みんなでお昼ご飯
「なんか新鮮だな。この面子で昼ご飯なんて」
週明けの学校の中庭で、スクールカースト上位メンバーに囲まれながら昼食を取っていた晃輔はそう呟いた。
先週、晃輔とななとあおいの三人で水族館に遊びに行った際、その帰り道にちょっとしたトラブルで、晃輔とななの同級生であり、ななが所属? しているスクールカースト上位メンバーである泰地や石見たちに同居のことが知られてしまった。
そして週明けの学校、四時間目の授業が終わると、なぜか、晃輔は泰地たちに中庭まで連行されたのだ。
理由は皆で昼食を取るためらしい。
「まぁ、そうだな」
高絋は晃輔の呟きに笑いながらそう答えた。
「晃輔に関しては、新鮮、というよりそもそもこのメンバーと関わるなんて今までなかっただろ」
「まぁな。泰地の言う通りだな……」
「というかさぁ、晃輔の場合どちらかと言うと、教室の隅の方にちょこんといる地味っぽい根暗タイプ? みたいな感じだからね」
「だよなー。晃輔って根暗陰キャだよな。だからこういう面子と関わることなんて無いんだろうなー」
「お、お前ら言いたい放題だな……」
一緒に昼食を取っていた希実と昌平の言いたい放題に、思わず晃輔の顔が引きつった。
すると、晃輔たちと一緒に昼食を取っていた石見と筋乃が、不思議そうな表情で晃輔たちを見ていることに気付いた。
「ん? 石見、筋乃どうした?」
「ああごめんね。いやー、三人ってそんな感じの距離間なんだなーって思って」
「? そんな感じの距離間って?」
「んー、何て言うんだろうね?」
石見は、晃輔のオウム返しに少し困った表情して告げた。
「なんていうかさ、私たちとはちょっと違う距離間だなーって……ねぇ?」
そう言って石見は、助けを求めるように隣に座る筋乃を見た。
「?」
晃輔には石見の言っていることが全然理解できず、小さく首を傾げる。
すると、持参した弁当を食べつつ、二人のやり取りを見ていた筋乃が苦笑いしながら告げた。
「今のは梨香子の言葉足らずかな……梨香子が言いたかったのは……要約すると、もっと藤崎くんと丹代くんと仲良くしたいってことだと思う」
筋乃は苦笑いを継続しながらそう告げる。
「えーと……そ、そうなのか?」
「うん。梨香子はコミニュケーション能力はうちのクラス一番何だけど、ちょっと言葉が足りない時あるんだよね。自分の感じたままの……感情のままに喋るからさ、人によっては、本当に間違った解釈されることなんてよくあるんだから。いい加減、感情の赴くままじゃなくて、言いたいことをちゃんと一回整理してから話したほうが良いって」
筋乃がそう告げると、石見は不満そうに顔を膨らませた。
「絢音が藍子みたいになってる……」
「藍子っていうより、どちらかと言うとななに近いと思うけど……」
石見の苦言に、希実がぼそっと呟く。
「仲良いんだな」
「そうだよ! 私たち同じ中学校だからね」
晃輔がそう言うと、石見はにこっと笑って答えた。
なんとなくだが、確かにこの様子だとななが友達になるのも分かる気がする。
恐らくななにとって、良い意味で裏表が無い石見は関わりやすいのだろう。
なんせ、学校では完璧美少女の仮面と言うか猫を被っているが、学校以外では割りと素でいることが多いのだ。
よく遊びに出掛けるいう石見たちなら、ななの素を知っているだろうし、逆にななも石見のそういうところが良いと思って友達になったのかも知れない。
「次いでに……今は、ここにはいないけど、藍子とそれ」
そう言って、石見は高絋を指差す。
「それも同じ中学だよ」
「おい石見、人を指差すな」
指を差された高絋が顔を若干顔を歪めるが、そんなことはお構いなしに、石見は強引に話を進める。
