親睦会とその後
「遊んだ」
親睦を深めるという希実の提案でレースゲームで遊んでいた晃輔たちだったが、気が付くと既に日が落ちて暗くなっていた。
「ねー、すっごい楽しかったー」
「もうこんな時間なんだねー」
土井と筋乃に続いて、リビングに置いてある時計を見た石見はそう告げた。
「そろそろ帰ろっか」
「ああ。結構遅くなっちまったし、これ以上は二人の迷惑になるだろ」
そう言って、高絋と順哉は若干申し訳なさそうな顔で晃輔たちを見つめた。
高絋と順哉は、ここに住んでいる晃輔とななに申し訳ないと思っているらしい。
「ん」
二人の会話を聞いていた泰地は静かにそう頷いた。
すると、それに続くように……ではなく、昌平はへらへらと笑いながら晃輔に告げた。
「だなー。二人の愛の巣に長時間お邪魔するのも申し訳ないし」
昌平がそう言うと、晃輔は顔をムッとさせて昌平の足を思いっきり踏みつけてやった。
「本当ににそう思ってるなら、そう言うことは言わないよな?」
「イッタ……うわ……晃輔怖ー。お前さ照れ隠しに足踏むの止めない?」
「うるさい。照れてない」
昌平と晃輔のやり取りを見て苦笑いをしていた石見は、晃輔たちを宥めるように告げた。
「まぁまぁ二人共落ち着いて」
「落ち着いてないのは晃輔だけだぞ」
「お前は本当に……」
昌平の態度に晃輔が思わず顔を引きつらせると、晃輔たちのやり取りを聞いていた土井が静かに呟いた。
「……犬猿の仲?」
「……」
土井の呟きに、晃輔がどう反応していいか分からず困惑していると、昌平や希実たちが晃輔の隣で口に手を当てて笑いを堪えていた。
「……そういや、あおいはどうすんだ?」
いたたまれなくなった晃輔は、無理矢理を話題を変えてあおいにそう尋ねた。
「ほんとは泊まっていきたいけど、お母さんたちに怒られるから今度にするー!」
「ということは、今度泊まるのね……」
晃輔の質問にあおいは元気良くそう答えると、それを聞いたななは若干呆れたような表情で告げた。
「そー! 私の中で決定事項!」
「うわぁ……」
どうやら、あおいの中でお泊りは決定事項のようで、なんだかんだ言いながらあおいに甘い晃輔たちは、あおいのお泊りに対して強く言い返すことができなかった。
「あはは。そしたら、今度私たちも二人の愛の巣に泊めてほしいなー」
「希実は調子乗るな」
「なんでぇ!?」
あおいのお泊りの話を聞いた希実がそう告げると、晃輔は軽く希実を睨んだ。
「めっちゃ理不尽ー」
晃輔に、理不尽に怒られた希実は軽く抗議の声を上げた。
「あ、あはは……」
晃輔たちの会話を聞いていた泰地たちは、渇いた笑い声を上げていた。
「ん? ってことは俺は良いのかな?」
「……ちょっと、昌平は永久に眠っててくれないか?」
「暗に死ねって言ってない?」
「直接言おうか?」
晃輔と昌平の軽口の叩き合いにやっと一区切りついたところで、石見が声を上げた。
「そろそろお暇しようか。二人共ありがとねー!」
「ああ。あと、本当に突然来てゴメンな。びっくりしただろ」
「ええ、ちょっとびっくりはしたけど、大丈夫よ。ね? 晃輔」
「ん。まぁでも泰地たちは悪くないから別に大丈夫。ただ、来る時はちゃんと事前に来るって言ってくれ。そしたらこっちだってちゃんと迎え入れる準備するから」
晃輔がそう告げると、ななやあおいも含め、皆が驚いた表情で晃輔を見つめた。
特にななとあおいは、晃輔のそれに驚いて目を見開いていた。
言いながら、自分でも何を言っているのだろう、とそんなことを思ったが、自分の口からそんなことがスラスラと出てくるところから、恐らく晃輔が思ってる以上にとても楽しかったのだろう。
「……ありがとな晃輔」
「ん」
「あっ、でも夏休みなら時間あると思うし、そん時は泊まらせてくれよ」
「……考えておく」
「そっか。ありがとな……晃輔、また改めて、よろしくな」
「あぁ、よろしく」
晃輔がそう言うと、既に支度を済ませていた高絋が玄関から声を上げた。
「泰地ー! 帰るぞー!」
「おーう」
他の皆も既に玄関に集まっているらしく、晃輔と泰地が慌てて向かう。
