3人で勉強会?
「それじゃあ、こー兄、お姉ちゃんよろしくお願いします!」
晃輔たちの家のリビングであおいは元気良く声を上げた。
「おう」
「ええ」
楽しいも嬉しいも苦しいも……色々とあった球技大会が終わり、授業は通常の時間割りに戻った。
そして、今日は球技大会のためストップしてした、あおいの家庭教師を行うために楠木家へ行くつもりだった。
本来であるならば。
「その前に……」
「うん?こー兄どうしたの?」
あおいは、何か言いたげな晃輔を見て不思議そうな表情をする。
「どうしたのって、あのなぁ……」
「……ははは……」
ななは思いっ切り顔を引きつらせている晃輔を見て、苦笑いを浮かべた。
「ああいう連絡はもっと早く寄越してくれ」
ああいう連絡というのは、授業が終わるなり突然あおいから来た連絡のことである。
『こー兄!今日って家庭教師の日だよね?私今日はこー兄たちの家希望!!』
と授業の終わりを告げる鐘が鳴るなり、このようなこっちの都合を一切考えてないような無茶苦茶な連絡を寄越してきたのだ。
「ごめんって、そんなに怒らないでよこー兄」
「いや、別に怒ってはないけど……」
やってることがいかにもあおいらしく、最早怒る気にもなれない。
「怒ってないんだ?」
「お、おう……?」
晃輔がそう告げると、あおいは一瞬考えるような仕草をする。
すると、ななと同じ様な吸い込まれそうな大きな瞳で、あおいはじっと晃輔を見つめてきた。
「?……あおい?」
晃輔からしてみれば、何も言わずにじっと見られるのは非常に居心地の悪い。
「ふふ、じゃあ……えい!」
そんな可愛いらしい声と共に、あおいはあぐらをかいている晃輔の足の間に滑り込んだ。
「!?」
「なっ……!!?」
突然過ぎるあおいの行動に、晃輔は驚いて一瞬固まってしまった。
ななはというと、晃輔と同様にあおいの行動に驚いて目を見開き、少しだけ頬を赤く染めていた。
「ちょっ……あおい」
「えへへ~いいでしょ?」
晃輔が困ったようにあおいに視線を送ると、視線に気付いたあおいはにやりとすると、晃輔の抗議の視線をガン無視してななの方へ目を向けた。
「あおいさん?」
「ねぇお姉ちゃん。今日はこれでやりたいんだけどいい?」
あおいは晃輔の足の間にすっぽりと挟まった状態で、ななに何処か挑発的な笑みを向ける。
ほんのりと頬を赤く染めたななは、じっとあおいの方を見つめると、ぷいっとそっぽを向いた。
「……すきにしなさい」
「えぇ……?」
ななが助け舟を出してくれると思っていた晃輔は、ななに懇願の意を含んだ視線を送った。
「…………?」
あおいの方を見ると、あおいが予想したななの反応とは違ったらしく、困惑した表情でななの方見て小さく首を傾げていた。
「本当にいいの?」
「別に良いわよ」
「やったー!」
「俺の意見は!?」
「無いよ?」
あおいはそれが当たり前ようにそう告げた。
何を言ってるの、と言いたそうな顔であおいは晃輔を見ている。
「えぇ……」
晃輔本人の意見関係無く話が進むのはどうかとは思うが、本来、あおいの奇行を止める側のなながあおいの味方側についてしまい、晃輔は断るに断れなくなった。
「それじゃあ、お願いします!」
晃輔の足の間で元気良く声を上げるあおいに、晃輔は大きくため息をついた。
***
あおいの家庭教師と言っても、そろそろ期末テストが近いため時間が惜しい。
なので、ななと2人であおいの分からない所を教えつつ、晃輔とななはお互い苦手な所を教え合いをする……事実上の勉強会となった。
しばらくの間、真面目に勉強会を行っていると、あおいが声を上げた。
「つかれたー!休憩ー!」
「結構やってたし、まぁ休憩にするか」
晃輔がそう告げると、ななはすっと立ち上がった。
「そうね。飲み物取ってくるけど何が良い?コーヒーと紅茶と緑茶だけど」
「良いのか?」
「ええ」
「じゃあ私りんごジュース!」
「ねぇよ。話聞いてたか?」
「ちぇー。そしたら、私は紅茶がいい!こー兄は?」