「見ての通り、合計四人が同じ学校出身なの!」
「ずいぶん多いな……」
「? そう? 普通じゃない? ね?」
石見は首を傾げてそう告げた。
「う〜ん……ね? って言われてもわかんないけどね……」
突然、石見に話を振られた筋乃は、少し困った表情で石見と高絋を交互に見つめた。
「晃輔どうした?」
「いや、その……話に上がってきた土井と順哉は今日は一緒じゃないのかって」
泰地にそう言われた晃輔は、中庭に来てから疑問に思っていたことを聞いてみた。
皆でお昼ご飯と言いながら、実際に中庭に来てみれば、遅れていくという連絡があったななはともかく、順哉と土井の二人も中庭にいなかったのだ。
みんなと言われれば、当然、順哉と土井もそのメンバーに含まれるはずなのだから。
「あー、ほら藍子は生徒会だから、まぁそろそろ来るんじゃないかな」
「順哉のほうは……多分部活絡みだな。よくあることだ」
晃輔が尋ねると、筋乃と泰地がそう告げた。
すると、それに続くように高絋が告げる。
「最初から全員集まる、なんてことはあんまり無いんだよ」
「そうなのか……意外」
意外という程ではないが、意外な事実に晃輔は地味に驚いた。
学校では常に一緒にいる、というイメージが強いせいだとは思うが。
すると突然、石見が小さく笑って晃輔の方を指差した。正確には晃輔の奥の扉から現れた三人に、だが。
「ふふ、噂をすれば、ほら」
そう言って石見が指を差した方向から、土井、順哉、ななが順番に扉を開けて中庭に顔を出した。
「ごめん」
「悪いな、結構かかっちまった」
「ごめんなさいね」
晃輔たちのところに来た三人はそれぞれ謝罪の言葉を口にした。
「大丈夫だよ」
「別に、いつものことでしょ? おつかれー!」
「ありがと」
「順哉もお疲れ様」
「おう。サンキュウな」
「どーせ、ななも色々と仕事任せれてたんでしょ? あの担任ななのこと気に入ってるからねー」
「そうね……その通りだわ……正直疲れた」
そう言って、ななは疲れたように顔をする。
「おつかれ」
「! ええ、ありがとう」
晃輔がそう言うと、ななは一瞬驚いた表情になったが、一瞬で平静を取り戻して晃輔とは反対側の椅子に腰掛ける。
すると、その様子を見ていた皆は、なぜかクスクスと笑った。
笑われたななは「何よ」と小さく呟くと、椅子に座って持っていた弁当の蓋を開ける。
「ななは今日はお弁当なんだね」
「え、ええ、そうよ」
希実に言われ、サッと手で弁当を隠すなな。
「ふふ、大丈夫だよなな。今は私たち以外誰もここいないから」
明らかな警戒モードに切り替わったななに、希実は優しい声色で告げた。
「それは晃輔の愛の手作り弁当?」
「……言い方」
悪意のある昌平の言い方に、晃輔は軽く昌平を睨む。
「まぁまぁ晃輔落ち着いて。それで実際は?」
順哉にそう言われ、晃輔はため息をつきながら答えた。
「はぁ……そうだ順哉。俺が作ったよ」
「良かったねなな」
「そうね」
「ほんと、晃輔のことになると素直じゃ無いなー」
「う、うるさい!」
からかうように希実がそう告げると、ななは希実のことをキッと睨みつけた。
「おー……なな怖……」
「……そ、それにしても、この弁当本当に美味そうだよな」
「だな。なぁ晃輔、今度俺たちにも作ってくれないか?」
昌平と希実のせいで、場の空気が悪くなりかけたのを見て、高絋と順哉は慌ててそう告げた。
「……まぁ、気が向いたらな」
その後も、昼休みが終わるぎりぎりまでななたちと話した。
晃輔にとってはカースト上位メンバーの皆で昼食を取るということに、最初は少し緊張していた。
が、徐々に慣れていき、いつもの昌平とだけ食べる時とは違って新鮮で、とても楽しい昼ご飯になったと思った晃輔だった。




