お泊り会
『お邪魔しまーす!』
ファミレスから二人の住むマンションまでやって来た希実たちは、皆声を揃えて玄関から廊下にあがった。
「ん、いらっしゃい」
「どうぞ」
希実から連絡を受けた晃輔とななは、昨日慌てて掃除をして何とか綺麗にした。
晃輔たちが廊下にあがると、合鍵を使って先に晃輔とななの家に上がっていたあおいがリビングの方からバタバタと音を立てて出迎えてくれた。
「こー兄! お姉ちゃーん!お帰りー!!」
「きゃあ」
「うぐッ」
あおいに思いっ切り抱き着かれた晃輔とななは倒れないように何とか踏み止まる。
今、もし後ろに倒れたら色々と危険だ。
なんか、前にも似たようなことがあり晃輔はデジャヴを感じてしまった。
どうやら、あおいはさっきまでシャワーに入ってらしく、まだ若干髪が濡れている。
夏だから、風呂上がりで暑いから薄着なのは分かるが、何でかとは言わないが、そんな体温がほぼ直で感じるような状態で抱き着いては来ないでほしかった。
「あれ、あおい?」
「あれ、勝利の女神だよな……?」
「……だよな……たぶん」
抱き着かれた晃輔とななの後ろで泰地たちが唖然としている。
「突然何よ……それよりも、あおい……何で……?」
「大会の助っ人があるから遅くなるって……」
「結構早く試合勝ったから、早くこっち来れた!」
最初、希実からプールの話が出た際はあおいも参加する気満々だったのだが、次の日……今日はあおいは試合の助っ人が入っていたためプールの参加は無しでお泊り会だけ来る、という予定だった。
いくら試合が早く終わったにしても、それにしても、早すぎるような気もする。
「早くこー兄たちに会いたいから、私頑張ったんだよ?」
そう言うと、あおいは自分の頭を差し出してきた。
恐らく、これは頭を撫でてほしいのだろう。
「はいはい。よく頑張ったな」
「頑張ったわね」
「えへへ~」
晃輔とななは一度顔を見合わせて小さく微笑むと、差し出してきたあおいの頭を優しく撫でた。
頭を撫でられたあおいはご満悦そうに笑うと、頭を撫でられて満足したのか、今度は泰地たちに向かって声を上げた。
「みんなさん、こんにちは!」
『こんにちは』
「いつもこー兄とお姉ちゃんが大変お世話になっています」
「おい!」
「ちょっと!」
想定外の言葉があおいから放たれて動揺する晃輔となな。
「大丈夫だよ。ななはこれでも意外としっかりしてる方だから」
「意外とってどういう意味よ!? しっかりしっかりしてるでしょ!」
希実のそれに思いっ切り目鯨を立てるななに対して、他のメンバーは顔を苦笑いしながらななから目を逸らす。
『……』
「ねぇ、何でみんな黙るわけ?」
「自分が抜けてるっていうのはご自覚無い?」
「……」
割と真面目な表情で皆に尋ねたななだったが、希実に思いっ切り痛い所を突かれて何も言えなくなる。
「ふ」
「ちょっと! あおい!」
堪えきれなかったあおいが吹き出すと、それにつられて他の皆も笑い出した。
「ごめんごめん。お姉ちゃん怒んないでよー。ところでプールどうだった?楽しかった?」
「え?ええ、楽しかったわよ……」
「……おう楽しかったぞ……」
歯切れの悪い……楽しかった、という割にはちっとも楽しそうな表情をしていない晃輔とななに、あおいは思わず首を傾げた。
「……? たいち兄、お姉ちゃんたち一体どうしたの?」
「……あとで話すよ」
あおいに尋ねられた泰地はそう告げた。
すると、廊下に上がってからずっと立たされている土井が告げた。
「……なな、藤崎君。非常に申し訳ないんだけど、そろそろ玄関から中に入れてもらえないかな?暑いし重い」
「あ、ああ、ごめん」
「悪かったわね。どうぞ」
「どうぞ〜」
そう言って、晃輔となな、あおいが皆をリビングの方へ招き入れる。
「相変わらず大きい家だねー」
「だなー」
「二人っきりで住むには勿体ないぐらい」
希実と昌平、土井が来るたびにそう言うが、その文句は兄に言ってほしい。
晃輔がそんな事を思っていると、石見と筋乃があおいに近付いて来た。
「ごめんねーあおいちゃん。いきなりお泊り会の連絡なんかしちゃって……」
「全然大丈夫ですよ! 私も、みなさんとお泊り会できるの楽しみでしたから!」
「その申し訳無さをもう少しこっちにも向けてほしいんだけど?」
「……ところで、あおいちゃん今日試合だったの?」
「はい! そうですよ!」
「……無視」
「どうだった?」
「勝ちました!」
「おー、おめでとう!」
「ありがとうございます!」
ななの話を全無視して自分たちの話を進めるあおいと石見たちに、晃輔と泰地は隣で苦笑いをする。
「晃輔、俺たちはどうすればいい?」
「サンキュウ。それじゃあ、そろそろご飯作るから、テキトーに遊んでいてくれ」
晃輔たちの家に来る途中で買ってきた食材たちを、泰地たちに手伝ってもらいながら冷蔵庫に入れ終わった晃輔はそう告げる。
『はーい!』
「もう作るの?」