泰地が玄関に来たことでこれで全員集合らしく、あおいも含めて計九人の大所帯で今日は帰ることになった。
「また学校でねー!」
「じゃあね、なな」
「バイバイ」
「ええ。また学校で。希実も」
「うん!」
ななにそう言われ、希実が元気良く返事をした。
「じゃあな」
「学校でもよろしくな」
「晃輔、長居して悪かったな」
「大丈夫だ。気にすんな。じゃあな、気を付けて帰れよ」
順哉、泰地、高絋と次々に言われ、晃輔は若干驚きながらもそう答えた。
「あぁ、じゃあなー!」
「バイバイー!」
順哉と石見はそう言うと、女子はエレベーターの中に入って、男子は階段で下へ降りていった。
「ふぅ、疲れた」
「お疲れ様」
嵐のような皆が去って行き、疲労からか晃輔がソファに深く腰掛けていると、なながハーブティーを作って持ってきてくれた。
「おう……サンキュ」
そう言って、晃輔は淹れたてのハーブティーに顔を近づけて軽く匂いを嗅いだ。
「いい匂いだな……落ち着く」
「そうね……」
ななはそう言うと、ハーブティーを正面のテーブルに置き、晃輔を凝視した。
「なな?」
何故、いきなりななに見つめらているのかその理由が分からない晃輔は、困った表情でななを見る。
すると、ななは少し真剣な表情になって告げた。
「晃輔ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」
「わがまま?」
反復するように晃輔が尋ねると、ななは力なく頷いた。
「うん……だって晃輔の気持ちとか考えずに私は……もし、晃輔が嫌な思いをしてたら……」
どうやら、ななは自分のわがままで晃輔の気を悪くさせたのではないかと思っているらしい。
「別に気にしなくても良いよ。あいつ等良いやつばっかりだし」
「ほんと?」
晃輔のそれに、ななの目に少しだけ光が灯る。
「おう本当だ。なんでこのタイミングで嘘をつくんだよ。本心。だから、ななは変に気負わなくていい」
晃輔は、素直な感想を口にすると、ななとは反対側を向いて小さく告げた。
「……むしろ、ありがとな」
「へ? 何て?」
「ふ、なんでもない」
そう言って、晃輔は立ち上がりキッチンのほうへ向かった。
今日は色々とあって疲れたことと、もう少ししたら十九時を回りそうなので、今日の晩ご飯は簡単に作れるパスタで済ますつもりだ。
ななの方へ目を向けると、ななが若干不満そうな表情で晃輔を見ていた。
***
「あの二人っていっつもあんな調子なの?」
晃輔たちの住むマンションから出てすぐ、石見はあおいにそう尋ねた。
「うーん……まぁだいたいは、ですかね」
「……ふ〜ん」
あおいが答えると石見は上機嫌そうに笑った。
「梨香子、悪い笑い方してるね」
「何か企んでんのか?」
土井がそう告げると、高絋が石見に尋ねた。
「ん〜? どうだろう?」
高絋に尋ねられた石見は、そう答えると小さく微笑んだ。
「あの二人ってずっとあの距離感なのか? 家でも?」
「うん……最初の頃に比べると大分距離が近くなったとは思うけど……基本的にはあの距離感のままって感じ……」
泰地が尋ねると、あおいは少し考えるような仕草をする。
「へぇー」
「……泰地も人の事言えないぞ」
「そうか?」
順哉にそう言われた泰地は自分の顔に手をやる。
すると、あおいが口を開いた。
「私的には、あの二人が幸せになってくれるのが一番なんだけど……」
あおいがそう言うと、泰地たちは同時に顔をニヤリとさせた。
「なぁみんな、相談なんだけど」
泰地が皆に尋ねる。
すると、皆も何か閃いたのか口々に告げた。
「奇遇だね、私も」
「私も」
「俺も」
「同じ」
泰地のそれに、石見や希実、順哉、高絋も声を上げた。
泰地は皆に聞こえるように告げた。
「二人のためにも背中を蹴る会、みたいなの発足しないか?」
『賛成!!』
声を上げなかったあおいと昌平と筋乃、土井も同じことを考えていたらしく、苦笑いをしながら頷いていた。
こうして晃輔たちが知らぬ間に友人たちによって、晃輔とななにはちっとも嬉しくない会の発足が起きたのだった。




