お泊り会2
一番最後に入った晃輔が風呂から上がると、リビングの方でゲーム大会が始まっているのだろうか、何だか白熱した声が聞こえてくる。
「元気だな……あいつ等……結構いい時間なのに……」
一番最後に入った晃輔がお風呂を上がった時間は十一時過ぎ。
プールに行ったり、部活の助っ人があったはずなのに何故あんなに元気なのだろう。
浴室から出た晃輔がリビングに行くと、いつも見慣れたリビングの雰囲気ではないことに気付いた。
よく見ると、リビングに置いてあるソファやソファの前に置いてあるローテーブルが移動されて、代わりに部活の合宿みたいな感じに布団が引かれていた。
「あれ……何でリビングに布団が……?十枚も」
「ああ……おかえり晃輔」
晃輔の帰還に気付いたななが軽く微笑む。
「だだいま。なぁ、何でリビングに布団が十枚も引かれてるんだ?というか、ウチにそんなに数なかったよな」
「さっき、晃輔がお風呂に入ったと同時にお母さんたちが来てね。両家の。お布団を持ってきてくれた」
そう言って、ななは嫌な顔一つせず晃輔の疑問に応えてくれた。
それにしても、晃輔が風呂に入っている僅かな時間でウチに来て布団だけ置いて帰る、なんてことが出来るとは思わなかったので流石に驚いている。
「お、晃輔おかえり」
風呂上がりの晃輔に気が付いた泰地が声を掛けてくる。
「だだいま」
「あ!こー兄おかえりー!」
「だだいま」
「こー兄!さっきね、嶺兄やお母さんたちがお布団持ってきてくれたよ。夜ご飯食べてすぐあたりに連絡したの!お布団足りないかもって、そしたらさっき持ってきてくれた!」
「ん」
嶺や母親たちに連絡したのはあおいだったらしい。
相変わらず思い立ったらすぐ行動……今回の場合は親に連絡ではあるが相変わらずとんでも無い行動力だ。
「そもそも、何で布団があんの?ななと晃輔は同じベッド使ってんだろ?布団の必要無くないか?」
「「……」」
泰地のご尤もな疑問に、晃輔とななは泰地から思いっ切り目を逸らした。
すると、二人を見たあおいが可笑しそうに笑って晃輔とななの代わりに説明してくれた。
「最初のほうね、もし時間があったらこっちの家に泊まってみたいって、そうお母さんたちが言ってたんだけど……一応そのためにお客さん用のお布団を買ったって感じかな……まぁ、結局まだ一回も泊まりに来たことないけどね」
「……ああ、なるほど。流石楠木家、藤崎家のご家族って感じだな……」
何がなるほどなのだろう、と突っ込みたくなったが、突っ込むとそれはそれでめんどくさくなる気がしたので黙っておくことにした。
その説明で納得されるのはいかがなものかとは思うが、本当にその通りなのだから仕方ない。
あおいの説明で泰地が納得したように頷くと、あおいは先送りしていたお布団問題に話題を移した。
「それにしても、どうしようかーお布団の数十しかないんでしょ?」
「そうだね、誰かと誰かが一緒じゃないと流石に」
「それなら、昌平と吉橋でワンセットでいいんじゃね?」
すると、割と真面目に話している晃輔やななたちと違って、リビングで高絋や石見たちと共にゲーム大会に参加していた昌平と希実が驚いたような表情でお互いに顔を見合わせた。
「え!だって!しょうちゃん」
「ああ!やったなのん」
「駄目だ」
「駄目よ」
ゲームリモコンを片手にそう言う昌平と希実に、綺麗に声がハモった晃輔とななが間髪入れずにそう告げた。
「「はーい……」」
昌平と希実は素直に返事をすると、直ぐにテレビの方に目を移した。
筋乃は間髪入れずに告げた晃輔となな、昌平と希実を見て苦笑いすると、困ったような表情になって告げた。
「あはは……二人がだめなら、じゃあどうしようか……」
どうしよう、と筋乃が困った表情で晃輔に助けを求める。
しかし、筋乃に助けを求められた晃輔も同じ様にどうしようかと頭を抱えていた。
「はい!はい!私、こー兄と一緒に寝るー!」
「だめ!!あおい、あなたは私と一緒の布団よ」
「えー……こー兄とがいいー!」
あおいが元気良く手を上げてそう告げると、予想通りななが止めに入りあおいは不貞腐れたように顔を膨らませた。
「駄目なものは駄目。あおい、あおいの寝相めちゃくちゃ悪いんだから、晃輔が寝れないでしょ。いいの?晃輔が寝れなくて」
なながそう言うと、あおいは何か考えるような仕草をして唸りだした。
「…………じゃあ、お姉ちゃんがこー兄と一緒に寝る?」
「なぁ!?」
「はぁ!?」
本日二度目の綺麗なハモリと、予想通りの反応をした晃輔とななに泰地と筋乃からはため息が漏れた。
割と真剣な表情で考えているみたいだったのでそっとしておいたが、何故ああいう結論になるのだろうか。
「ね、寝るわけないでしょ!!」
「まぁ、そもそも毎日一緒に寝てるもんねー!ラブラブだよねー!?」
「「……!」」
晃輔とななはあおいの言葉に顔を赤くすると俯いてしまう黙ってしまう。
すると、晃輔とななの反撃が来ないと判断したのか、あおいは顔をにやりとさせて攻勢を強めてくる。
「お姉ちゃんはいつもこー兄と一緒に寝てるんだしー、今日ぐらいはこー兄と一緒に寝てもいいじゃん?」
