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少しだけ近づいた距離


 ななの誕生日の日から、晃輔に対するななの態度が少しだけ変わった。

 前までは少し強めだった当たりが、少しだけ優しくなったのだ。


「……おはよう」

「おはよう」


 晃輔が起きてきたななにそう言うと、ななも晃輔にそう返してきた。ななの反応を見ると、決して劇的に変化したわけではないことがわかる。

 ただなんとなく、晃輔はななが昨日と違うような、そんな気がしていた。


「朝なのに、ずいぶんテンション高いな」

「そう?」


 晃輔がそう聞くと、ななはかなり機嫌が良いのか、声を弾ませながらそう答えた。

 傍から見ても、明らかに機嫌が良く、テンションが高いと感じる。


 正直、一緒に暮らしている晃輔でさえ、少し怖いと思ってしまうぐらいに。

 そう思ってしまう程、ななの顔は破顔していた。


「うん……」


 晃輔は困惑した表情でそう告げる。


「? ……そっか……?」


 ななの頭に疑問符でも浮かんでいるのだろうか。明らかにいつもと違うななの反応に晃輔は困惑を隠せない。

 朝から完全に調子を狂わされている晃輔だが、暫くななの様子を見ることに決めた。

 すると、突然ななは笑顔で晃輔に向かって告げた。


「でも、ありがとね!」

「えっと……何が?」


 本当に突然、先程まで明後日の方向を見ながら、破顔していたなながそう言ってきた。

 いきなりそんなことを言ってきたななに晃輔は困惑する。


「? それはもちろん、ブレスレットのことだけど?」


 ななはそう言って首を傾げる。

 何を言いているの、と言わんばかりの顔をしていて、晃輔は目をぱちくりさせた。


「あぁ……喜んでくれたのなら良かった」


 晃輔は、ななに気付かれないように、小さく安堵した。

 結局、昨日は帰ってからも、だいぶごたついてしまい、夜寝る前に誕生日プレゼントを渡すことになってしまった。


 もっと、他に渡すタイミングがあったのではないか、とそんなことを悩んだ。

 しかし、嬉しそうな表情をするななを見てると、どうやらあの選択は間違っていなかった、と密かに晃輔は感じた。


「ふふ……」


 ななは目をうっとりさせて、いつの間にか晃輔が渡したピンクゴールドのブレスレットを眺めている。

 ちょっといつものななからは想像できないような表情で笑みを浮かべているので、晃輔は思わずななに見惚れしまった。


「えっと……なな、今日パンでいい?」


 頭を振って必死に煩悩たちを追い払うと、晃輔はななにそう尋ねた。


 昨日は、楠木家でななの誕生日会だったため、昨日の夜ご飯の残り物などは無い。

 冷蔵庫に何か置いてなかったかと確認してみたら、ここ最近は、ななの誕生日のことで頭が一杯で、買い物などを碌にしていなかったため、ほぼ空っぽだった。


「う〜ん」


 ななから気の抜けた返事が返ってくる。

 因みに、今は全く関係ないが、楠木家に置いてあった料理の材料は、つい最近ななの誕生日会用に買ったらしい。

 いつ買い物したのかは謎だったが、もし、知っていれば一緒に付いて行ったかもしれない。


「じゃあご飯にするから、そのブレスレットを置いて、顔洗ってきて」

「は〜い」


 晃輔がそう言うと、ななは、フラフラと身体を家のあっちこっちにぶつけながら、自室に戻っていく。


 晃輔はなんとなく、このままだとよくない気がした。

 なんせ、さっきからななは、時々、ブレスレットを眺めては呆けており、明らかに注意力散漫状態にある。


 晃輔がななが起きてきたことに気付いたのも、何かがぶつかるような、そんな音が聞こえたからである。このまま放置するとななが怪我をするのではないかと心配になるほどだ。


「なな、今日買い物行くからな」

「うーん……なんで?」


 晃輔が戻ってきたななにそう告げると、ななが不思議そうな顔で晃輔に尋ねた。


「冷蔵庫空っぽなんだよ……中見てみる?」

「いや、大丈夫…………ん? 買い物行くからなって……えっと……私も?」


