによると。
エヴァリさんは神で、私を異世界によんでるの?
〈理解したか? なかなか時間がかかるな、杏奈〉
そういえば、私、口でしゃべってない。
思ったこと、読み取られてるのか……なんか恥ずかしい。
〈よし、ンじゃあ使徒として杏奈を八歳で送り出すぜ!〉
待って待って、エヴァ……なんとかさま!!
これから行く世界の説明とか……なにかないの?
場合によっては、私すぐ二回目の死だよ?
まだ、自分が死んでる自覚も薄いのに……?
〈エヴァリディアス様だぜ! これから杏奈の守護神になるんだから、名前は絶対覚えてくれだぜ!!〉
エヴァリ……ディアス様……エヴァリディアス様……。
長いな、エヴァリディアス様……。
〈俺ァ命をつかさどる神! これから杏奈が行くアストラシアの世界は、魔法が日常的な世界だ。バトルもあるが、今回苦しい生き方をした杏奈にはスローライフを送りながら使徒として生活してもらうぞ! 日常魔法とちょっとした高位魔法と、あとは使徒スキルを与えるぜ!〉
ば、バトルがある世界……。
魔法には憧れるけど、スローライフさせてくれるなら全力でそこにのっかります!!
〈スキルは、おいおい慣れるだろうから説明はしねえぜ。異世界でも俺様とチャットと電話が出来るスマホをやるから、そこでスキルの説明書を読みな!! あーとーはー〉
エヴァリディアス様ってけっこう横暴だよね?
あ、これも聞こえてるんだった。
エヴァリディアス様は、長くて凄まじい色の髪をヘドバンした。
え、怖い。
〈細かいことは気にしないぜェェ!! 杏奈には、新しい世界での名前を与えるぜ。その名は、アンネリーゼだ。俺様が付けた名前だから、使徒としてこの名を使ってくれよな!!〉
さっきからちらついてる、その使徒ってなんですかね。
なにか特別な役割なのかな。そんなこと私に出来る?
〈新しい名前にはつっこまねーかよ!! 使徒ってのは、神に選別された特別な子だ。そうそう、いくら俺様が命の神でも異世界に送り込むときは、アンネリーゼの寿命は二年だからな、気を付けろよ!〉
ええーーーーーーー!!!
生まれ変わった寿命が、たった二年!?
せっかく転生に選ばれたのに、二年しか生きられないの……?
〈焦るな、アンネリーゼ! 使徒として、人として、まっとうに生きれば、”ある言葉”をもらうと寿命ゲージが伸びる!!〉
じゅみょう……げーじ??
〈寿命ゲージは、スマホで見れるからな。ステータスと一緒だぜ!!〉
ステータス……ステータスオープン! っていうやつかな?
凄い、魔法っぽいな。
”ある言葉”ってなんだろう。
〈言葉の詳細は教えられないぜ! あくまで意識的に出た言葉じゃねーと、カウントされねーけどな! とにかくまっとうに生きてれば言われることはあるぜ!〉
じゃあ、まっとうに生きて、その言葉を貰っていると寿命が延びるんだ……。
そうすれば二年以上生きていける……?
〈まあ、最初の寿命は俺様からのシュミレーション期間だと思いな! あとの人生はアンネリーゼが自分で稼ぐんだぜ!〉
自分で稼ぐ、自分の命か……。
でも、なにもできずに死んで終わってしまったんだ。
次は、自分のために生きられるならますます頑張れる気がする。
ありがとう、エヴァリディアス様!
〈なんのなんの。いいか、アンネリーゼ。使徒としてのアンネリーゼには、俺様の聖獣を預けるぜ! 気軽なパートナーだ。バトルはそいつに頼りな! 今はまだ小さい子狐だが、アンネリーゼの成長と一緒に大きくなるから、可愛がってくれ!〉
あ、一人じゃないんだね。
小さい子狐かあ……。
想像しただけで可愛い。
しかも、バトルを任せていいとか強いんだね!
不安だけど、一人じゃないのは嬉しい。
〈聖獣の名はコハク! 俺の子供だと思って大事にしろよォ!! もう説明はいいか? レッツ異世界転生~!!〉
エヴァリディアス様ーー!
まだ、聞きたいことがたくさん……!
聞かないと困ることが……!
体が、なにかに引っ張られてる……!
怖いけど……意識が……。
エヴァリ……ディアス、さ、ま――。
〈心優しい杏奈だから、選ばせてもらったぜ……今度こそ、生きることを楽しんでくれ……〉
***
ふんふんと、誰かの鼻息が聞こえる。
手のひらに、冷たい感触がした。
目を開けると、銀色に輝く子狐が私を見下ろしている。
ここは……どこ?
『アンネリーゼ』
声がする。
私はすんなり起き上がれたことにびっくりしながら、立ち上がった。
もう何年も、座ることさえできなかったのに。
体が動く。
意思通りに、軽々と。
『アンネリーゼ、だいじょぶ??』
「だい……じょうぶだと思う……」
風が肌に触る。
足も手も、自由に動く。
感激のあまり、涙があふれた。
「わたし、転生したんだ……」
夢じゃないかって思ってた。
だって、こんな自由が。
いきなり叶うなんて。
泣きながら、一歩ずつ地面を踏みしめて。
始まったんだ、アンネリーゼとしてのリスタートだ!
新しい連載です。不慣れな女性主人公ですが、頑張りますので応援よろしくお願いします




