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水族館2


「あ、そういえばあおい、中で迷子になるなよ」


 あおいが持っていた招待券を使って入口から中に入ると、晃輔はあおいにそう告げた。


「へ?」

「それは私も思った。あおい、今回は迷子にならないでね?」


 ななも晃輔と同じことを思ったのか、晃輔と同じ台詞をあおいに告げた。


「ちょ、こー兄!? お姉ちゃん!? もう私だって大きくなってるよ! 高一だよ!?」


 あおいは不満そうな顔でそう告げる。


「高一でもなー」

「高一でもねー」


 そう言って、晃輔とななはお互い顔を合わせてる。

 こういう時になると、途端に息の合う晃輔とななは、二人してあおいをからかうように告げる。


「もー!」


 そう言って、あおいはポコポコと晃輔の叩いて腕に抗議の意を示してきた。


「それにしても、晃輔も同じことを考えていたのね。あおいが迷子になってる未来っていうか……昔、迷子になった前科があるの」


 ポコポコと晃輔の腕を叩いているあおいを無視して、ななは晃輔にそう告げる。


「あぁ、俺も真っ先にそれを思い出した。たぶん今回もそのパターンになるんだろうな、と」

「ちょ! こー兄!」

「そうね。流石のもう高一だし、あおいも一人で夢中になって、どっかに走って行ったりはしないわよね……」

「お姉ちゃんまで……」


 晃輔となな、二人が息を揃えてあおいをイジるという珍しい展開に、あおいはむー、と顔を膨らませて不服そうな表情で二人を見つめる。


「そうだよな。さすがにもう高一だし、水族館のペンギンの散歩について行っていなくなったりしないよな」

「うぅー!」


 そう言って、あおいは抵抗のつもりなのか、今度はボコッと強めのパンチ一発が晃輔の腕に入った。



***



「え……嘘だろ……」

「思っていたより早かったわね……」


 迷子になるなよ、とあおいに言ってから何分経っただろうか、晃輔はそんなことを思う。

 中に入ってから、晃輔たちは多様な生き物の宝庫と言われる相模湾ゾーンを一通り見て、次いで深海ゾーンに向かおうとしていた。

 すると、近くにいたはずのあおいが、いつの間にかいなくなっていることに気付いたのだ。


「まぁ、あおいがその気になったら、私たちじゃ絶対追いつけないわよね……」

「だな……スマホも繋がらないし……」


 それに、あおいとの連絡手段である頼みのスマホも、館内は人が多い+(プラス)電波が繋がりづらいのもあり、役に立たない。

 しかし、一応あおいとななとは、もしはぐれた時はイルカショーが始まるタイミングで合流、という話を事前にしておいたので、恐らくは大丈夫だろう。

 あおいがしっかりと約束を覚えていればの話だが。


「どうするかな……」

「晃輔は、私と二人で回るのは嫌?」


 何故かななは心配そうな顔で晃輔を見つめる。


「ん? いや、別にそんなことないんだが……」 

「そう……そしたら、イルカショーの時間までは……」

「そうだな」


 どの道それしかないだろう。

 あおいは何処かに消えてしまったが、別に神隠しに合ったわけではない。

 せっかく水族館に入ったのだから、楽しんだ方がいいだろう。


「まぁ、あおいなら一人でも楽しむことができる子だから……」

「だな」


 ななの言う通り、小さい子に交じって館内をはしゃぐあおいの姿は容易に想像できる。

 晃輔がそんなことを考えてると、目の前で恋人繋ぎをしているカップルの姿が目に入った。

 ふと気付いて周りを見てみると、晃輔たちの周りにいるのは家族連れやカップルだらけだった。


「カップルとか多いな……」


 カップルたちを見て、晃輔は無意識にそんなことを呟いていた。


「これって、俺たちもカップルに見えるのか……」


 晃輔が一人呟いていたのを聞いていたななは、顔を赤くして驚いた表情で晃輔を見る。


「こ、晃輔?」

「ん? あぁごめん」

「ううん。まあ、確かにこれだと私たちもカップルに見えるのかしら……」


 ななが顔を赤くしながらそう言うので、晃輔もななにつられて顔を赤くする。


「「……」」


 お互い気まずくなって、沈黙の時間が流れる。


「晃輔、行こう?」


 このままだとらちが明かない、と思ったのかななは晃輔の方に手を伸ばしてきた。


「……あおいみたいに、私たちまではぐれたら、ね?」


 晃輔を直視出来ないのか、それでも手だけはこちらに伸ばした状態で、ななはそう言う。


「ん……そう……だな」


 晃輔はそれだけ言って、優しくななの手を取ると、二人は流れに沿うようにゆっくりと館内を歩き始めた。

 晃輔とななが歩いていくと、深海をモチーフとしたコーナが現れる。


「晃輔、こういうの、好きでしょ?」

「よくわかったな」

「晃輔、目がキラキラしてる。やっぱり男の子はこういうのが好きなのね」

「……」


 ななはそう告げると、可笑しそうに笑った。

 他にも色々なコーナーを回りつつ、ななと他愛のない話をしながら水族館を楽しんだ。

 ななとの水族館を楽しんでいたら、いつの間にか、もう少しでイルカショーの時間となっていた。


「あ、ヤバ。あおいを探さないと……」

「そうね。まぁ、でもあおいのことだから、たぶん席の一番前にいるとは思うけど……」


