〜いつまでも〜
今回で終わらせると言ったため、詰め込み過ぎて長くなりました。申し訳ありません。
一ヶ月。
その間、特に大きな事件は起きなかった。
依然として、姉上と兄上は王位をめぐって争いを続けている。
だが、最近疑問点が浮かんできている。
そもそも、姉上と兄上は争う気は無いのでは?という点だ。
なぜかというと、最近、姉上と兄上がコソコソと僕を影に隠れて追ってきている。
2人が王位をめぐって争っているのなら、そのような行為はするべきでは無いと思っている。
というか、動きがバレバレだった。
多分一ヶ月前のアーシャが赤面して去っていった時もいたのだろう。
そんなわけで、僕は姉上と兄上が何か企んでいるのだろうと踏んでいる。
大きな出来事を起こすとしたら、多分姉上がかき集めた腐敗した貴族たちを始末するつもりなのだろう。
そいつらを呼び寄せるには、何かの記念式的なものが必要。
最近で言うなら、僕の誕生日パーティーか。
多分、その日に決行するのだろう。
その日までにアーシャが告白して来なかったら、エルナに告白する。
だが、アーシャとエルナ、どっちを妻にとってもこの先疲れる予感しかしない。
まあ、もし王位についたとしても、王位につけずに辺境に追いやられても、とても楽しい生活を送れることは間違いなさそうである。
そして、運命の日がやってくる。
第二王子誕生祭、その日がやってきた。
王都は第二王子の生誕を祝うムードで賑わっている。
「凄えなぁ、めっちゃ大人気じゃねぇかお前」
「カルアも少し頑張れば、これくらいはなれるんじゃないかな?」
「阿呆が、俺にそんな芸当できるわけがねぇよ。俺は平和に暮らしたいんだ」
「本当に平和かい?」
「勿論だ」
「そうか。なら何も言わないよ」
カルアはいつ本気を出すのだろうか。
毎回カルアはのらりくらりと全てを躱していく。それも綺麗に。
だが、それが本人の望んでいることなら何も言うまい。
「そうかそうか、それじゃあいますごく暇だよね?暇だよねうんうん。一緒に行こうか」
「ちょっ待て!俺は今から城下町で露店を満喫するんだ!だから忙しいんだ!」
「何言ってるか聞こえないなー」
「やめろぉぉぉぉぉぉ」
そんな悲痛な叫びをよそに、オスカーはカルアを王城に引き摺っていったのだった。
「どうだ?露店よりもこっちの方が美味しいだろ?」
「恨むぞ...恨んでやるよお前ぇぇぇぇ」
カルアがなぜか怒っている。なんのことだかさっぱりわからない。故に無視する。
「さて...エルナはどこかな?」
「エルナか?しらねぇな。いっつもどこからでも現れるからなあの魔女は」
「魔女ではなく聖女ですよカルア?」
「うぉ、現れやがった!」
カルアの背後から現れたエルナ。聖女ではなく魔女と呼ばれたことに少し怒っているようだ。
「さてカルア様。空の上で死にたいか、今すぐこの場で無に帰すか、選ばせてあげますわ」
「どっちにしろ死ぬじゃねぇか...じゃあ第3の選択肢だね!」
「ただで帰すとお思いで?」
その後、カルアは止まった。
エルナは時間魔法も使える。
よって、カルアはエルナに捕まったのだった。
「放せ!俺はこれから城下町で露店巡りをするんだ!」
「女性に失礼な物言いをして、謝ることもできないのです?」
「土下座でもなんでもしてやるよ!だから今すぐ放してくれ!」
「ほぅ...なんでも、ですか...」
カルアはハッとした。自分が何を言ってしまったのか気付いたようだ。
「なんでも、と言いましたわよね?」
「イイイイッテナイデスヨナニヲ」
「いえいえ。ちゃんと言いましたわよね。ですよね?殿下」
「だから殿下と...公の場だから別にいいか。全部聞いていた。言っていたな。僕が言うんだ、間違いない」
「あああぁぁぁ...」
カルアの顔から生気が失われていく。よほどエルナの罰を受けたく無いようだ。
「それでは失礼します、殿下」
「ああ、聖女様。くれぐれも気をつけてね?」
「勿論ですよオスカー。幼馴染として情けはかけてあげるつもりです」
そうして、エルナとカルアはどこかへいってしまった。
数十分後。
エルナが満足げな顔で、カルアが青白い顔で帰ってきた。
よっぽど受けた罰が酷かったようだ。
「よ、よぉ...元気そうだな...」
カルアが息するたびにヒューヒュー言ってる。やばすぎるだろ。
「エルナ、いったいどんな罰を与えたんだい?」
