過去
「「きらと?」」
ななとあおいはその名前を聞いたことが無かったのか、二人は同時に首を傾げた。
「ああそうか……二人は接点無かったもんな……知らないのも無理はないか」
「煌翔は俺と晃輔、関原たちと同じタイミングで部活に入った奴でな…………一番最初に関原たちのイジメの被害を受けた子だ」
「!?……ちょ、ちょっと待って!!それは初耳何だけど!!こー兄って最初から関原さんたちにイジメを受けていたわけじゃないの!?」
あおいは驚いた表情で晃輔と泰地に問いただす。
「ああ……」
「待って!!じゃあ、何でこー兄は当時イジメを受けたの!?」
「晃輔がイジメを受けた理由は……晃輔がイジメられていた煌翔を助けたからだよ……」
『!?』
晃輔と泰地の話を聞いていたななとあおいは驚いたのか目を丸くしている。
あおい同様、他のメンバーも驚いて目を見開いている。
出身中学の違う昌平たちは当然の事、ななやあおいがこの事を知らなくても不思議はない。
この事は、当時同じ部活に所属していたメンバーしか知らないのだ。
「まぁ、それだけじゃないけどな……」
「晃輔、それだけじゃないって一体……」
「さっきのあおいの疑問に答えると、晃輔が煌翔を助けたから……そのイジメが晃輔に移って……そして……」
そう言うと、また泰地は自らの唇を強く噛んでいた。
「部活なら当然顧問がいるだろう?相談しなかったのか?」
「しても意味なかったんだよ」
高絋の疑問に晃輔が即答する。
すると、ななが動揺したように口を開いた。
「え?それってどういう……?」
「相談しても相手にされなかったんだ……正確には、俺の話は一切聞いてもらえなかった。関原たちの話はよく聞いてたみたいだけどな」
「……え?」
「無かったことにされたんだよ。関原たちの……煌翔のイジメも俺へのもな」
「……は?」
「「……え?」」
泰地となな、あおいは同時に声を上げた。
この反応、恐らくは何も知らなかったのだろう。
知らないのも無理はないと思う。
この事は、晃輔と当時の顧問、そして関原たち三人……計五人しか知らない話だ。
煌翔は気付いていたかも知れないが、それは本人に聞かないと分からない。
「それって……差別……」
ななは震える声でそう告げた。
よく見るとななは涙目になっている。
「ああ、だろうな。まぁ、だから顧問もあてにならなくてな。八つ当たりのイジメをしていた関原に、面白がって天野と湯本が参戦して……それを、俺が助けることになって、そこから、俺の方へイジメが来た。当然のように顧問は関原たち側について、どんどん関原たちは調子にのっていった」
晃輔はそう告げると、既に冷めてしまった珈琲を一口飲んで、一呼吸おくと、話を再開する。
「……毎日のように暴言と暴力……時々、俺も負けじと口でも暴力でも応戦はしていたから辛いは辛いけど、でも部活を辞めるまではって感じだった……でも、ある時期からイジメが本格的に酷くなって……」
「二年生の時の新人戦だろ?イジメが酷くなったのは」
晃輔より先に泰地が告げた。
「ああ」
「新人戦……そこで何かあったのか?」
「いや、新人戦事態では特にこれといったトラブルは無かったんだ……ななやあおいは全校集会で表彰されたから知っていると思うけど、晃輔は新人戦で勝ち抜いて入賞したんだよ」
晃輔の代わりに泰地は昌平の質問に答えた。
「え、すご!」
「入賞したんだ。凄いね!」
「すげーな晃輔」
「ありがとう」
入賞したことについて皆が晃輔を褒め称えてくれた。
「話を続けるけど……新人戦で四位になって入賞してから……晃輔へのイジメが更に酷くなったんだ」
そう告げる泰地と晃輔を、昌平たちは静かに見守ってくれた。
「所持品……自分の物が隠されるようになったり、壊されるようになったりしたんだ」『……』
「わざわざ人のリュクを開けて、中に入っているものを取り出して……悪趣味だよな。ホント」
晃輔は苦笑いしながらそう告げる。
今思えば、あれは本当に悪趣味で随分手の掛かる事をやってるなと思う。
そこまでして、晃輔を追い出したかったのか。