 晃輔がそう呟くと、ななはあおいの思考を理解しているかのようにそう告げた。


 この水族館のイルカショーは濡れるため、席はあまり濡れない三列目から埋まっていく。

 晃輔となながイルカショーの会場まで進むと、あおいは半円状に囲まれた観客席の真ん中の、しかも一番前の席を陣取っていた。


「あ! こー兄! お姉ちゃーん!」


 あおいは晃輔とななの二人を見つけると、手をぶんぶんと振って二人に存在を主張してきた。


「やっぱり……」


 ななの予想が当たり、晃輔は若干呆れたような表情でななに向き直る。


「これ、絶対濡れるよな……レインコート買うしかないか……」

「そうね……」


 あおいを無理矢理移動させる気はないため、二人共レインコートを買う、という選択肢が出てくる。


「そしたら、買ってくるから先にあおいの所に行っててくれ」

「え、う、うん。あの、でもお金……」

「今日はあおいのご褒美だから、だから大丈夫」


 何か言いたそうなななを振り切るようにして、晃輔はレインコートが売っている場所に向かった。

 イルカショーが早めに始まっても困るので、晃輔は少し急ぎ目で買い物を済ませ、ななとあおいの元へ戻ると、さっきまで居たはずのあおいがいなくなっていた。


「えっと……なんで?」

「えっと……なんかあおい、係の人? について行っちゃった?」


 晃輔がななに尋ねると、どうやらななもよく分かっていないようで、ななは困惑の表情をしており、混乱しているようだった。


「えー」


 晃輔がどうしてだろうと考える間もなく、イルカショーの始まりを告げる音楽が鳴る。


「あぁ、そうだ。とりあえずこれ買ってきたから」


 そう言って、晃輔はななたち用に買ってきたレインコートを渡して席に座る。


「あ、ありがと」

「どういたしまして。それより、もうこんなに濡れるのか……」

「そうね……レインコート買っててよかったわね」


 音楽が鳴ると、すぐにイルカたちが出てくる。そしてイルカたちは晃輔たちに向かって水をばしゃばしゃと飛ばしてきていた。

 すると、誰もいなかったステージに、やたらテンションの高いお姉さんがステージ袖から出てきた。


「みーなーさーん!! こーんにーちはー!!」

「あ! あの人!!」


 ステージに立ったお姉さん見て、ななは突然声を上げた。


「ななどうした?」

「うん……いや、あおいがついて行ったのってたぶんあの人だなって……思って……」

「あの人に……?」

「うん」

「……マジか」


 そう言って、晃輔は思わず顔を引きつらせた。


「あれって……」


 ななは晃輔と同じことを思ったのか、困惑した表情をしていた。


「お集まり頂きありがとうごさいます!! みんな大好きイルカショーの時間です!! このイルカショーでは毎回ゲストさんをお呼びしているのですが、今日のゲストは! なんとイルカちゃんたちもびっくりの、とびっきり可愛い女の子を連れてきました!!」


 この水族館のイルカショーでは、毎回希望者を募集して子供を参加させてくれるイベントがあるのだ。


 恐らく、それにあおいが選ばれたのだろう。

 本来は、小さい子のためにあるものなのだが、恐らく、実年齢よりも幼く見えるあおいはギリギリそのラインに乗ったのだろう。


「それでは!! あおいちゃん、お願いしまーす!!」

「はーい!」


 お姉さんに紹介されたあおいは、元気良く手を上げた。


「「やっぱり」」


 あおいの登場に、晃輔とななの声が重なった。


「じゃあ、あおいちゃん、まずは右手を上げてくれるかな?」

「はーい! こうですか?」


 あおいは、お姉さんに言われるがまま右手を上げる。

 すると、あおいの前にいた三匹のイルカたちが、あおいの真似をするように右ヒレをあげる。


「オッケー!! バッチリ!! そしたら、そのまま手を振ってー!!」

「はーい!」


 お姉さんは、あおいに負けず劣らずのテンションであおいに告げた。

 あおいがパタパタと手を振ると、イルカたちもあおいの真似をしてパシャパシャと水を叩くようにヒレを振った。

 その微笑ましい光景に、ほっこりとした雰囲気が会場に漂う。


「うん上手ー!! そしたら、今度はあおいちゃんがやりたいように、好きなように動いてみて!! イルカさんたちが真似してくれるからねー!!」

「好きなように?」

「うん!! どうぞ!!」


 お姉さんがそう言うと、あおいが晃輔たちを見てニヤリと笑った。

 その笑みに非常に嫌な予感がした晃輔とななは、慌ててレインコートのボタンを留める。


「はーい! わかりました! そしたら、えい!」


 元気よく返事をしたあおいが宙を舞う。

 そのまま、空中で後ろ向きにくるっと一回転して着地する。

 いわゆる、バク宙をあおいはやってのけたのだ。


『え』


 あおいのバク宙に会場はどよめき、お姉さんは完全停止した。


 バッシャーン!


 一瞬間を置いて、大量の水たちが晃輔とななを襲った。


「……悪質……」


 晃輔は思わずそう呟いてしまった。

 三匹のイルカたちは見事にあおいの動作を完コピした。

 そして、それによって晃輔とななはレインコートでは防ぐことが出来ないほどの、大量の水を浴びてしまい、着ていた服をびしょびしょにされてしまった。



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