「うふふ、秘密ですよ?乙女の秘密を探るのは、紳士として恥ずべきことですよ?」
「そうだね。聞かなかったことにしてくれ」
カルアはひどく絶望していた。まるで生きることに希望を無くしたみたいだ。
まあほとんど自業自得なので気にすることでは無い。反省してもらおう。
「そういえば、アーシャが来ないな」
「そうですわね。おかしいですわね...」
「...まぁそんなことを考えていくばかりではいかないんだ、僕は」
「...そうでしたわね。頑張ってください。今日さえ乗り切れば、安泰になるのですから」
「そうだね。頑張ろう」
そうして、エルナの元を後にした。
この式さえ乗り切れば、後の王国は安泰なのだから。
「それではこれより、エルリア王国第二王子オスカー・フレイ・エルリア殿下の誕生祭を執り行う」
司会者の言葉により、パーティーは始まった。
「オスカー殿下!おめでとうございます!」
「ありがとうございます、ツヴェルク伯爵」
何度これに似た言葉を言ったのだろうか。
これがもはや儀礼のようになっている。
「オスカー、大変そうですわね...」
「ああ、エルナか。いやぁ、王子ともなるとこういうのもしないといけないからね...」
「大変そうですわね...断ろうかしら、あなたからの告白...」
「僕は諦めないよ?」
「そう言うと思いました。一国の王子の返事を待たせた聖女となると、いくら私でも首が飛びそうですわ」
「その時は命をかけてでも助けるよ」
「そうですか。やはりオスカーは優しいですわね」
「これでも王子だからね。優しすぎるくらいだよ」
その言葉のあと、僕は会場の上檀に向かった。
そして僕は言う。
「今、この場だからこそ、言いたいことがあります。聖女様、こちらへお願いします」
「わ、わかりましたわ...」
エルナが僕の前へと向かう。
流石に冷静さを失わないことで有名なエルナでも、今回に限っては冷静さを失うか。やはりそれだけ恥ずかしいのだろう。
僕は覚悟を決めた。それをエルナにぶつけるだけだ。
「聖女様、いやエルナ。僕の婚約者になってくれないか」
周りがざわめく。第二王子と聖女様が幼馴染なのは知っていた。だがざわめく。どうしてか。
それはエルナの出自が関係している。
10年前。
当時のオスカーは、時々城を抜け出すのが好きだった。
世話役の目を盗んでは城を抜け出し、出会った子供と遊んでいた。
そして、1人の女の子と出会い、友達となり、それからはそのことしか遊ばなくなった。
それが、エルナである。
エルナは元々捨て子だった。
エルナ自身、親の顔すら覚えていない。
小さい頃から、路地裏で縮こまることしかできなかった。
生きる意味などなかったのだ。
それが物心ついてから6年続いた。
路地裏で暮らす人たちに保護された時、温もりと感じてから涙を流した。それからはその保護した人たちと共に過ごした。
とても濃厚な時だった。
だが、その平穏は崩れた。
ある日、エルナが街から帰ってきた時。
自分の居場所が、奴隷商人に襲われていた。
この王国は奴隷は禁止されている。
しかし、すべての奴隷商人を罰することはできなかった。
たまにこうして、隠れている奴隷商人が奴隷を確保するべく、奴隷狩りをしている。
エルナは幸い、奴隷狩りには合わなかった。
しかし、帰る場所を無くした。
生きる意味を無くしてしまった。
途方に暮れていくあてもなく歩いている中、運命の出会いをしたのがーー
御年6歳、エルリア王国第二王子オスカー・フレイ・エルリアだった。
「もう大丈夫だよ」
自分の話を聞いて、同情してくれた。
まるで、自分を保護してくれた人たちのようにーー
「ねぇ、名前は?」
聞かれた。
「エルナ...」
そう答えた。
「エルナっていうんだね!よろしくね、エルナ!」
勢いについていけない。
「エルナ、今日から僕たちは友達だ!」
ーー友達。
それはエルナにとって、初めて聞くものだった。
だけど、不思議と落ち着いてくる何かがある。
「...うん...」
顔を俯かせて、そう答えるエルナ。
満足そうな顔をするオスカー。
そんな中、1人の男がやってきた。
「殿下!ここにいらしていましたか!...うん?この者は?」
「エルナっていうんだ!さっき友達になったんだ!」
男。
奴隷商人。
目の前の男にはそんなことはないと思うが、さっきのことを思うと...