「そ、そうだけど……それとこれとは別よ」
「何がどう別なの?」
横から筋乃の鋭いツッコミが入った。
「だったら、三人で寝るっていうのは?どお?私もだけど……こー兄と寝られるんだからお姉ちゃんも満足でしょ?」
「…………三人……そうね……悪くないかも……」
「ななさん!?……ってかそんなに悩むところなの?というか俺の意見は!?」
「なさそうだな」
あおいのぶっとんだ提案に深夜テンションになりつつあるななが承諾しかけていて、状況がどんどんカオスになっていく。
というより、こうして皆が同じ部屋に居るのにななやあおいと同じ布団に入るというのは、二人きりだけならまだしも……まだしもというのもおかしな話ではあるが、それでも、何かこう、色々と背徳感や恥ずかしさが凄いので本当に絶対やりたくない。
「もう!このままだと話が一向に進まないから、藤崎君悪いけどもう私が決めるね。あおいちゃんには悪いけど、今日はななと寝てくれないかな?三人で寝ると布団の問題で藤崎君が流石に可哀想。いいかな?いいよね?三人とも」
「わ、わかったわ」
「はーい!」
「何で俺まで……」
「返事は?」
「は、はい……」
有無を言わせない筋乃のお陰で何とかまとまった。
すると、この話題の当事者の一人であるはずの泰地が俯瞰したような表情で一人呟いた。
「筋乃みたいな人間が居ると助かるな……それにしても、一緒に暮らすことになった経緯を知らないと……この会話聞くだけだと晃輔とななはただの同棲カップルだよな……」
「「うるさい!」」
「本当に息ぴったりだね……はぁ……」
本日三度目のハモリに、筋乃と泰地はやってられないと言わんばかりに大きくため息をついていた。
「……ところで、たいち兄。さっき、あとで話すって言ってたプールでの事って……」
「ああ……そう言えば話すって言ってたもんな」
「あおい、あんたね……」
あおいが始めたこの無駄な時間のお布団騒動をあおいが自ら終わらせた事に、ななは怪訝な表情であおいに視線を送る。
すると、晃輔たちそっちのけで人の家でゲーム大会を行っていた高絋たちが、こちらの話題に混ざってきた。
「お、そっちのお布団騒動終わったみたいだな」
「ずいぶん楽しそうだったよね」
「長過ぎ。時間掛かり過ぎ。ほら、皆飽きちゃうよ?ね?」
「……藍子、どこ見て言ってるの?」
明後日の方向を見てそんな事を言う土井に、晃輔たちが反応に困っていると、あおいはマイペースに泰地に尋ねた。
「それで、たいち兄。何があったの?プールで」
あおいの問に泰地は少し間を置くと、ゆっくりと口を開いた。
「…………プールで関原たちと会ったんだ……偶然な……」
「!?……関原さん、たちと……?」
「ああ……」
「関原さんたち……ってことは他の二人も……?」
関原たち、と言っただけで他に誰と誰がその場にいたのかまで理解したらしい。
あおいなりに顔色を変えないように努力をしているのだろうが、あおいの纏う雰囲気からは怒りの感情が滲み出ている。
「……そっか……」
珍しい状態のあおいに、他の皆は動揺しているのかほとんど言葉を発さなかった。
あおいは何か言いたそうだったが、晃輔たちを見てどうやら言葉を飲み込んだようだった。
あおいは軽く首を振ると、大きく息を吸い込んだ。
「……そんなことがあったんだ……災難だったね、こー兄。たいち兄。お姉ちゃんたちも」
「私は大丈夫よ。直接的な被害は無いし」
「俺も」
「……」
「こー兄……」
俯いて黙ってしまった晃輔に、あおいは心配そうな表情で声を掛けてくれた。
「ごめんな、大丈夫だ」
もう過去の話だ。
いつまでも昔の事を……過去のトラウマを引きずっているわけにはいかない。
けれど、忘れようとしてもそれはかなり難しいもので、体の傷は時間が経てば癒えるが、心の傷というのは、幾ら時間が経っても癒えないもの。
ただ、まさか、今日、その心の傷を作った張本人たちに会うとは流石に思わなかったが。
「ねぇ、晃輔、なな。枕投げ大会しても良い?」
物思いにふける晃輔とその場の雰囲気を全無視して希実は突然そんな事を言い出した。
「は?」
「はい?」
本当に突然過ぎるぶっとんだ提案に、晃輔とななは思わず声を出して反応してしまう。
あおいと泰地に関しては最初こそ驚いてはいたが、直ぐに希実の意図を理解したのかお互いに顔を見合わせて苦笑いしていた。
「ふふ、良いかもなのん。皆もどうだ?」
「そうだね。良いかも!」
「楽しそうだな」
「いやいや!待って!ここ旅館とかじゃないから!普通の家だから!家具とかあるんだけど!?」
希実の提案に乗り気になった皆は早速枕を手に持って臨戦態勢に入ろうとするが、それを見たななが慌てて止めに入る。
「えー!じゃあゲームは?」
「……なら良いけど……」
「やったー!」
もう少しで日付が代わるためか、深夜テンションになりつつあるなながそう答えると、希実たちは早速先程まで使っていたゲームの電源を入れテレビに繋げて準備を始めた。
気を使ってくれたのか、それとも単に遊びたかっただけかはわからないが、良い意味で雰囲気をぶち壊してくれた昌平と希実に晃輔は心の中で感謝した。




