ななと放課後デート
今日は、学校帰りに荷物持ちとしてななと制服で出掛ける約束をした日。
出掛けると言っても、本人曰く「見てみたいものがあるから」それに付き合って欲しいとのこと。
そうした経緯もあって、晃輔は約束を守るために、待ち合わせ場所である高校の最寄り駅にいた。
すると、ななが急ぎ足で晃輔もとにやって来た。
「ごめん、待った?」
ななは晃輔に尋ねる。
学校から急いで集合場所に来たのか、首筋から汗が流れ落ちている。
「いや、別に待ってないから大丈夫。てか、何で集合場所がわざわざ駅前なんだ? 何もわざわざ、こんな目立つ場所にしなくても……」
晃輔がそう尋ねると、ななはハンカチで首周りの汗を拭きながら、告げた。
「いいでしょ、別に。それに、これはあおいのアドバイスなのよ」
「……なるほど」
晃輔はどこか遠い目をしながら答える。
これがあおいのアドバイスということは、恐らく、ここから先のことも、何かしらのプランがななに言い渡されているのではないかと思う。
「それじゃあ、行きましょう」
ある程度落ち着いたなながそう言うと、晃輔は「お、おう」と言って、スタスタ駅に入っていくななを追いかけた。
***
「それで、いったい何を買うんだ?」
乗っていた電車を降りて、地下のデパートの方へ向かっていたななに晃輔は尋ねる。
「え!? えっと……服……を見てみたいの。駄目?」
晃輔に聞かれたななは、何故か動揺した素振りを見せると、少し屈んで、上目遣いで晃輔を見てきた。
「ん……別に全然駄目じゃない……」
上目遣いでななにそう言われると、晃輔は反論が出来ない。
そもそも、今日はななの荷物持ちとしている、という約束なのだ。
「よかった……」
「…………」
まるで心の底から安心したような、そんな表情をしているななに、晃輔はどう反応していいか分からなくなる。
「ありがとね、晃輔」
「おう。まぁ、約束だからな。それで、どこ行くんだ?」
「えっと、こっち」
晃輔が尋ねると、ななは晃輔の袖をぐいっと引っ張って行きたい方向を指差した。
「それにしても、相変わらず人が多いこと」
晃輔が独り言のように呟くと、ななはふっと笑って告げた。
「ふふ、人混みが嫌だからって逃げ出さないでよ」
「流石に約束は守るさ」
「期待してるわ」
そう言って、晃輔たちはななが見たいと言っていたお店に向かって歩き出した。
「……」
ななのお店巡りツアーが始まりしばらくすると、晃輔はデパートの人混みと単純な疲労によりぐったりしはじめていた。
幸い駅の周囲、というより駅の地下にデパートが集中しているおかげか、そんなに大した移動はない。
晃輔の目には大した差に見えないが、なな曰く、こういうのは細かいこだわりたい、とのことで、同じような店を行ったり来たりしている。
そして、そうこうしている内に、気づいたら晃輔の持つ紙袋は増えていき、そろそろ片手では持ちきれなくなっていた。
「ねえ晃輔、聞いてる? どっちが良いかって……」
ななは夏物の服を身体に当てて、そう晃輔に聞いてくる。
「あぁ、ごめん」
晃輔は人混みや疲労から、ついついぼーっとしてしまっていた。
今日のななは少し不機嫌そうになっても、何故だが全体的に機嫌がいいのでいつもよりも表情は柔らかい。
「えっと……どっちも似合ってる」
晃輔は素直な感想を口にした。
ななが持っているのは、半袖の白ワンピースとライトグリーンのブラウスと淡色のデニムを組み合わせた、おしゃれな夏服だ。
「……もうっ! 晃輔がそればっかだから、全然きまらないんだからね!」
口ではそう言いながら、ななは若干嬉しいそうな表情をしている。
基本的には晃輔の本心というか、正直、ななは何を着ても似合うのではないかと思う。
それが、仮にいつもと違う服装だとしても意外性があって良いと思う。
そのため、結果晃輔はななの服を決めきれない。
「で、結局どっちも買ったのか」
「だって……しょうがないじゃん……決まらなかったし」
この調子で散々迷った挙句、荷物が増えるということが繰り返されていた。
取り敢えず両方買ったななは、満足したのかお店を後にした。
「……」
買い過ぎた、とでも思っているのだろうか、ななは晃輔が持っている紙袋たちを見て、困惑した表情を浮かべている。
晃輔はななの様子を見て、どうしようかと考え告げた。
「……なぁ、せっかくだし、今日は食べて帰らないか?」
「え?」
晃輔がそう告げると、ななから間抜けな声が出た。
すると、何を勘違いしたのか、顔をしゅんとさせて晃輔に告げる。
「ごめんね、疲れたよね。晃輔苦手だもんね、こういう人が多い場所……それなのに、私楽しくて晃輔のこと振り回しちゃったし……」
そう言って、ななは更に落ち込み気味になる。
「い、いや、違っ、確かに人混みは苦手なだけど、ななとこうして店回るのは楽しかったし」
「ほんとに?」
「ああ。本当に楽しかったよ。あと、どっか食べに行こうって言ったのは、もういい時間だから」
そう言って晃輔がスマホの画面を見せると、既に十九時を回っていた。
「な? だからだよ」
「そっか……。っきり、私と回るの嫌になっちゃったのかと思っちゃった」
ななは心配そうな表情で晃輔の顔を覗き込む。
「それはないから大丈夫」
「良かった……」
「それじゃあ、遅くなっちゃう前に行こう」
「うん!」
そうして、ななの誤解が解けたところで、晃輔とななファミレスに向かった。
「今日は付き合ってくれてありがとね」
近くにあったファミレスに入って、それぞれが好きなものを頼み、食後のデザートを食べていると、ななが突然そう告げた。
「ん。どういたしまして。こっちも楽しかったよ」
晃輔は、頼んだチョコレートケーキを食べながらそう返す。
「そっか……それなら良かった……もし、晃輔に嫌な思いをさせてたらどうしょうかって……」
「だから……」
晃輔が喋ろうとするとななに遮られる。
「で、でも! ……正直、途中までは時間も忘れるぐらいすっごい楽しくて、気付いてよく見たら、晃輔に凄い量の荷物持たせてて、だから……」
「相変わらず、心配性だな」
今度は晃輔がななの言葉を遮った。
「もし、本当に嫌ならそう言うし、本当に楽しかったよ。こちらこそありがとう。だからさ……また一緒に遊びに行こう」
晃輔がそう言うと、しゅんとして落ち込んでいたななは、ぱぁっと花が咲くような笑顔になった。
「うん!」
ななは今日一番の笑顔でそう告げた。
すると、その声がちょっと大きかったのか、周りからはなんだなんだ、という視線を向けられて、ななは恥ずかしそうに赤面した。
そして、同じミスはしないと、ななは声のボリュームを落として晃輔に告げた。
「……明日も普通に学校だから、早く帰りましょうか」
「だな」
晃輔が苦笑しながらそう言うと、二人は準備して、ササッと会計を済ました。
会計を済まし、店を出たななは晃輔の方を振り返り告げた。
「ふふ、また、こうやって来れると良いわね」
「ああ、だな。楽しみだ」
晃輔がそう告げると、こうやって放課後にななと遊ぶのも悪くないな、とそんなことを思いながら晃輔たちは帰路に着くのだった。




