海
「着いたー!こー兄遊びに行こー!」
嶺の運転する車で海に着くなり、既にハイテンションになっているあおいが晃輔の手を取って強引に海に連れて行こうとする。
「おい、あおい」
「ちょっと!あおいストップ!」
車を置きに行くから、と言って何処かに行ってしまった嶺の代わりに、自分の分も合わせて四人分の荷物を持つ晃輔は既に半分バテ始めていた。
「えー!」
「気が早いのよ」
「それにあおい、まだ着替えてもないだろ?」
「?……着替えているよ!ほら」
そう言って、あおいは着ていたスカートを捲りあげる。
「!?」
あおいがスカートを捲り上げた瞬間、黒色の何かが見えた気がした。
思わずあおいの方に視線を送ってしまうと、晃輔の隣にいるななから冷たい視線を向けられた。
「晃輔」
「……俺、今のは何も悪くなくない?」
理不尽過ぎないか、と思わず呟く晃輔。
何故かななに睨まれた晃輔だったが、あおいがすぐに助け舟を出してくれた。
最もそれはあおいから出された泥舟だったのだが。
「どーせ、お姉ちゃんも着てきたんでしょ?えいっ!」
「きゃあっ!?」
あおいはななのスカートを思いっ切り捲り上げた。
あおいにスカートを捲し上げられたななは可愛らしい悲鳴を上げる。
「ほら、やっぱり!ね!こー兄!」
ね?と言われても晃輔は非常に反応に困るのだ。
晃輔が困惑していると、スカートを捲られたななは顔を真っ赤にさせてあおいを睨んだ。
「あーおーいー!」
「……あのさ、朝から元気なのも良いけど、テント広げないと荷物置けないぞ。あとついでに遊べないぞ」
「!?」
「あ、嶺兄!お帰りー!車ありがとー!」
「ただいま。なな、あおい、下に水着着ているならテント広げるの手伝ってくれ」
「はーい!」
あおいが元気良く返事をすると、晃輔が持っている荷物を奪い取って手際良くテントを立てていく。
あまりに手際良く行うあおいに晃輔が感心していると、それを見たななもあおいを手伝い始めた。
持ってきたビーチパラソルを晃輔が砂浜に刺して準備終了。
まだ水着に着替えられてない晃輔が更衣室で着替えて戻って来ると、白地のビキニの水着に身を包んだななと、可愛いらしい大きめフリルがあしらわれた黒色の水着を着たあおいがそこに居た。
驚いたことに、ななもあおいも両方共ビキニタイプの水着を選んでいたのだ。
もし、ななとあおいが知らない人だったら、晃輔は何処かの美少女アイドルが撮影か何かを行いにやってきたのではないかと勘違いするだろう。
「あ!こー兄!待ってたよー!」
他のお客さんに熱い視線を注がれて、居心地悪そうにしているななとは対象的に、あおいはそういうのを一切気にしてないのかぶんぶんとこちらに手を振ってくる。
「悪い遅くなった」
「いーよ!大丈夫!早く行こー!」
「ちょっと待てって。俺は一旦浮き輪に空気入れてから行くから、先行ってくれ」
そう言って、晃輔は空気を入れる所に口を付けて空気を入れ始める。
空気入れを持ってくれば良かったものの、海に行くことが決まったのが昨日なのでそこまでは準備に手が回らなかったのだ。
「んー!こー兄貸して、私が入れるから」
「!?」
「こー兄はこっちの空気入れて!」
晃輔が何か言うよりも先に、あおいは晃輔が膨らませていた浮き輪を奪い取って膨らませ始めた。
「あ……それ、俺が膨らませていたやつ……」
晃輔がそう呟くと、隣でななが顔を真っ赤にさせて晃輔たちを睨んでいた。
「……なぁ、俺やろうか」
一向に進まない三人の状態を見かねた嶺が、俺が膨らませようか、とそんな提案をしてきた。
