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カートに入れるだけで世界を変える ~異世界通販で文明侵略~  作者: レモンティー


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第十話:一人の異物

三日後。

ギルドの空気は――変わっていた。

「……また来たぞ」

「例のやつだ」

視線が一箇所に集まる。

奥の作業場。

一人の男。

無言で、樽に向き合っている。

(あいつか)

俺は壁にもたれながら観察する。

年は若い。

だが――手が違う。

無駄がない。

迷いがない。

「……ずっとああだ」

横にいた男が小声で言う。

「寝てねぇ」

「食ってねぇ」

「ずっと仕込んでる」

(いいな)

完全に入ってる。

「名前は?」

「リュカ」

「へぇ」

その夜。

「……できた」

ぽつりと声が落ちる。

全員の動きが止まる。

「おい、リュカ……」

誰かが近づく。

「それ……」

樽から、液体が注がれる。

香りが――立つ。

(……強い)

一瞬で分かる。

「飲め」

リュカが言う。

無表情のまま。

一人が口をつける。

――止まる。

「……なんだこれ」

もう一口。

「……おい」

周りがざわつく。

「なんだよ」

別の男が飲む。

そして――

「……うまい」

静かに。

だが、確信を持って言った。

(ほう)

俺も受け取る。

口に含む。

広がる。

濃い。

だが、ただ濃いだけじゃない。

奥行きがある。

重なっている。

「……なるほど」

思わず笑う。

「やるじゃないか」

リュカが初めてこちらを見る。

「お前が、元締めか」

「ああ」

「……お前の酒は、確かに強い」

淡々と。

感情がない。

だが。

「だが――浅い」

空気が止まる。

(いいね)

「面白いこと言うな」

「事実だ」

リュカは続ける。

「誰でも同じ味を出せる酒だ」

「だから強い」

「だが――それだけだ」

沈黙。

「俺は違う」

樽を軽く叩く。

「これは、俺にしか作れない」

職人の酒。

唯一性。

「だから勝つ」

(……なるほどな)

完全に対抗軸だ。

量 vs 質。

再現性 vs 個性。

「いい」

俺は頷く。

「それでいこう」

「……?」

リュカがわずかに眉を動かす。

「お前の酒、出せ」

「……いいのか」

「ああ」

むしろ――

「売ってやる」

翌日。

広場。

新しい札が貼られる。

――【泡酒:銅貨三枚】

その横。

――【職人酒:銅貨八枚】

「なんだこれ……?」

「高くねぇか?」

ざわつき。

だが。

「……飲んでみるか」

一人が手を出す。

銅貨八枚。

高い。

だが――飲む。

止まる。

「……は?」

顔が変わる。

「なんだこれ……」

もう一口。

「……なんだよこれ……」

声が震える。

その一言で――

流れが変わる。

「おい、俺も!」

「待て! 先に俺だ!」

金が動く。

選ぶ客が、現れる。

(いい)

完全に分かれた。

「どうだ」

俺はリュカを見る。

「売れるだろ」

「……」

リュカは何も言わない。

ただ、広場を見ている。

だが――

その夜。

「……負けた」

リュカが言った。

「は?」

周囲がざわつく。

「量で負けた」

冷静に。

「客の数が違う」

安い酒が、圧倒的に回る。

「俺のは“選ばれる”だけだ」

「お前のは――“支配する”」

(理解が早い)

「で?」

俺は聞く。

「どうする?」

リュカは少しだけ考える。

そして――

「混ぜる」

「……何?」

「お前の酒と、俺の酒」

「両方の強みを使う」

(……ほう)

それはつまり。

量産と個性の融合。

「できるのか?」

「やる」

即答。

「時間をくれ」

(いいね)

俺は笑う。

「やってみろ」

その夜。

新しい戦いが始まる。

外じゃない。

内側だ。

無限供給の酒と、

一人の天才。

どちらが上か。

ではない。

「どう組み合わせるか」

その答えが出たとき――

この町の酒は、完全に変わる。

俺は空を見上げる。

「……面白くなってきたな」

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