第二十七話:動き出す在庫
――翌日。
まだ朝も浅い時間。
店の扉が、勢いよく開いた。
「なんじゃあれは!」
姫だった。
昨日の余韻を引きずるどころか、
むしろ“加速している”顔をしている。
「チョコレートとロールケーキじゃ」
「もう一度食わせよ!」
店内が一瞬止まる。
リオナが目を瞬かせる。
「……開店前ですが」
俺はため息をひとつ。
「早いな」
姫は腕を組む。
「待てるわけなかろう!」
「昨日からずっと考えておったぞ!」
猫人が小さく笑う。
「完全にハマってるな」
俺は厨房へ向かう。
「ある」
「用意してあります。」
姫の目が輝く。
「ほう!」
皿を出す。
チョコレート。
しっとりとしたロールケーキ。
そして抹茶ロールケーキ。
姫は一口食べた瞬間、静かになった。
「……消えるな」
「甘味が、消える」
「いや違う……残る」
リオナが横で小さく補足する。
「日持ちします」
「保存環境さえ整えれば、数日は問題ありません」
俺は続ける。
「だから、店に置きます。常備いたします。」
姫が顔を上げる。
「常にあるのか?」
「ああ」
「欲しい時に食える」
姫はしばし黙り――
「それは……良い」
真顔で言った。
そのあと、勢いよく次を要求する。
「他は!?」
「昨日のやつじゃ!」
俺は淡々と指示する。
「パン」
「カレー」
「煮込みハンバーグ」
厨房が動き出す。
火が入る。
匂いが立ち上る。
姫は待ちながら、そわそわと店内を歩く。
「この店……危険じゃな」
「毎日来てしまう」
リオナが帳簿を閉じる。
「そのための設計です」
姫が振り返る。
「設計?」
俺は料理を見ながら答える。
「“いつでも同じものが出る”ようにしてる」
「だから、驚きが薄れない」
姫は納得したように頷く。
やがて料理が並ぶ。
パン。
お茶。
ジュース。
甘酒。
カレー。
シチュー。
煮込みハンバーグ。
ミートボール。
湯気。
香り。
姫は無言で食べ始めた。
一口。
二口。
止まらない。
「……戦ができん」
ぽつりと呟く。
「食ってしまう」
――食事が終わる頃。
俺は裏の倉庫へ向かった。
すでに箱が積まれている。
チョコレート。
ロールケーキ。
レトルトカレー。
レトルト煮込みハンバーグ
レトルトミートボール。
包装されたパン。
お茶、ジュース、酒。
“その日分”がすでに揃っている。
リオナが帳簿を持ってくる。
「準備、完了しています」
「問題ありません」
俺は頷く。
「よし」
そして振り返る。
「人選と店は任せる」
リオナが目を上げる。
「……どこへ?」
「領に戻る」
短く答える。
「在庫を渡す」
猫人が目を細める。
「もう回しに行くのか」
「ああ」
「動き始めたからな」
俺は箱を確認する。
“異世界からの供給品”。
それをただ、
切る。
温める。
出す。
だが――それが“商売”になっていく。
「夕方には戻る」
リオナは静かに頷く。
「承知しました」
一拍。
「採用の件と店は、任せてください」
その言葉に、迷いはなかった。
俺は軽く手を上げる。
「頼む」
そして――
馬車へ向かう。
王都の朝は、すでに騒がしい。
昨日の熱は、まだ冷めていない。
いや、むしろ増えている。
「王が認めた店」
その一言が、
街を動かし始めていた。
――そして、俺は王都を離れる。
同時に。
この“仕組み”は、
別の場所へも伸び始めていた。




