幼馴染の体調不良2
ななが眠りについてからしばらくすると、嶺が晃輔たちを訪ねてきた。
「ななの様態はどうだ?」
嶺は家に着くなり、晃輔にそう尋ねる。
「まぁ、朝よりはマシかな」
晃輔は、嶺をリビングに招きながらそう告げた。
「そうか……少し安心した」
晃輔がそう告げると、嶺は胸を撫で下ろした。
「それにしても……」
そう言って、晃輔は嶺が持っているものに目をやる。
嶺が持っているビニール袋には、わざわざ買ってきたのか、スポーツドリンクや冷却シートなど諸々のものが入っている。
「どうやってそんなに沢山、まだスーパーとかは開いてないだろうし」
晃輔が時計を見ると、時間はちょうど九時を回ったところだ。
朝の九時では、一部の店を除き、時間的にまだ店は開いてないはず。
晃輔は少し考えると、その答えにすぐに気づいた。
「あぁ、地元のスーパーに行ってきたのか」
「そ、正解」
どこもそうだと思うが、基本的に十時に開く店が多い。
しかし、実家から三十分程歩いた場所に、一階だけなら二十四時間経営している店がある。
恐らく嶺は連絡を貰ったあと、母親に何かを言われて、急いでその店に行き、体調を崩したななに必要そうなものを買ってきたのだろうと、晃輔は思った。
「まぁ、俺には時間あるしな」
「……なら、仕事しろよ」
晃輔は思わずそう呟いた。
「…………晃輔、ちなみにななにご飯は?」
少し間が空いた気がしたが、嶺は何事もなかったかのように晃輔にそう尋ねた。
逃げたな。と思いつつ晃輔はため息をつくと、ななが寝ているので声のトーンを少し落としながら嶺に告げた。
「一応、冷蔵庫にたまたまゼリーがあったから、それを」
そう言って晃輔は冷蔵庫を指差す。すると、つられて嶺も冷蔵庫の方に顔を向けた。
「そうか、なら良かった」
「良かったって何が?」
「いやだって母さんが、晃輔は慌てると絶対ミスするからって」
嶺が可笑しそうに言うと、晃輔はむっとした顔をする。
これだから嶺と話すのはあまり面白くない、と晃輔は思う。
嶺は昔から、自分のペースに人を巻き込むのが得意で、注意していても、嶺のペースに簡単に呑まれてしまうのだ。
強運もそうだが、マイペースも嶺の長所の一つだ。
「それにしても、母さんに言われたときは驚いたよ。ななが体調崩すなんて」
「……それは俺も思った。けど、あおいからテスト前になるとこういうことが起きる、って事前に聞いていたから」
あおいから、こうなることを事前に聞いていたからまだしも、聞いていなかったら、流石に動揺するし、大袈裟かも知れないが、恐らくパニックに近い状態になっていただろう。
「なるほど。じゃあ晃輔はこうなることを知っていたわけだ」
「まぁ。ただ、まさか、こんなに早くになるとは思わなかったけど……」
晃輔は、ななが寝ている寝室の方向に視線を向ける。
「それにしても、まさか晃輔まで残るとはな」
「体調の悪いななを一人にはさせれないだろう」
嶺にそう言われた晃輔は、真剣な顔で嶺を見据え告げる。
「ふふ、そうだな」
真剣な表情で嶺を見てくる晃輔に、嶺は静かに笑って答える。
「なんだよ」
「いや、何でも。それよりも、ななは病院には行かなくていいのか?」
若干不機嫌そうな顔をする晃輔を横目に、嶺はそう尋ねた。
「起きたら聞いてみる。まぁ、行かないって本人は言いそうだけど」
「まぁ、そうだろうな……」
晃輔のそれに、嶺は半ば呆れた目をする。
晃輔としては、できれば病院に行ってほしいのだが、あおい曰く、テスト前になると必ず体調を崩しているらしいので、恐らく晃輔がどう言ったところで、人の話を素直に受け入れるとは思えない。
晃輔と嶺がそんなことを話していると、の寝室に繋がるドアが開いて、なながリビングに顔を出した。
「ん……あれ、嶺兄さん?」
「お、悪いな起こしたか」
眠そうな目を擦りながら、ななは晃輔と嶺の方へ向かってくる。
今起きたばかりなのか、いつも綺麗に整えられているななの髪が乱れている。
「ううん。大丈夫」
ななはそう言うと、テーブルに置いてあるビニール袋に気付き指差す。
「これ、嶺兄さんが買ってきてくれたの?」
「ん? あぁ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
嶺はそう言うと、チラッと時計を見て告げた。
「そろそろ帰るか」
「もう?」
晃輔が尋ねると、嶺は帰る準備をしながら告げた。
「渡すものは渡したしな。あまり長居するわけにはいかないだろうし」
そう言って、嶺はスタスタと玄関の方へ向かう。
玄関で靴を履いた嶺は、振り返って晃輔たちの方を向く。
「なな、お大事にな」
「うん。本当にありがと」
嶺にそう言われたななは、柔らかく微笑んで、そう返した。
「じゃあな」
嶺は玄関を開けると、階段で下に降りていった。
「なな、体調は?」
何なんだ……と思いながらも、嶺が行ったのを確認して扉を閉めると、晃輔はななにそう尋ねた。
「ふふ、それ今聞く?」
まだ少し顔が赤いななは、小さく微笑んでそう答えた。
その表情に、晃輔は思わずドキッとしてしまいななの顔を直視出来なくなってしまう。
晃輔は微妙にななから目を逸らしてしまうが、本人は体調を崩して大変なんだから、と自分に言い聞かせて、なんとかななの方へ向き直る。
「何で笑うんだよ……いいだろ、別に」
「ふふ、まだちょっとダルいかな……」
そっぽを向く晃輔に、ななは小さく笑う。
「じゃあ、もう一回寝とけ。飽きるまで寝たら、たぶん治るだろうから」
「うん」
玄関から寝室までやってきたななは、自らベッドに入ると、そのまま横になりながら晃輔に告げた。
「晃輔って、私が体調崩すと、結構過保護になるんだね」
「うるさい。早く寝ろ」
「はーい」
「寝られないなら、さっきみたいに手を握ってようか?」
「じゃあ、お願いします」
「え」
冗談で言ったつもりだった晃輔は、驚いて目を丸くする
「晃輔が言ったのよ。それとも、男にニ言があるの?」
ななはいたずらっぽく微笑んで晃輔を見る。
「はぁ……分かりましたよ、お姫様」
晃輔は軽くため息をつくと、ななの掌を握って優しく告げた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
晃輔はななの寝息が聞こえてくるまで、優しくななの掌を握り続けた。
学校の授業が終わり、急いで帰ってきたあおいは、玄関を開けるなり「お姉ちゃん! 大丈夫!?」と言って、寝室に居たななに思いっきり抱き着こうとして、ななに怒られるということもあった。
結局、ななの方は念のために、ということで次の日も学校を休んだ。
体調が治ったななは晃輔に向かって「迷惑かけてごめんね」と最初は萎れていたが、学校に行く頃にはいつものななに戻っていた。
ななが二日ぶりに登校すると、心配した希実や石見たちに囲まれて少し戸惑っていたが、思ったより元気そうなので少し安心した。