 ななは自分を指差して「私も?」という顔で晃輔を見る。


「……他に誰が?」

「……ふふ、そうね」


 晃輔が呆れながらそう言うと、ななは笑って納得してくれた。

 機嫌が良いときは、本当に素直だなと思う。


「じゃあ、そういうことで」

「はーい」


 そう言って、ななはソファに座り、いつの間にか持ってきたくまのぬいぐるみを抱きしめながらピンクゴールドブレスレットを眺めはじめた。


 話の区切りがついたところで、晃輔は食卓にトーストを持っていく。

 本来なら晃輔一人で買い物に行けばいいものの、晃輔一人で沢山買った物を持つのは非常に大変なので、今回は仕方ない……ということにしておきたかった。


 正直、こんな状態のななとの買い物は不安しかないが、冷蔵庫に物が入っている、入っていないという問題は、晃輔たちの死活問題に直結してくるため、仕方がないと思い納得する晃輔だった。



***



「なんか、こういうの前にもあったわね」


 そう言うななは、とてもご機嫌の様子だ。

 冷蔵庫がほぼ空っぽのため、晃輔たちは、今近くのスーパーに買い物に来ている。

 晃輔たちが住んでいるマンションの最寄りの駅から、少し離れた所にあるお店を選んでいるため、学校の誰かに見つかる心配はない。


「なんだか懐かしい感じがする」


 晃輔の隣で、並んで歩いているななは、今日は晃輔が渡したピンクゴールドのブレスレットを着けて外出している。

 晃輔としては、着けてくれるのは嬉しいのだが、何故かは分からないが、何処か落ち着かない気持ちになる。


「あれからあんまり経ってないんだけどな……」

「それも、そうね」


 晃輔が言うと、ななは苦笑いしながら返した。


「ところで、今日何買うの?」


 そう言って、ななは晃輔の顔を覗き込む。


「いろいろかな。幸い今日休日だから時間あるし」


 晃輔は少し考えるような仕草をしてそう答える。


「流石に……朝冷蔵庫の中見たときはびっくりしたし……できれば、可能な限り、というか俺とななが持てる限り買えたらって思ってる……」

「了解」

「ちなみに、これが今日買うやつ」


 そう言って、晃輔は予め書いておいたメモをななに手渡す。


「結構買うわね……」


 メモを受け取ったななは思わず顔を引きつらせた。


「お金のほうは……」

「それは大丈夫。嶺兄さんのを借りた」


 ななの疑問に答えるように、晃輔は持っていたクレジットカードをななに見せる。


「いいのかしら……カード使って……しかもいくら家族とはいえ……」

「大丈夫でしょ。何か問題あれば、その時はその時になんとかすればいいと思うし」


 少し悩む素振りをみせるななを横目に、晃輔はそう言って店に入っていく。すると慌ててななも晃輔に続いて店の中に入っていった。

 

「卵に牛乳、人参は入れたから、あとは魚とお肉かな……他の物は買ったし……あれ? なな」

 

 晃輔は隣になながいないことに気付く。晃輔が店に入ってから暫くの間は、メモした物を買うために、ななと一緒にお店を巡っていたのだ。


「………………」


 晃輔は少し考え込んで、ある方向へ向かって歩き出した。すると、案の定ななはそこにいた。


「なな」

「……あっ、ごめん」


 ななはお菓子売り場に居た。


「行くぞ」


 昔からこういうところは変わらないなーと思いつつ、晃輔はななにそう告げる。


「はーい」


 ななはそう言って晃輔に付いていった。

 ななは、晃輔が正面を向いた隙に買い物かごにお菓子を隠すように入れた。それに晃輔が気付いたのは、会計している最中だった。


「そういえば、今日の夜ご飯は何にするの?」


 会計が終わり、買った物を持参したエコバッグに詰めていると、なながそんなことを聞いてきた。


「ん? あぁ、今日は――」


 晃輔は、今日の晩ご飯の献立を既に考えていたので、その内容をななに伝えると「やった」と言って喜んでいた。


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