今となってはもう分からないが。
「新人戦が終わってから本格的に酷くなったイジメで……二年生の六月頃から悪くなっていった体調が一気に悪くなって……正直本当にしんどかった。早く部活を辞めたかった」
「……辞められなかったのか?」
「急に辞めたら、親に心配をかけるからな……」
昌平の疑問に晃輔が答えると、横から高絋が心配そうな表情で尋ねてきた。
「新人戦って確か十月だったよな……晃輔が部活辞めるまでだいたい半年強……辛かったよな……」
「結構辛かったぞ。流石に」
「……なぁ晃輔。顧問とかは難しいとしても、他の同級生とかには助けを頼めなかったのか?」
「……もし、それで……泰地たちを巻き込んだら……って思うとどうしてもな……多分、昌平も俺と同じ立場ならそうすると思うぞ」
晃輔がそう告げると、昌平をはじめ皆黙ってしまった。
「イジメとかイジメによる体調不良とかで……そういうストレスが重なって、身体に限界が来て……こー兄は部活を辞めたんだね……」
あおいのそれに晃輔が無言で頷く。
すると、泰地が今にも泣きそうな表情で晃輔に告げた。
「晃輔、ごめんな……あの時助けてあげられなくて……」
「……泰地」
「俺……怖くて、晃輔や煌翔のイジメを間近で見てたから……晃輔は好き勝手して皆に迷惑をかける関原たちから、俺たちを守るために辛い思いをしたのに……部長の俺は何にも……何も出来なくて……結果的に晃輔は引退前に部活を辞める事になって……ごめんな晃輔。ごめん……」
遂に泰地の涙腺が決壊して大粒の涙を零し始めた。
イジメを受けた晃輔が辛かったのは当然だが、それを何も何も出来ずに見ていることしか出来なかった泰地はもっと辛かっただろうし、後悔をし続けてきたのだろう。
どちらが辛いとか苦しいとか、そういうのは比べるものではないが、泰地も相当辛い思いをしたはずだ。
大粒の涙を流す泰地に、晃輔も貰い泣きをしてしまう。
周りを見ると、晃輔だけではなく他の皆も貰い泣きをしていて、朝から皆の顔がぐちゃぐちゃだ。
晃輔は崩れそうになる泰地を支えて、優しく告げた。
「ありがとう泰地……大丈夫だから、だから泣かないでくれ……漢だろ?」
「……うん」
「泰地には色々と感謝してるんだ……高校に入る前からも入ってからも……色々と泰地には助けられているんだ……だからー」
晃輔がそう告げると、泰地は言葉を絞り出すようにして告げた。
「晃輔が、あとちょっとで引退ってところで部活を辞めて……辞めざる得なくなって……ずっと後悔してた。何も出来なかった自分が凄く嫌いになった……」
涙が止め処なく溢れてくる泰地を、晃輔たちも涙を溢しながらもしっかり見守る。
「俺がこの高校に行こうって決めたのも、晃輔がこの高校に行くからって言うのが理由なんだ。中学の時助けてあげられなかった分、高校では晃輔を助けてあげたい」
泰地は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらそう告げた。
「でも、学校では助けてあげることは出来ても……精神面ではやっぱり俺じゃあ無理だから……だから、あおいに頼んだんだ。晃輔の事どうにか出来ないかって」
『え!?』
「……あおいそうなのか?」
「うん。こー兄がイジメを受けて部活を途中で辞めたこと……辛い思いをしているはずのこー兄をどうにか出来ないかって、たいち兄から相談を受けてたんだ。中学の時に」
なるほど、少しだけ分かった気がする。
何故、高校に入ってから泰地はななを楠木と呼び、あおいはそのままあおいだったのか……それは、泰地があおいに相談したりなどでマメに連絡を取り合っていたからだろう。
「当時は、疎遠になっちゃってたけど……お姉ちゃんなら、こー兄を何とか出来るんじゃないかって」
「私なら……?」
「そう。お姉ちゃんならこー兄の事何とか出来るんだじゃないかって……それこそ……昔の、太陽みたいなこー兄に……ってね?」
貰い泣きで目をぱんぱんに腫らしたあおいは、目を潤ませながらそう告げると、そのまま優しく微笑んだ。