「そしたらコーヒーをお願いしてもいいか?」
「ええわかったわ。ちょっと待っててね」
「はーい!ありがとー!お姉ちゃん!」
「サンキュな」
晃輔がそう言うと、ななはキッチンの方へ向かっていった。
あおいは、なながキッチンの方へ行ったのを確認すると、晃輔にしか聞こえないような小さな声で晃輔に尋ねてきた。
「ねぇこー兄」
「うん?」
あおいは、晃輔の足の間に挟まった状態で、首だけを器用に曲げて晃輔を見る。
「お姉ちゃんと何かあった?」
「……どうしてそう思う?」
「ん〜……なんとなく……なんかこー兄もお姉ちゃんも前と雰囲気が違うような気がしたから」
「そうか」
時々、あおいは驚く程こういう小さな変化に気付くことがある。
めちゃくちゃガサツそうに見えて、割りとしっかり人を見ているらしい。
見た目からは全然想像できないが。
「……こー兄なんか失礼な事考えてない?」
「いや」
「まぁ、こー兄はともかく、お姉ちゃんの方は……可愛くなって、素直になった様な気がする……かな?」
あおいはそう告げると再び前を向いた。
「それに見た感じ、こー兄にも何かしらの変化があったぽいしね?」
そう言って、あおいはいたずらっぽく笑った。
どうやら、あおいは本当に人の変化に気付くらしい。
「楽しそうね」
「あ!ありがとうお姉ちゃん!」
あおいは飲み物を持って来てくれたななに感謝の言葉を口にした。
すると、晃輔たちに飲み物を持って来てくれたななは、部屋にある時計を見て告げた。
「休憩って言ってたけど、あと1時間ちょっとしたら、楠木家ではご飯の時間じゃない?」
「あー確かに……」
「そろそろ帰らなくて大丈夫なの?」
時計を見て心配したなながそう尋ねると、丁度そのタイミングであおいのスマホからメッセージが来たことを告げる音が鳴った。
ブーブー。
「あ、何かきた」
あおいは今来たばかりのメッセージの内容を確認する。
すると、何故かあおいは嬉しそうに晃輔たちに見てきた。
「今お母さんから連絡がきて、お母さんがこっちでご飯食べ来たらって」
「え」
「ちょっとあおい見せてくれる?」
「うん」
あおいに来たメッセージを見せてもらうと、どうやら楠木家の両親はお仕事で家に帰る時間が遅くなるらしく、そのため夜ご飯が遅くなりそうだから、晃輔たちの家で夜ご飯を食べてほしい、というそんな連絡だった。
「何と言うか……こう……ん……」
メッセージを読んだななは小さく頭を抱えていた。
「あははー。お母さんらしいね〜」
ななと違って、あおいは可笑しそうに笑っている。
ななは大きくため息をつくと、晃輔の方を見つめた。
「まぁ、私は良いけど……」
「良いの?やったー!久しぶりのこー兄ご飯だー」
「晃輔も良い?」
「……おう。別に構わないよ」
ななは晃輔の顔色を伺うようにそう尋ねるが、これといって、晃輔は特に断る理由も無いため快諾した。
2人分作るのも3人分作るのも、料理自体を楽しいと思っている晃輔からしてみれば、特に苦ではなかった。
「はいはーい!今日は何作るの?」
「今日はハンバーグを作るつもりだ」
「やったー!」
あおいは、久しぶりに晃輔が作ったご飯を食べられるのが嬉しいらしく、身体全体で喜びを表現する。
まるで犬のような喜び方をするあおいに、ななは後ろで苦笑いをしていた。
「じゃあ、ご飯作るから色々と片付けてくれるか?」
「はーい!」
晃輔がそう告げると、あおいは元気良く声を上げて散らかった教科書類を片付け始めた。
片付けをあおいに任せて、晃輔は夜ご飯のハンバーグを作るためにキッチンで準備をしようとすると、なながすすっと晃輔のいるキッチンに入ってきた。
「手伝うわ」
「……サンキュ」
どうやら手伝いをしてくれるらしく、包丁などの調理器具を晃輔が使い易い位置に置いてくれた。
「……ほんと、何であれで付き合ってないんだろうね……」
傍から見たら夫婦みたいな光景に、あおいは呆れた表情でそう呟いたが、キッチンにいる晃輔とななの耳には聞こえてなかった。