「人が多いからな。時間が掛かるんだよ」
キッチンに立った晃輔があおいの疑問に答えると、それを見ていたなながキッチンに手伝いに来てくれた。
「私も手伝うわ。あと……私も少し作るから」
「そうか……サンキュ。ななの作る料理は美味しいからな。楽しみだよ」
最初は……というかどちらかと言うと今もだが、ななは驚くほどに家事音痴だ。
しかし、料理だけはそこまで音痴というわけでは無く、ちゃんとレシピを見れば出来なくは無い。
簡単なのは出来るのだが、難しいものだとまだまだ晃輔の監修が必要であるが、時間を掛けて作ったななの手料理は非常に美味しいのだ。
正直、あれは毎週食べても飽きない自信がある。
晃輔がそんな事を思っていると、ななが洗い場の前で固まっていた。
「……どうした?」
「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、本当に不意打ちは良くない」
「?……何の事だ……?」
「分からないなら……もうそれでいいわよ」
そう言って、ぷい、とそっぽを向いてしまったななに、晃輔は首を傾げた。
「ええ……」
***
「あー、美味しかったー!」
晃輔とななが作った夜ご飯を完食した希実が満足そうに腹をさすった。
表情からも大満足というのが伝わって来て晃輔の頬が少し緩んだ。
周りを見渡すと他の皆も満足そうな表情をしていて、作った側の晃輔からしてみれば気分が良いものだ。
「こー兄! ありがとー!」
「どういたしまして」
「ななもありがとう! 美味しかったよ!」
「ありがとう……でも、私は大したことしてないわよ……晃輔のを手伝っただけ」
石見にそう言われたななは恥ずかしそうに答える。
すると、満足そうにお腹をさすっていた希実がにやにやしながらななを見てきた。
「別に恥ずかしがることはないと思うんだけど……ねぇ?」
「そうそう。美味しかったよ、楠木さん。晃輔と共同作業して作ったビーフシチュー」
「ぶっ」
晃輔は突然の昌平のそれに飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになった。
晃輔の隣に座るななを見ると、飲み物などは飲んでいなかったので吹き出すなんてことは無かったが、ななは顔を赤らめて俯いていた。
伝染して晃輔まで内側から頬が熱くなっていくのを感じて、晃輔の正面に座るいらんこと言った昌平の脛を思いっ切り蹴ってやった。
思いっ切り脛を蹴られた昌平は苦痛の表情をしながら晃輔に抗議の視線を送った。
晃輔は昌平のそれを無視して、昨日予め作っておいてついさっき出した金魚鉢ゼリーを口に含んだ。
「ところで、そろそろ誰か風呂に入らないと最後の人十二時過ぎるぞ、入る時間」
「えー! 早くないこー兄? まだ七時過ぎたばっかりだよ?」
「早くない。十一人いるんだぞ。仮に一人三、四十分だとしても……」
「まぁ、確かに女子はそれぐらいは……そうね……そしたら、ウチのお風呂はそれなりに大きいし何人かでいっぺんに入るっていうのも……」
人数が多すぎるため、一人一人で浴室を使うとえらいことになる。
なので、晃輔たちの家の浴室の広さを有効活用して、何人かでいっぺんに入った方が色々と効率が良い、というのがななの意見らしい。
ちなみに晃輔もその意見に賛成なのだが、ななが言い終わらないうちに、石見が手を上げて意見を述べた。
「はいはいはーい!! そしたら、希実を除いた私たち女子だけでお風呂入っちゃおうよー?」
「私は!?」
「丹代くんと入ればいい」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
至って大真面目な表情の土井が、石見の意見を静かに代弁した。
すると、流石にこれには晃輔とななだけではなく昌平や希実、泰地たち男子陣は驚いた表情を土井に向ける。
「その通り!」
「い、いいいや、待って待って!!」
「何が、その通り! だ。駄目に決まってる! 普通に考えれば分かるだろ! ラブホじゃないんだから、男女別だ!」
とんでも無い事を言い出した土井に、晃輔とななは慌てた表情でそう告げた。
すると晃輔とななの横で昌平と希実が小さくため息をついた。
「まぁ、そうだよねー」
「流石に晃輔に出禁にされそう」
「出禁になるようなことするつもりだったのか?」
「いやいや、別に。流石にしませんって。しないから……晃輔睨まないで、怖い」
「ったく……女子の方は……六人いっぺんに入れそうか?」
「たぶんね……男子たちはどうする? 流石に一緒には入らないでしょ?」
「ああ……俺は最後でいいから、女子たちを先入れてから、その後、一回張り替えて男子が入る、でいいな?」
『はーい!』
あおい以上にとんでも無い事を言う土井に、晃輔は抗議の意味を込めてジトッという視線を向けつつ、改めて、個性の強い前途多難過ぎるのメンバーに頭を抱えるのだった。




