水族館
今日は、ななとあおいの三人での水族館に行く日。
あおいがテスト頑張ったご褒美として、何故かチケットを持っていたあおいの希望で、ななとあおいの三人で水族館に行くことになったのだ。
「忘れ物は無いか?」
そう言って、晃輔は後ろに居るななに尋ねる。
「あおいじゃないんだから」
ななは若干不貞腐れた表情になって、ジト目で晃輔を見る。
「それはそれであおいに失礼な気がする……」
「……そう、かもね?」
「疑問形……あおい、かわいそうだな……」
実の姉からそう言われれるのは、少々かわいそうだけど、普段の言動からあれだから仕方ないのかもしれないな、と晃輔は玄関でななの仕度を待ちながらそんなことを思っていた。
「それで晃輔、さっきスマホ見て固まってたけど、何かあったの?」
「……固まっていた?」
「うん」
「……あー、いや、さっき昌平たちから連絡が来て、今日遊べないかって。凄い突然に」
そう言って晃輔はスマホを取り出すと、昌平とのやり取りをななに見せた。
先程、昌平たちに「今日そっちで遊べないか」と尋ねられたが、今日は三人で水族館に行く予定があるので、昌平たちには丁重にお断りしておいた。
もちろん、しっかりと理由を話した上で。
昌平たちとはテスト前の一連の出来事で、昌平と希実には晃輔とななが一緒に住んでいることがバレてしまったのだ。
「……ほんとに突然ね。これって希実も来ようとしてたのかしら?」
「恐らく。というか、あの二人はもうセットだろ……」
「そうね。それで、ちゃんと説明したの?」
「流石に。そしたら分かった、とだけ返事が来た。からまぁ大丈夫だろうと思うつもり……」
そう言いつつも、晃輔の語尾はどんどん小さくなっていった。
「……それよりも早く行こう。なな、準備はできたか?」
「ええ。行きましょう」
準備し終えたなながそう告げる。
晃輔とななが玄関で靴を履くと、ななは誰も居なくなった、静かな家に向かって小さく「いってきます」と呟いた。
そして、何故か現地集合を提案してきたあおいと合流するために、晃輔とななの二人は水族館に向かうのだった。
「それにしても、今日は暑いわね……」
そう言って、ななはポケットからハンカチを取り出して首筋に垂れてきた汗を拭う。
「だな……まだ六月なんだけどな……」
晃輔は、暑さによって汗ばんでいるなななを見てそう告げた。
晃輔たちの家からでは、水族館の最寄り駅に向かうには、乗り換え必要になるため、駅のホームで次に乗る電車を待っていたのだ。
「何?」
「いや、暑くないのかなって」
そんなに暑いならカーディガン脱げばいいのに、と決して口には出さないが、そんなことを思いながらななを見ていたら、どうやらななのことを見すぎてしまっていたのか、ななはそう言いながら、若干不機嫌そうな目で晃輔を見てきた。
「あぁ、これ?」
ななは晃輔の視線で言いたいことがわかったのか、自分が着ているカーディガンに手を伸ばして、告げた。
「確かに、ちょっと暑くは感じるけどね。でも、日焼け対策にもなるしね」
「日焼けするような季節じゃないだろ」
「あら、六月からもう日焼けはするものなのよ。紫外線が増えるから」
「へぇ、そういうもんなのか」
そういえば、つい最近見たテレビの番組で六月からは紫外線が増えて日に焼けやすくなる、と言っていたようなことを思い出して、晃輔は一人ななのそれに納得していた。
確かに、六月と言っても十分汗ばむ季節ではあるのだが、なな曰く、それに、水族館の中は冷房が効き始めていて、たぶん寒いだろうから必要になると思う、とそんなことを言っていた。
「ふふ、一つ賢くなったわね」
「あぁ、だな。また一つ、ななのことが知れたな」
「え」
ななは目を見開き、驚いた表情で晃輔を見る。
「それにしても、今日はそれを着てきたんだな」
今日のななの服装は、先日の買い物で買った半袖の白ワンピースではなく、もともとななが持っていたノースリーブの白ワンピースに水色のカーディガンを羽織った、初夏にピッタリな服を着ていた。
「てっきり、こないだの買い物で買った服を着てくるものなのかと……ん? ななどうした?」
どういうわけか、ななは晃輔を見つめた状態で動きを停止していたのだ。
晃輔は、突如固まったななを見て困惑する。
「……」
「おーい、ななさーん……そろそろ電車来ますけど……」
晃輔がそう言うと、たっぷり十秒程停止していたななは、晃輔にジトッという視線を送って、告げた。
「晃輔ってそういうところが良くないと思うわ」
「えぇ……いきなり何?」
「何でも」
ななはそう言うと、ホームに来た電車に飛び乗った。
晃輔は、突然不機嫌そうになったななに困惑しつつも、同じようにななに続いて電車に乗り込んだ。
***
「あ! お姉ちゃんたちだ!」
晃輔たちを見つけるなり、あおいは晃輔たちに向かって、ぶんぶんと手を振って存在を主張してきた。
色々とうるさいし、目立つからやめてほしいのだが、帰宅部である晃輔とななは運動部ほどの体力を持ち合わせてないので、二人とも汗だくであおいに注意できるほどの気力が無かった。
「はぁはぁ、おはようあおい」
「おはよー!……あの、何でお姉ちゃんもこー兄もそんな息切れてるの? 駅からそこまで離れては無いよね?」
あおいは二人して息を切らしている姿に疑問を持ったのか、そう尋ねてきた。
「単純に体力不足だよ」
「ええ、あおいと一緒にしないで……」
「えぇ……」
晃輔とななのそれに、あおいは困惑な表情を浮かべる。
「そ、それより何で、現地集合なんだ?」
晃輔は息を整えながらそうあおいに尋ねる。
「別に、大した理由じゃないよ、ただ、そっちのほうが二人的には良いかなーって……」
「?」
「何が?」
晃輔とななは、あおいの言っている意味が分からず困惑した表情を浮かべる。
「うん、わかってないみたいだね。じゃあいいや」
「「えぇ……」」
結局、あおいの言っている意味が理解できなかった晃輔とななは、二人を見て呆れているあおいに困惑した表情をすることしかできなかった。