「あ...あ...」
「エルナ、どうしたの?」
エルナには何が見えているのか。
オスカーにはわかっていない。
だが、エルナには、目の前にいるオスカーの護衛が、大切なものを奪った奴隷商人に見えてしまい...
「来ないで...来ないでぇっ!」
「エルナ?!」
「殿下!お服が汚れてしまいます!」
「そんなことはどうでもいい!」
「しかし...」
「命令。今は手を出さないで」
「...命令とあらば」
護衛を大人しくさせた。
あとはエルナを落ち着かせるだけだ。
「エルナ?」
「来ないで...攫わないで...」
幼少期から賢かったオスカーはある程度事態を察した。
どうやら闇が深そうである。
「えるな、ここには悪い奴はいないよ」
「あの悪い人も、いないの...?」
「もちろん。、もしきたとしても、僕が守ってあげるから!」
この時、エルナはオスカーに好意を持ったのだろう。
「ありが...と...う....」
多分緊張の糸が切れたのだろう、エルナが倒れる。
「護衛さん!エルナが死んじゃう!僕の大切な友達なの!」
「し、しかしですね...ただの平民を...」
「お願い!」
「...わかりました」
こうして、エルナは王城へと連れて行かれ、紆余曲折あって、従妹かつ幼馴染となった。
そして勤勉なエルナは学を身につけ、得意だと分かった治癒系統魔法を極め、気づけば聖女となっていた。
そんな過去があった。
だが、オスカーにとっては出自などは関係ない。
「今!彼女の出自について言いたいものがいるだろ!許す!僕と対峙したいものだけが出てこい!」
覇気ある声に、全員が怯む。
そんな中で、出てくる愚か者はいなかった。
「さあ、エルナの返事を聞かせてほしい」
「わ、私如きが王子の婚約者だなんて...」
「身分なんて関係ない。それに、そんな返事もいらない」
エルナは心の中で笑ってしまう。そんなの、返事はひとつしかないじゃないか、と。
「私でよければ、お願いします」
こうして、自分の誕生日に、エルナという婚約者を得たオスカーであった。
さて、次だ。
「こんな場で政治的な話で申し訳ないが、これを見てもらいたい」
貴族たちが目を向けると、そこには不正書類が多々あった。
それを見て動揺している貴族が数名。
彼らが始末するべき貴族である。
「我が国でこんな不正を犯すなど、国民にどう顔向けできようか」
言葉を続ける。
「よって、我らはこれを国王会議に提出し、不正を暴く。国民に安心と安全を与えるためにも、協力してほしい」
貴族たちは同意の声を挙げる。これでいい。次だ。
「分かった。諸君らの声は我が必ず会議に届けると誓おう。しかし、だ。残念ながらこの中にまさにこの不正を犯した貴族がいる。偶然にも全員だ。アーシャ率いる第一近衛隊よ!捕えろ!」
そして護衛に扮していたアーシャとカルア率いる第一近衛隊が不正をしていた貴族たちを抑えた。
いつの間にアーシャが来ていたのか、という驚きもあったが、今はそれどころではない。
「彼らがこの不正書類に記されていることをしていた貴族である。自己の利益のために、国民を省みずに、不正を犯すなど言語道断。会議後に刑が下されるだろう。それまで牢屋で大人しくしているがいい」
ふう。これで色々終わった。あとは...
