海2
海でビーチバレーもどきなるものを行い、疲労したなながテントで休んでいると、トイレから帰ってきた嶺に尋ねられた。
「ななは行かなくて良いのか?」
「私にあんな体力はないわ」
「そっか……」
ななと嶺が見つめる先で、晃輔とあおいがななを置いて海で遠泳勝負をしているのだ。
「何でさっきまでビーチバレーしてて、あんなに長時間泳げるのよ……」
ななが呆れたような目をして晃輔たちを見つめる。
「あおいは体力も身体能力もお化けだからな。まぁ、それについていける晃輔も晃輔だけど……」
とそんな話をななと嶺がしていると、たっぷり遊んだ晃輔たちがテントに戻って来た。
「お帰りなさい」
「おかえり」
そう告げるななと嶺の声が被り、晃輔は小さく笑った。
「どうした?晃輔」
「いや、なんでもない。それよりもゴメンななな」
晃輔、なな、あおいの三人でビーチバレーもどきで遊んだあとななは、疲れた、と言ってテントに戻ってしまったのだ。
一時期あおいの遊びに付き合わされていた晃輔は別に問題ないのだが、そこまで体力がある訳ではないななには結構しんどいものだろう。
「ふふ、大丈夫よ晃輔。気にしないで?それよりも……楽しかった?」
「うん!楽しかったー!」
「ああ。久々に全力で体を動かした気がする」
「そっか良かったな」
「ああ」
久しぶりに人目を気にせずに全力で遊ぶことができて、何となくたが少しスッキリした気分になった。
「こー兄も楽しかったなら良かったー!でも!こー兄は罰ゲームあるからね?」
「………………………………マジ?」
いたずらっぽい笑顔でそんな事を言い出すあおいに、晃輔は思わず顔を思いっ切り顰めて頭を抱えた。
暑すぎる夏の日差しを避けるために、テントの中で晃輔とあおいの会話の行方を見守っていたななと嶺は、何となく予想していたのかあおいの発言に苦笑いしていた。
「まじ、だよ?」
そう言って楽しそうにあおいは笑う。
晃輔がななや嶺に助けを求めるも、諦めろ、と言わんばかりに、首を横に振っていた。
あ、これ、もう逃げられないな、と悟った晃輔はもう半分やけくそ気味になってあおいに尋ねてみた。
「……で、あおいは俺に何やらしたいんだ?」
「そんな怒らないでよーこー兄!私はそんなに鬼じゃないよー?私は優しい優しい、勝利の女神、なんだよ~?」
「本当の女神様は絶対そんな事言わないだろうな」
「もー!!」
晃輔がそう告げると、あおいは河豚みたいにぷくーと顔を膨らませて抗議の声を上げた。
あおいが鬼じゃないことは勿論なのだが、あおいが考えた罰ゲームなんて絶対いい予感はしない。
「まぁ、あおいは女神様とは程遠いかもね」
「お姉ちゃんまでー!ぶー!!」
ななにまでからかわれたあおいが不満そうに顔を膨らませると、大きくため息をついて晃輔に告げた。
「……こー兄の罰ゲームは、私たち四人分のかき氷と焼きそばを買ってくること」
「え、それで良いのか?」
意外とまともな内容の罰ゲームに驚きの声を上げる晃輔。
正直、砂浜に生き埋めでもされるとか、遠泳10キロなど、何かとんでもない罰ゲームをさせられるのかと思っていたので、拍子抜けだ。
「晃輔。多分晃輔の感覚バグってるぞ」
「そうね……確かにあおいにしてはまともな内容だけど、言ってることただのパシリだからね。それ」
ななと嶺に言われるまで気付かなかったが、確かにこれはただのパシリだなと思った。
「もーお姉ちゃんまでー!」
言われるまで気付かなかった自分に恐怖しつつ、とりあえず晃輔は、あおいの言う通り人数分のかき氷と焼きそばを買うことにした。
売店に行って人数分のかき氷と焼きそばを買ってきた晃輔がテントに戻ると、テントの側であおいと嶺が砂を使ってお城を作っていた。
「何やってんの?」
「ん?あ!おかえりこー兄!ありがとう!」
「お、晃輔サンキュ」
晃輔に気が付いたあおいと嶺が、晃輔に近付いてきた。
「おう……二人ともいい年してなにやってんの?」
「お城作り勝負だよ?ねぇー?嶺兄」
「ああ」
晃輔が呆れた表情で尋ねると、あおいは両手に砂がたくさんついた手でそう説明してくる。
「何で高校生……それも一年生と一緒に元社会人が砂遊びしてるんだよ……」
あおいと嶺の行動に頭を抱えたくなるのをなんとか堪えて、買ってきたかき氷が溶けるといけないのでテントの方に身を寄せる。
