2人の頼み
「な、何でここに……?」
学校の、スクールカースト上位のメンバーがこんな所にいるとは思わず、晃輔は驚いて目を見開いた。
「えっと……それはこっちのセリフなんだけど……ななどういうこと?」
石見は困惑した表情でななに尋ねた。
他のみんなもまだ状況が飲み込めていないのか、黙ってこのやり取りを聞いている。
石見にそう言われたななは、周りを見回して小さくため息をついた。
「はぁ……分かったわ。全部話すわ」
「なな!?」
「お姉ちゃん!?」
ななの発言に晃輔とあおいの声が重なる。
「一体何を考えて……」
「ごめん二人共。でも、ここは素直に話しておいた方が良いと思うの。だって、そうじゃないと私たちがここにいる理由の説明がつかないし、逆に嘘ついて誤魔化したとしても、後でバレた時不利になる。それに、私は梨香子たちなら正直に話したらわかってくれると思うし、他の人には言わないで黙っててくれると思うの」
そう言って、晃輔たちに対し必死な表情で訴えかけるなな。
「ここで素直に話しておけば、余計な詮索とかされないだろうし……だから……いい? 晃輔……もちろん、凄い身勝手なことを言ってるってことは分かってるつもり……だから、梨香子たちには私からちゃんと言うから……」
ななの声がどんどん小さく弱々しくなっていく。
ななの立場からしたら複雑で、学校の皆にバレたら面倒くさくなる、と同時に、でもいつも一緒にいるメンバーに対して嘘を付きなくない、隠し事をしたくない。
という後者はななの私情だろうが、恐らく本人にも何が正解か分からない、そんな複雑な心境なのだろう。
「まぁ、詮索とかはするつもりはないけどね……」
「そうね」
「うん」
石見がそう言うと、黙って話を聞いていた土井と筋乃はそう告げた。
「ああ」
「まぁというか、それをしたところで楠木と藤崎に嫌な思いをさせるだけだろうしな……」
潮谷と成田も石見に同意するように告げる。
「みんな……ありがとう」
そう言ってななが小さく微笑むと、晃輔は小さくため息をつき、告げた。
「……分かったよ」
「いいの? こー兄?」
晃輔がそう言うと、あおいは驚いた表情で晃輔を見る。
「あぁ。なながここまで言うんだ」
ななにここまで言わせておいて反論するというのは、それはそれでどうなんだと思い、晃輔はななを信じる選択をしたのだ。
「晃輔……ありがとう」
「いや、大丈夫。だから、取り敢えず一旦全員中に入ろう。大勢でここにいたら迷惑になる」
「そ、そうね」
晃輔の意見になながそう返すと、晃輔とななはエントランスを抜けて自分たちが住む部屋に皆を招き入れた。
***
二人の部屋についた晃輔たちは、石見たちに晃輔とななの二人が同居する事になった理由を話した。
「なるほど、そんなことが……」
「ね……流石に驚いた」
石見に続いてあまり喋らないらしい土井も驚いた表情で晃輔とななを見ている。
昌平と希実はこの事を知っているので大して表情に変化はなかったが、他のメンバーにはかなり衝撃だったようで、面を食らったような顔をしていた。
「そんな事情があったなんて……大変だな……」
そう言って、成田は驚き半分、同情半分といった視線を晃輔に向けてくる。
「まぁ」
「なぁ、それって五月のゴールデンウイーク中ぐらいに起こった出来事なんだよな?」
「そうだけど……何でだ?」
「だって、今までほとんど接点が無かった楠木と藤崎が、ゴールデンウイークが明けたらなんかいきなり関わりだしたからさ。流石になんかあったのかとは思ってた」
「いや、それは十割あおいのせいだと思う……」
それは恐らく、ゴールデンウイーク明けすぐにあおいが晃輔たちのクラスに突入してきて、一緒にななとあおいの三人で帰った時のことを言っているのだろう。
あれを見れば、確かに何かあったのかと思うのは当然のことだと思う。
「まぁさ、なんとかなく二人が一緒に住んでるんじゃないかなーとは思ってたけどね」
「え!?」
「は!?」
「う〜ん、教室にいる時なんでかなーとは思ってたけど……二人から同じシャンプーの匂いがしたんだよね」
「「……!?!?!?」」
筋乃からのさらなる爆弾発言に、晃輔とななから声にならない悲鳴が上がる。
「だから、もしかして一緒に住んでるのかな? って言う話を、我々女子メンバーは話してたんだよね」
「え、そ、そうなの?」
筋乃の話を聞いたななは、驚いた表情で石見たちに尋ねた。
「うん」
「ごめんなな」
「いや、謝られることじゃないし……むしろ私の方こそ謝らないといけないんだけど……隠し事してたんだから……」
「まぁななにも事情があったわけだし、別に私たちは気にしてないよ」
「ありがとう……」
筋乃にそう言われ、ななは申し訳無さそうな表情して、小さく頭を下げた。
女子たちの話に一区切りがついたところで、潮谷はテレビゲームを引っ張り出してあおいと三人で遊んでいる昌平と希実を指さして、晃輔に尋ねてきた。
「んで、あの二人は、昌平と吉橋は知ってたのか」
「ああ。まあ少しトラブルみたいなことがあってな、それで」
「……なるほど」
こんな雑な説明なのに納得してくれるんだ、と晃輔はそんなことを思いながらも、取り敢えず今解決しなければいけない問題を最優先する。
「だから、あのねみんなにお願いがあるんだけど……」
「お願いっていうか頼みっていうか……昌平と希実も同じことを言ったんだが、こうしてななと一緒に住んでることが学校の奴らに知られたら面倒くさいことになる。だから――」
「それなら大丈夫! ね?」
昌平たちの時と同様に、他の人には言うなよ、と軽く脅しを込めた言い方をするつもりだったのだが、その途中で石見に遮られてしまった。
「うん。絶対言わない」
「安心していいよ」
石見に続いて土井と筋乃もそう告げる。
「流石にわざわざ他の人に言ったりなんかしない」
「だな」
「ああ」
同じように潮谷、成田、泰地もそう告げた。
「みんな……」
「ありがとう」
そう言って晃輔とななは小さく頭を下げた。
「それと……」
晃輔は福元泰地の方を見る。
「久しぶりだな泰地。こうやって面と向かって話すのは。中学のとき以来か……」
「あぁ……そうだな晃輔。まさかこんな形になるとは思わなかったけどな……」
「ああ、それは俺もだ……」
そう告げる晃輔もこれ以上なんて言っていいか分からず、二人の間に微妙な空気が流れる。
「そういえば、三人って同じ中学なのか……」
このどうしていいか分からない空気に困っていた晃輔は、良い意味でぶち壊してくれた潮谷に内心で感謝しつつ、潮谷の質問に小さく頷いた。
「まぁな」
「泰地は藤崎のこと下の名前で呼んでるんだな……なあ、藤崎ってなんかちょっと距離あるよな。晃輔でいいか?」
「あぁ、別にいいけど……」
「そしたら、俺たちも下の名前で呼んでくれよ」
「お、おう……」
最初こそは凄く心配していたが、話していくうちに思っていた以上に皆が良い人たちで安心した晃輔だった。