「よくやったな、オスカー。兄として誇らしい」
「ありがとうございます、兄上」
アルスが近づいてくる。
「いえ、兄上ではありませんね。誰ですか?」
場に動揺が走る。
実はオスカーも動揺していた。
「その魔力波、兄上のものではありません。一体何が目的でしょうか?」
「チッ...それはもちろんわかるだろ?」
「ええ、分かっております。あなたはここで捕えさせてもらいましょう」
「簡単に捕まるかよ!」
男は逃げた。
「アーシャ!カルア!戦の準備をしろ!」
「オスカー!どうして?!」
「アーシャ!わかるだろ?バカ貴族どもが反乱を起こしたんだよ!」
そう、不正を犯した貴族たちが反乱を起こした。
当主はいないが、どうやら旗がいるらしい。
一体誰なのか。よくわからない。
「兄上!姉上!」
「オスカーか。よくやった」
「いえ、こちらが勝手に行動しているだけです。しかし、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。オスカーが行動する体で作った案だ」
「そうですか、日頃から僕をつけているおかげですね」
「ごほん。とりあえず、反乱が起きたんだな?」
「はい、姉上。当主は捕えたのに、反乱が起きたのには少々疑問を覚えています」
「それは我々もだ。しかし、目前の問題に対処するだけだ」
「わかりました。僕はアーシャ率いる第一近衛隊を率います」
「わかった。お前率いる第一近衛隊を先鋒に任ずる。頼んだぞ」
「わかりました兄上。敵陣に切り込みを入れてきます」
そうして僕はアーシャたちが待機しているところへ向かった。
ついたところ、エルナ、アーシャ、カルアが待機している。
「お前たちは先鋒に任じられた。僕自らが率いる。反乱軍を鎮圧するぞ!」
「はっ!」
こうして僕らは最後の戦場へと向かった。
エルリア王国北方。
反乱軍がいるところだ。
王都を立ち、すでに数日が経っている。
そこへ僕らは向かっている。
幼馴染4人集えば最強ともいうべきか、僕ら幼馴染は今まで負けたことがない。
まあそんな武勇伝はどうでもいいが、今回も負けてやるつもりはない。
しかも相手は不正をして自分の利益のために国民を苦しめた貴族どもだ。情けをかけてやるつもりもない。
存在すら残さず消すつもりだ。
そして数時間後。
僕らはとある山裾に布陣した。そこで僕は発破をかける。
「目の前にいるのは!自身の利益のために国民を蔑ろにした国賊である!そして愚かにも王を舐め、反乱を起こした。もはや貴族ではない!」
言葉を続ける。
「私たちは国王の名のもと、国賊どもを討伐する!愚か者どもを討ち取るのだ!」
場が湧き上がる。
こういうのは初めてであったため、とりあえずそれらしいことを言ってみたが大丈夫なようだ。
「お疲れさん大将様」
「おちょくりにきたのかい?カルア」
「ちげーよ。大役お疲れ様と言ってたじゃねぇか」
「カルアが言うと嫌味に聞こえるんだよねえ...」
「おいひどくねぇかそれは!?」
やはり戦場でも僕達はいつも通りの調子になってしまうようだ。
「馬鹿ルア!さっさと準備しなさい!出陣するわよ!」
「あー分かってるって恥ずかしがり屋の妹さん♪」
「なっ...あとで覚えてなさい!」
「ったく...今度こそ逃げ切ってやるよ!」
そしてカルアは出陣する。
「あ!待ちなさい!一番手は私よ!」
そこで待ったをかけるアーシャ。
「いーや俺だ!俺がオスカーに一番手を任じられたんだ!俺が相応しい!」
両者譲らない。
「え?!オスカー!本当?!」
「オスカーは出陣容易で忙しいからな。それじゃ、お先ー♪」
「あっ、待ちなさーい!」
そしてカルアが先に駆けて行き、広報をアーシャが追っていく形で僕が受け持つ軍の大部分が陣から離れたのだった。
「よかったの?カルアとアーシャの喧嘩を抑えなくても」
エルナが僕に話しかけてくる。
「いや、いいんだ。エルナも2人の性格をわかってるだろ?」
「ああ...そう言うことでしたの」
「わかっていたらいいんだ。2人は戦場ではこうしたら絶対に勝てる」
そんな話をしている間に、斥候が来た。
「ほ、報告!第一陣、敵陣を分断!相手は総崩れ状態です!」
「おお、予想以上の威力だったようだ」
「オスカー、これからどうしますの?」
「よし、アーシャ、カルア率いる軍を撤退させろ。あとは兄上と姉上に任せる」
「は、ははっ!」
斥候が両隊に知らせるべく駆けて行った。
「よかったのですか?」
「ああ、これでいい。万が一、僕を王に据える馬鹿どもが出てきたらたまったもんじゃない。僕は気ままな王子のままでいいんだ」
「そうですの...私はどこまでもお供いたしますわよ?」
「もちろん頼むよ。僕は君とならどこへでも行くよ」
「まあ。それは嬉しいですわ」
「おいおい、人中でイチャコラすんじゃねぇよ彼女いない奴らへの当てつけか?え?」
鬼の形相でカルアが入ってきた。
「ならカルアは自分の本気を見せつけたらいいじゃないか。現に、さっき大勝してきただろ?それを公に大きく言いふらしてあげるよ。そうしたら、婚約者選び放題だよ?」
「嫌だね!俺はそんな噂程度で手のひら返される奴らとは結婚どころか顔合わせすらしたかねぇな!俺のことを真に理解してくれる平凡な女の子と俺ぁ結婚すんだ!」
「理想高すぎませんの...?」
「いいや、これが俺の理想だ!それ以外は結婚しねぇ!」
「ははは、カルアは相変わらずだね。そういえば、アーシャは?」
「いやしらねぇな。もう直ぐ帰ってくるんじゃねぇか?」
そんな話をしている間に、アーシャが帰ってきた。
アーシャが帰ってきた。
しかし、出陣する時の元気は失われていた。
「ど、どうしたんだ?!アーシャ、一体何があった?!」
「...」
「アーシャ!何があったか教えてくれませんの!?」
「...」
カルアとエルナの質問にだんまりしている。いったい何があったんだ?