「まぁいいや、それよりもかき氷の味はこれで良かったか?ななもあおいも兄さんも」
「さすが晃輔ね」
「さすがこー兄!」
「ああ。サンキュな」
ななはいちご、あおいはブルーハワイ、嶺はメロンだ。
皆昔から好みは変わってないようで安心した。
因みに晃輔はレモン味を頼んだ。
「好みが変わってなくてよかったよ。もし、あれなら俺のと交換しようかと思ってたけどー」
「はい!私もレモン味食べたいです!!」
晃輔が言い終わるよりも早くあおいが元気よくそう告げた。
すると、あおいが結構な声量を出した影響ですぐ隣いたななと嶺が顔を顰めていた。
「あおい、その前に手を洗ってきなさい」
「はーい!」
「……」
「流石にわかってるよ」
晃輔がジト目で嶺を見ると、大丈夫だって、と告げてあおいについて行った。
今の精神年齢があおいと変わらないようでは正直心配ではあるが、まあ大丈夫だろう……多分。
あおいたちは手をきれいに洗って帰ってくると、四人一斉にこの暑さのせいで少し溶けかかっているかき氷を食べ始めた。
「ん〜!美味しー!」
「そうね。良かったわねあおい」
「うん!こー兄!ありがとう!」
「どういたしまして」
ちびちびとかき氷を食べる晃輔に対して、凄い勢いでかき氷を食べていくあおい。
あれは後のことを考えているのだろうか。
そんな事を思いながらあおいを見ていた晃輔は、ななが晃輔を凝視していることに気が付いた。
「晃輔、私レモン味食べてみたいんだけど……」
「え、ああ、別に良いけど……そしたらー」
「あ」
「え?」
「あーん」
そう言って口を開けて目を瞑るなな。
これはいわゆる、あ~ん、というやつだろう。
浮かれたカップルでもあるまいし、と晃輔が混乱していると、あおいが晃輔を急かすように言ってきた。
「ほらほら、こー兄、はやくしないとかき氷溶けちゃうよ!」
「え!え……えっと……ん……」
よく分からない状態となった晃輔は、せっかく買ってきたかき氷が溶けてしまうのも憚られるため、あおいに言われるがままにななの口の中にかき氷を突っ込んだ。
「はむっ……!」
ななの口にかき氷を突っ込んだ晃輔は、自分の頬が内側から熱くなっていくのを感じた。
とてつもなく恥ずかしい、と言うのが今一番言えることだろう。
教室でよく昌平と希実が食べさせ合いっこをしているのだが、こんなやる方もやられる方も恥ずかしいものをよく人前でできるな、と心の中で軽く引いてしまった。
「どぉ?お姉ちゃん、美味しい?」
顔を赤らめてかき氷を食べるななにあおいは顔をキラキラさせながらそう尋ねた。
こくっ、と頷くななに晃輔の顔が更に熱くなるのを感じる。
「いいなー!こー兄!じゃあ次わたしー!こー兄!あ〜ん!」
ななの反応が思いの他良かったのか、あおいは当然のように要求してくる。
あおい相手なら大丈夫だろうと思っていたが、やっぱり恥ずかしかった。
二人分のあ〜んの任務を遂行し終わると、今度はななとあおいの両方からあ~んを受けることとなった。
「晃輔、これも食べて」
「あ、私のもあげるー!」
「勘弁してくれ……」
晃輔が助けを求めるように嶺を見ると、嶺は楽しそうに笑って一切止めてくれなかった。
***
「あおい……寝たのか」
散々遊んだ海を後にして、嶺の運転する車で帰宅していると、晃輔は車内が静かなことに気が付いた。
「散々遊んだからな、あおい」
「遊び過ぎだろ。俺はもうへとへとだよ」
どうやら、起きているのは運転している嶺と助手席に座る晃輔だけらしく、藤崎家二人だけでの会話となった。
「全く、酷い目にあった。あれ、完全にあおいの入れ知恵だよな。なながあんな恥ずかしい事を自分からするはず無いし」
晃輔がそう告げると嶺は可笑しそうに笑っていた。
「……今日は楽しめたか、晃輔」
「ああ。楽しかったよ……本当に」
「そっか……なら良かった……晃輔、まだしばらく掛かりそうだから寝てても良いぞ。へとへとなんだろ、着いたら起こすから」
「そしたら、そうさせてもらおうかな……今日はありがとう嶺兄さん」
晃輔はそう告げると瞼をゆっくり閉じていった。
「おう。俺も楽しかったよ……おやすみ」
微睡みの中で優しい声色を聞いた晃輔は安心したのか完全に眠りに落ちた。