「ああ、えっと……じゃあお願いしようかな」
「つ、疲れたー!」
嶺の提案を受け、晃輔が嶺にお願いしようと浮き輪を渡した瞬間、あおいが空気を入れ終わったらしく砂の上で大の字になって寝転んでいた。
早すぎるでしょ、とあおいに呆れながらそう告げるなな。
「ねぇこー兄、お姉ちゃん遊びに行こー!浮き輪たち嶺兄が膨らませてくれるってー!」
「浮き輪なくてどうやって海で遊ぶんだよ?」
「私は別に問題ないけど……?」
「……あおいはね」
私は全然大丈夫ー!とあおいは元気良くそう言うが、あおいと違ってスポーツ万能体質ではない晃輔やななには念の為として浮き輪などはほしいものなのだ。
「ところであおい、あなた日焼け止め塗った?」
「日焼け止め……あ!忘れてた!」
「やっぱり……そうだと思った。日焼け止め塗らないと肌真っ赤になるわよ」
予想通りのあおいの返答に大きくため息をついたななは呆れた表情でそう告げる。
ななにそう告げられたあおいは、自宅から持ってきたバックに手を入れて日焼け止めを探し始めるが、あおいはどうやら忘れたらしく困ったようにななを見つめ始めた。
「ねぇお姉ちゃん日焼け止め持ってる?」
「忘れたの?」
「うん!」
「うん!じゃないでしょ……はぁ、全く……ほら私の貸すから使いなさい」
ななはあおいが日焼け止めを忘れる事をご予想出来ていたのか、呆れた表情になりながらも自分のバックから日焼け止めを取り出してわざわざ蓋を開けてあおいに渡した。
その様子を見ていた晃輔は、流石あおいのお姉ちゃんだなと小さく微笑んだ。
「はーい!……そうだ、こー兄はもう塗ったの?」
「いや、俺もななと一緒のを使うつもりでいたから……あおいを待って……って何だよ?」
「いや〜?『一緒のだって』ねぇ?お姉ちゃん?」
「…………」
晃輔が話していると、何故か途中からあおいがにやにやし始めたと思ったら、突然首を横に向けてほんのりと頬を染めたななの方に視線を飛ばした。
あおいの視線を追って晃輔もななに視線を向けるが、視線を向けられたななはぷいっとそっぽを向いた。
「ふふ、お姉ちゃん可愛い。ねぇこー兄。私こー兄に日焼け止め塗ってあげるからこー兄は私とお姉ちゃんに日焼け止め塗ってくれー」
バシッ!
あおいが最後までは言うよりも早く、嶺があおいの頭を引っ叩いた。
「痛っ!嶺兄!何で叩くの!?」
嶺に頭を叩かれたあおいが抗議の声を上げるが、当然のように嶺は抗議をスルーする。
「からかい過ぎだ。ほら見て見ろ。晃輔もななもいっぱいいっぱいになってるだろ」
「「…………」」
「二人とも高校生なんだから、多感な時期にあんまり刺激してやらないでくれ」
「嶺兄……私も高校生なんだけど?」
あおいはぼそっとそう呟いた。
「ややこしくなるから自分で日焼け止め塗ってくれ」
「「は、はい……」」
「はーい」
嶺に言われた通り晃輔たちは大人しく日焼け止めを塗る。
晃輔たちが日焼け止めを全身に塗り終わると、あおいは膨らませた浮き輪とビーチボールを器用に持ちながら晃輔とななの手を引っ張って強引に海へ連れて行った。
「それじゃあ行くよ!」
「お、おい。あおいちょっと待て」
「ほら、お姉ちゃんも!」
「ちょっと、待って……」
晃輔とななの話など全く聞かずに二人を強引に海に引っ張っていく。
「じゃあ嶺兄!荷物番よろしくねー!」
「おう、楽しんでこいよ!」
「ありがとう!こー兄!お姉ちゃん!いっぱい遊ぼうね!」
そう言ってあおいは晃輔とななの手を掴んで海へ駆け出して行った。