「アーシャ、何があったんだ?!教えてく...れ...」
次の瞬間、アー写が抜き身で僕の腹を貫いた。
なぜだ?
「おい、アーシャ!妹だからって容赦はしねーぞ....」
そんなカルアの言葉に耳を貸さず、エルナへと向く。
そして、エルナを斬り捨てた。
その瞬間、僕の何かが切れた。
「エル...ナ....」
「オスカー...愛して...いますよ...ずっと...これからも...」
そしてエルナがこときれた。
カルアが激怒する。
「アーシャ!お前、自分が何してんのかわかってんのか!」
その次に、初めてアーシャの口が動いた。
「あー、お前ウルセェ」
そしてカルアの右腹に穴が開いた。
「ふぃ...注文はこれくらいか」
注文などいうのなら、相手は間違いない。
魔術師数十人で数日の儀式をした上で、真っ当な対価を支払った上で初めて現れる存在。
召喚主でさえ、稀に殺してしまうほどに、享楽的な存在。
魔族、悪魔であった。
そいつに、僕の大切な存在を奪われた。
僕は目の前で幼馴染三人を失ってしまったのだ。
せめて...
「...おい、悪魔。お前は、僕を前に大切な人三人を殺したんだ...楽に死ねると思うなよ?」
「はっ!まだ生きていたか、クズが。大人しくしてろよ?今直ぐにその大切な人とやらの場所に送ってやるよ!」
「アーシャの声で喋るな...下衆が」
そして僕はアーシャの体ごと、悪魔の腕を切った。
「いてぇ...お前!こいつの体の持ち主は生きているかもしれないんだぞ?!なぜそんなことが...!」
「嘘をつくなよ...悪魔。魂を喰って乗っ取ったんだろ?」
「...ばれちゃぁ仕方ねぇ...しっかし、よく知ってるなぁ...」
「うるさいな...もう喋るなよ。僕の幼馴染と婚約者を奪ったこと、魂の髄まで後悔させてやる!」
そして、僕は死力を尽くして戦った。
悪魔を滅ぼした。
だがしかし、僕はもう立っているだけで精一杯だった。
「姉上と兄上に、安心して王国の政治を行ってもらうためにも、僕が反乱を鎮圧しないとね...」
だが魔力は底を尽きている。しかしオスカーは驚くべきことをした。
「魔力がないなら...!エルナも、カルアも、アーシャもいないんだ...もう、僕に残されたものは、何もない。だから、安心してこれを使える...」
そういう。そして斥候を呼んだ。
「君。姉上と兄上に...僕達の死と...反乱の終結を伝えてくれ」
「で、殿下...しかし...」
斥候は涙ぐんだ声で言った。禁術を使ったんだ、僕の命はもう長くない。
「いいから行け!これは王族命令だ!」
そう言い捨てて、僕は上空に上がった。
斥候が仕事をしてくれたら嬉しい。
さて...
「転移...」
条件付きの転移を行った。
条件は、『僕に対して敵意を持っている』か。
隠れている反逆者もここで始末する。
転移先は王都近郊に指定している。
王都近郊は基本安全だ、兄上と姉上なら...
