〜守りたい光景〜
オスカーは考えていた。
どうやったら姉上のそばで自分の力を振るえれるのかと。
同じ時間、アーシャは考えていた。
どうやったらオスカーに自分の気持ちを告げることができるのかを。
それぞれが同じ星空の下で、どうしたら自分という存在を相手に認識させられるのかを考えていた。
「ふむ...」
アイリスは悩んでいた。手駒のゴミたちは使えるが、同時にリスクを抱えることになる。だがしかし、彼らを使わないと勝てない相手もいる。
第一王子、アルスである。
彼は屈指の戦闘技術を持っている。総大将自らが率いる軍はそこらの兵とは士気が全然違う。しかも次期国王最有力候補ときたら、だ。アイリスの指揮力とアルスの統率力。どちらも拮抗するほどの実力を持っている。
だがしかし、ここにオスカーが加わればどうだろうか。オスカーは軍師に向いている。つまり調略が得意ということ。どちらかに入ればそれだけで敵方の陣営が崩れる。アイリスも策を巡らせることはできるが、オスカーはその一手二手上をいく。アイリスもアルスも、オスカーに知略戦では勝てないほどなのだ。かつて模擬戦でアイリスとアルス対オスカーをやった。オスカーが砦に篭り、アイリスとアルスが攻め入るというシチュエーションなのだが、一週間経っても落とせなかった。模擬戦というわけで本気で望めないというのもあるが、やはりオスカーの戦術が2人を大きく越えたというわけなのだろう。
オスカーを取ればそれだけで勝てる。
それほどオスカーの影響力は強大なのだ。
「まずはオスカーを取り入れないとだな...」
アイリスは呟く。
「どうすれば私が穏便に王位争いから退けれるか...」
「おいおい...」
カルアは考えていた。
「スゲェの聞いてしまったぜ」
そう。
アーシャの恋心を知ってしまったのだ。
兄としては嬉しい。
幼馴染に娶ってもらえるのだ。
しかも相手は王子。
娶ってもらえる相手としては最上だ。
だが、懸念はある。
アーシャが自分の気持ちを打ち明けられるかだ。
こればっかりは、自分でなんとかしてもらわないといけない。
オスカーはアーシャの恋心に気づいてはいないようだ。
オスカーに伝えたいのも山々だが、伝えてしまうとアーシャにとってためにならない。
告白なら男から!などという風習もあるが、そんなのは関係ない。
大事なのは、告白する時、相手にどれだけ自分の思いをぶつけられるか。
それが大事なのだ。いくら金を積まれようとも、思いさえあれば揺るぎないものとなる。
「軽い恋じゃなけらねぇ...まあ、心配することにはならないか」
カルアは空を眺めながら、そう呟いた。
一年後。
アーシャはまだオスカーに心を打ち明けられずに、アイリスとアルスは王位をめぐって争っていた。争っているとは言っても、武力で争っているわけではなかった。流石に武力を使うと大きな内戦を起こすとは兄上姉上も知っているようだ。エルリア王国は大国だが、それゆえに複数の国家と接している。それらに王国の弱体化を悟られ、周辺国家が連合を組んで侵攻してくると王国とて必ず勝てない。だから、大きな影響力を持つうちは政治で王位を争うという暗黙のルールがいつの間にか成立していた。祖国を思う2人にだからこそ生まれたルールなのだろうと、僕は思っている。いや信じているのだ。
そんなある日。散歩していた時だ。
聖女と一緒に楽しくお話しするアーシャを見かけた。
僕に気づかずにエルナとおしゃべりしている。随分と興が乗っているようだ。
すると僕に気づいたのか、エルナがおなじみ堅苦しい挨拶を述べる。
「オスカー王子、今日もお元気そうで何よりです」
「それはやめてくれ、エルナにまでそんな口上を述べられたら僕は誰に気を許せるんだい?」
「カルア様がいらっしゃるでしょう。彼と仲良くすればと」
「昔みたいに話してくれよエルナ、アーシャも堅苦しくしゃべってくるんだ、これ以上堅苦しくしゃべってくるとなると、もう昔を懐かしむ余裕も無くなってしまうよ」
「失礼しました、王子。いやオスカー。つい、ね」
そういうと、エルナは元の口調に戻してくれた。アーシャはエルナとまだ話している。幻像のエルナと。
「ははは、聖女様もとうとう人をいじることを覚えてしまったのですか?」
「いえいえ。ただ彼女は本当にこういうところは可愛いな、って思っているんですよ。だからそれをずっと眺めていたくて」
「それが人をいじる、というものなんだよねぇ...」
エルナはまだ気づいていない。こんな失態をお偉いさんに見られたら、一大事である。だが見ているのは本人と王子。というか幼馴染全員。だから誰にも咎められない。
「エルナ、まだ偽物だって気づいてないのか?」
おっとお兄様のご登場だ。
「そうだね。エルナの幻覚魔法は常人では推し量れないからね。もしかしたら僕ら自体が幻像かもしれないよ?」
「ふふふ。ご冗談はおよしください。あなたたちはちゃんと現実に存在している生命ですわよ?」
「それはよかった。それよりもそろそろエルナを呼ぼうか」
「そうですわね」
「おう、それじゃオスカー、行ってこい」
「僕なの?まあいいけど」
なんで僕なんだろうか...細かいことは後でいいか。
それよりもアーシャを呼びに行かないと。
「おーい!アーシャ、いつまでも誰と話しているんだ?こっちにこいよ」
「おっおおおオスカー王子?!王子の目の前でとんでもないご無礼を働いてしまった罪、この命一つで許してください!!」
「落ち着いてアーシャ!許すからさ?」
「オスカーの前で恥を晒してしまった!もう生きていけない!」
