7.男の正体
美咲との通信を振り返りながら、田中は宇宙ステーションの窓から、青く輝く地球を一人見つめていた。彼の胸の内で、謎の男の存在が、再び大きな影を落としていた。
美咲との電話での会話は、彼の頭に一つの疑問を植え付けた。
「なぜ、あの男は、私と美咲が直接電話で話せることを知っていたのか?」
宇宙ステーションと地上の通信は、通常、管制センターを経由する。個人的な通話は、管制官の特別な許可がなければできないはずだ。それを、あの男は、まるで当然のことのように知っていた。
そして、過去の出来事が、まるでパズルのピースのように、次々と彼の頭の中でつながっていく。
<彼は、私の記憶喪失を知っていた>
あの事故は、国民には<奇跡の生還>として報じられたが、記憶喪失という事実は、宇宙環境局によって厳重に隠蔽されていたはずだ。しかし、あの男は、それを知っていた。
<彼は、宇宙船の事故の詳細を知っていた>
彼の頭の中に、一つの結論が浮かび上がった。
あの男は、異星人ではない。
彼は、地球の人間だ。そして、宇宙環境局の内部の人間だ。
<彼は、なぜ、私に、嘘をついたのか?>
もし、彼が宇宙環境局の人間ならば、なぜ、異星人だと偽り、私に接近したのか?
田中は、その答えを探すために、過去の記憶を呼び起こそうとした。
しかし、彼の頭の中に浮かんでくるのは、家族との思い出、そして、宇宙ステーションでの穏やかな日々だけだった。
<…私は、一体、誰なんだ?>
彼は、自分の存在の根源を揺るがす問いに、再び直面していた。
そして、彼の行く手には、さらなる謎が待ち受けていた。
<彼の要望に私は答えるべきなのか?>