「...もう時間もないか...」
視界が朧げになってきた。
そろそろ始めるとしよう。
僕の人生最後の魔法を。
「構築...」
アーシャ。
カルアといつも喧嘩をしていたが、小さい頃はカルアにずっとくっついていた。
いつからか喧嘩をするようになったが、それでも、戦場に行ったカルアの心配を一番していたことを知っている。
幼馴染の中でも、エルナと仲良くしてくれていた。
だが最後、魔族に憑かれて、魂を食われてしまった。
これだけは言いたい。アーシャ、仇は討った。安らかに眠ってくれ...
最近は会えなかったが、最後まで彼女らしい笑顔を見れて、僕は嬉しく思いたい。
「構築完了...岩魔法...龍星降...」
カルア。
幼馴染の中で、一番そばにいる時間が長かった。
いつも気怠げにしているが、本気を出せば、王国を1人で守り切れるほど強かったと僕は知っている。
僕が王を目指していた頃、そば付き騎士になってくれて、嬉しかったなぁ...
大人になっても、心を許せる親友のような存在。
もし、来世でまた会えたなら、また親友にーーー
「構築完了...炎魔法...獄火牢...」
兄上と姉上。
僕の憧れの存在。
性格上相容れなかったのは残念だが、2人の力が合わさったときは、どんな敵にも負けなかった。
そんな兄上と姉上になりたくて、僕はーーー
もはや会うこともできない。
だが、2人の憂いを残さないためにも、僕は2人の敵を打ち滅ぼす。
だから、僕の死を知っても、王国を守り続けてください。僕の敬愛する兄上、姉上。
「構築完了...融合...融合魔法...龍獄炎星....」
そして、エルナ。
10年前に出会い、今日まで一緒にいた存在。
勤勉であり、誰にでも優しい。
そして、治癒系統魔法を極め、名実ともに聖女と呼ばれる存在。
つい最近婚約者になった。
出会った時からずっと惹かれていた。
そんな彼女と婚約者になれたことに、僕は嬉しく思いたい。
来世でもまた、婚約者になってくれると嬉しいな...
やはり、死というものは怖い。
決意したはずなのに、いざ目の前に来たら、途端に生きたくなってきた。
だが、もう止められない。
アーシャ、カルア、エルナ。
来世でもまた会えますように。
「構築完了...来れ、龍獄炎星...」
視界が眩く。
目の前が白くなる。
意識が飛びそうだ。
だが、まだ死ぬわけにはいかない。
反乱軍を完全に討ち滅ぼしたと分かるまでは...
気づけば僕は更地のど真ん中に立っていた。
しかし、直ぐに倒れる。
「これで...もう...大丈夫だ...」
だんだんと意識が遠くなる。
だが、なぜか怖くない。
「はは...僕のやることは果たした...でも........エルナ...」
最愛の、自分に最後までついてきてくれたであろう、その人がいたであろう方角を向き、思う。
「...エルナと、結婚して...幸せな生活を...送りたかった...なぁ...」
そんな願望。
しかし、そのエルナは死に、僕ももうすぐエルナと同じところへ行く。
「死んだあと...エルナと同じ世界に...もう一度...産まれたなら....」
そのときは。
その時こそ、エルナと出会い、結婚し、今生で叶わなかった、幸せな生活を送りたい。
「カルアと...アーシャとも...一緒に...」
そして、視界が真っ暗になる。
最後に思う。
「エルナたちと、もう一度...会いたいなぁ....」
「てってめ、なんだその力は!」
「この力かい?この力はーーーーーーーー」
オスカーが、悪魔を滅ぼす前に遡る。
エルナは意識が朦朧としていた。
その中で聞こえたこの会話。
オスカーが、命を賭して自分の仇を討ってくれているのだとはわかっていた。
だが、相手がーー
(いい、人生でしたわ...)
だが、心残りはある。
最後に、オスカーと結婚したかった。
オスカーとの子供がどんな子供か見たかった。
オスカーと...