「そんなに恥ずかしいものなの!?」
「そうよ!だって好きな人の前で恥を晒したら恥ずかしいでしょう!?」
時が止まった。
魔法とかそんなんじゃない。
もう、物理的に時が止まったのだ。
そして数分後。
止まった時間を止めた本人が動かし出した。
「あ...ああああぁぁぁっぁぁっぁぁっっぁぁ...」
ひどく赤面している。
「いっ今のは忘れてよね!」
そんな捨て台詞と共に、アーシャは風の如く逃げていった。
流石になんで赤面して逃げていったのかは僕でもわかる。
「可愛いですね。あんな面があるからアーシャは好きなのです」
「まじか?家でもあいつ、あんな感じだからな?」
「あら?それじゃあ、いつの日かお泊まりしに行こうかしら」
「その日はアーシャが助けを求める声で屋敷が満たされそうだ。頼むから来ないでくれ」
「別に絶対行くわけではなくてよ?望むなら今すぐいってもいいわよ?」
目の前でばちばち対立している。
「頼むから目の前で喧嘩しないでくれ...エルナも過度にアーシャをいじるな。カルアもエルナを挑発するな。いいな?」
「わかりました、オスカー」
「わかったよ、オスカー」
わかってくれたようで何よりである。
「オスカーなら、なんで逃げていったか、理由は分かりますわよね?」
「その理由がわからないほど鈍感ではないよ。というか薄々気づいていたけど、まさかとは思って信じていなかっただけだよ」
「あら、それは自分の顔がいいからって恋人ができていない私や馬鹿ルアへの皮肉かしら?」
「誰が馬鹿ルアじゃゴルァ」
「あら怖い」
「だからそれをやめてって...そういうわけじゃないよ。ただ、そういう意味に聞こえてしまったなら謝るよ」
「王族が簡単に頭を下げないでくださいまし。とはいっても、私たちは幼馴染ですから、オスカーが王族でも容赦なく頭を下げさせますが」
「それはひどいなぁ...とはいっても、アーシャが僕に恋心を抱いている。これは確かなんだね?」
「ま、そゆことだ。しかし、あいつの恋心は叶うものなのか...」
「分かりませんね...好きな人の前で好意を口にするだけで逃げていきますし...もしかしたら、アーシャが告白する前に、婚約者ができるかもしれませんわよ?」
「そうだね。まぁ、期限は僕がエルナにプロポーズするまで、かな」
また時が止まった。
やれやれ、どうしてすぐに時が止まるのか。
よくわからない。
また数分後。
「え?私に告白...ですの?」
「まぁね。というか、初恋の相手だからね」
「...そうですの...」
カルアは我関せずの姿勢をしていた。
「期限は一ヶ月後。それまでにアーシャが告白して来なかったら、僕はエルナに告白する」
「告白する相手に堂々と告白などといってもよろしいので?」
「これが僕のスタンスさ。僕が告白すると決めたら、その相手には一切の隠し事をしたくないんだ」
「あら、そうなのね。馬鹿ルアも見習ってみたら?どうせ、昨日も今までも、裏で隠れてコソコソしてたんでしょう?」
「だから俺は馬鹿ルアじゃねぇ、カルアだ」
改めてカルアはいう。
「だが...裏で隠れてコソコソするなんてのは俺にできると思っているのか?」
「...そうですわね。あなたみたいなヘタレにできるはずがございませんもの。お詫び申し上げますわ」
「おいゴルァいま行ったこともう一度言って身やがれやゴルァ、え?」
「何も聞こえませんわね。それではいきましょうか、王子様」
「僕でいいのかい?カルアの方が護衛に向いているんじゃないの?」
「いやいやオスカー王子殿が聖女エルナ様の護衛につくとあれば、私は必要ないでしょう。それでは私はこれで失礼しますね」
そういうとカルアはどこかに行ってしまった。
「オスカー、彼、隠せていると思います?」
「いや、隠せていないと思うよ。流石に僕ら幼馴染に秘密を隠し通せるとは思わない方がいい」
カルアは巧妙に自分の実力を隠していると思っているが、オスカーとエルナにはバレていた。
アーシャにはバレていないが、オスカーとエルナにはバレている。そんなことにすら気づかないカルアである。
「やはりカルアは思った以上のバカですわね。まさに馬鹿ルアという名前のために存在しているとも言ってもいいですわね」
「あまり言ってやらないでよ。可哀想...ブフッーーだろ?」
「殿方も吹いているではありませんか」
「殿方という言い方はいけないなぁ...好きになってしまう」
「あら?もう好きじゃありませんでしたの?」
「さらに好きになってしまうという意味さ」
「そうですの。そういうことにしておきましょう」
そんな話をしながらその場をさるオスカーとエルナ。
数分後。
オスカーとエルナがその場から去り、完全に見えなくなった後に、その場から出てくる影が2人。
「やはりか。あの恋愛勝負、アーシャに勝ち目はあるのか?」
「いえ、分かりません。ですが、あのような光景を守るためにも、私たちは仕事をしないといけません」
「そうだな。行くぞ、アイリス。腐敗した貴族どもはしっかりと欺けているな?」
「はい。一ヶ月後、オスカーの誕生日パーティーに招待します」
「よろしい。そこでそいつらは処分する。いいな?」
「わかっております。お兄様」
アイリスがお兄様と呼ぶのは、ただ1人。
「では行くぞアイリス。弟たちを、王国を守るために戦うぞ」
「ついていきます、お兄様」
エルリア王国第一王子。
アルス・フレイ・エルリア。その人だった。
後1話でこの外伝みたいな本編は終わりです。もう少しだけお付き合いください。