「最後に、一眼でいいから...会いたいですわ...」
最後に、エルナは、そう思った。
それを最後にエルナは目をーー閉じようとした。
突然、意識が引っ張り出され、気づけば謎の空間にいた。
周りを見渡すと、カルアとアーシャがいた。
「おい!アーシャ!なんで俺らを斬り捨てた!なんでだ!」
アーシャはだんまりとしている。まるで今知ったかのように。
「おい!答えろ!どうして俺らを殺したんだ!」
カルアは泣きながらも、アーシャを問い詰める。
カルアはどうしても、アーシャがやっていないと信じたいようだ。
そこでエルナが口を開く。
「大丈夫ですよカルア。アーシャはやっていません。アーシャは悪魔に魂を喰われ、体を乗っ取られてしまったのです」
「そ、そうだったのか...」
カルアは安心したのか、ガクンと膝をつく。
「よかった...よかった...」
何故カルアは本気を出さなかったのか。
周りはそういうだろう。
だが、カルアとしても、実の妹を殺したくはなかったのだろう。
エルナはそう感じていた。
「しかし...ここはどこなのでしょうか...」
「わからない...」
ここはどこか。それが今この場にいる、全員の疑問だった。
「オスカーは、うまくやってるのか?」
カルアがいう。
「いえ。悪魔との戦闘の一部始終を見ていましたが、満身創痍でした...おそらくは、助けがない限りは...」
「そうか...」
オスカーは、もはや長くはないかもしれない。
三人がそう思った瞬間。
「...」
気まずそうにこっちに歩いてくる人が1人。だが、それを見て、3人はひどく落胆してしまった。
「み、みんな...みんなもいたんだ...」
「オスカー...お前もか...」
「みんな...悪魔は倒したよ...反乱軍も鎮圧した...」
「そんな...オスカー!魔力は尽きていたはずですわ!どうやって反乱軍を...!」
エルナはハッとした。まさかとは思ったが信じたくはなかった。だが...
「えるな、予想していることを僕はやった...だけど、悔いは残っていない...」
エルナは沈黙する。
カルアも、予想していたことがあっていたようで、沈黙を続けていた。
「...なんでですの?なんで、自分の命を賭してまで....」
「それが、王国のためになると思ったからさ...」
「...オスカーらしいですわね」
エルナはそう答えた。
オスカーならそうする。
エルナなら、そう思っていた。
実際、カルアもそうするかもしれないと言っていた。
だが、現実として、オスカーは禁術を使った。
生きて欲しかったが、オスカーなら反乱軍を討ち滅ぼすことにかける。
エルナはオスカーが変わっていないことに、安心した。
「アーシャ...」
「オスカー殿下...」
僕はアーシャの前に立つ。
「殿下...申し訳ありませんでした...ここは私の首で...」
「アーシャ、ここはもう死後の世界だよ?そんな世界で、どうやって首を差し出すのさ」
「それはこうやって...?!」
「無駄だよ。自害することはできないらしい」
アーシャは首を斬ろうとしたが、僕が静止する。
「アーシャ。死ぬ前に、悪魔に抵抗しようとしたか?」
「そ、それは!もちろんしました!」
「よろしい。ならば、全てを許す」
「...それでいいの?」
「ああ、それでいいんだ。アーシャ、言いたいことはあるか?」
「...なにも...」
「ならいい」
これで未練は清算された。そう思った次の瞬間...
「パンパカパーン!おめでとう諸君!君たちには、転生の権利を与えよう!」
脳内にそんな声が響く。反応からして、どうやらエルナたちにも聞こえているようだ。
「転生先の世界は、君たちが生きていた時代から一万年後。だけど、君達の英雄伝は伝わってないから、間違っても前世の名を名乗らないようにね?」
僕たちは全く理解できなかった。だが、話が続く。
「それでは、二度目の人生、楽しんできてね☆」
次の瞬間、僕たちは別次元へと飛ばされた...
「あ、みんな幼馴染だったから生まれは最近にさせたけど、位置関係1人だけずれちゃったよ☆キャハ☆」
神というのか、女神というのか。わからない。
「でも、幼馴染なんだから、これくらいは余裕で乗り越えて、4人揃って集うよね☆」
そう語る女神だった。
そして時は今。
レンジスは目覚めた。
「なんかとても懐かしい夢を見たような...」
気のせいとは言えない。
現実味があったからだ。
だがそんな悩みも吹き飛んでしまう。
「父さん、みんなの頭が狂ってしまった。助けてあげて」
そういうミリスの言葉を聞いて、視線を向けると、そこには野生に還っていったみんなが。
そこから数日かけて、全員を元に戻したのだった。
やれやれ、こんなときに...
大変お待たせしました。次回からレンジスたちの物語が再開します。




