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永久の命

 このマーシャル王国では、とびっきり嬉しい発表がありました。

 それはアカツキとミズイロの婚約です。


 2人の関係は薄々みんな察していましたけれども、やはりこうしておおやけになるのとは違います。

 どうやらアカツキはアンジェリカから兵の貸し出しの打診を受けた時に、娘やレイがいるところで婚約を発表しようとしたようです。


「アンジェリカ。私は新しい妻を迎えようと思う。ミズイロだ。アンジェも賛成してくれるかい?」


 そう少し心配そうにアカツキが尋ねると。途端にアンジェリカは素晴らしい笑顔を見せました。


「いやぁ。ヘタレな父君だから、ちゃんとプロポーズできるか心配していたんだ。良かったなぁ。きっと母君も喜んでるぞ。母君を失くしてからは、ひたすら母君のことばかり考えていたからなぁ。辛気臭くて堪らなかったよ」


 そしてミズイロに向き直ると、深々と頭を下げました。


「ミズイロ。いや、母上。父のことをよろしく頼む。すこしヘタレなところはあるが、いい男なんだ」


 ミズイロはアンジェに頭を下げられて、とても恐縮していました。


「いえ、いえ。そんな。こちらこそ、お父さまとの結婚を許して頂いてありがとうございます。不束者ですがよろしくお願いします」


「おいおい、どっちが親だかわからねぇな」

 アカツキがぼやいたので、みんなが爆笑しました。



 婚約式は例の聖堂で、明日行われることになりました。

 この国には、ミズイロがいますから、私はお役御免の筈だったのですが、ミズイロでも回復できなかった人がいるということなので、婚約式の終了後に、聖殿でフルートを奏でることにします。


 ミズイロは髪の毛と瞳が水色なので、すこしクールビューティーなイメージです。

 ただしそれは黙っていればの話で、口を開くとそのイメージはガラガラと崩壊してしまうのです。


 どちらかといえば4人姉妹の末っ子タイプ、とでも言えばよいのでしょうか。

 甘えん坊のちゃっかりやさん、といった性格です。


 婚約式の衣装はワンショルダーの白いドレスに肩から長いマントを引きずるようなデザインでした。

 これはアカツキが赤い軍服のような衣装に、真っ白な長いマントを引きずっていたので、それに合わせたのでしょう。


 パイプオルガンはレイが演奏し私が歌を唄ったので、やはりマーシャルの鐘はカランカランと街中に響き渡りました。


 この鐘の音色でも、まだ病が治らない人がいれば聖堂に来るようにとの告知が出されていましたので、私はリンダと護衛のケイたちと一緒に聖堂に残りました。


 外ではアカツキとミズイロの婚約を祝福するパレードが行われていて、歓声がここまで聞こえてきます。

 この祝福さえ終われば、この後のパーティでは、お寿司や天ぷらなどが出ることになっているので楽しみにしていました。



 あれ?っと思った時には既にリンダの姿が消え、ミカが警報をはなつころには、既にたぶん暗殺者であろう人物が遺体となって転がっていました。


 バタバタとケイたちが駆けつけてきます。


「すげぇ。やっぱり暗殺者というのは、武道とか強さとかとは別次元の話だな。面と向かえば負ける訳はねぇのに、こうやって音もなく忍びよられると、ひとたまりもねぇ」


 ケイがぞっとしたように呟きました。

 全くです。カナリヤの警報が捕えた時にはすでにリンダは姿を消したあとでしたもの。


 しかしその時リンダがぼそりと発言しました。


「音はした」


 ノブたちはきょとんとしていますが、リンダはきっとこう言いたいのでしょう。

 音はしたので、この暗殺者はリンダからすれば一流の暗殺者とは言えないと。


 私がそれを説明すると、ケイはヒューと口笛を吹き、ノブはまいったなぁと頭をかきました。


「それにしても、確かに俺たちだけでは本気でレティを殺そうとする奴らにはかなわない。無音のアサシンが味方で良かったぜ」


 ケイがしみじみと言いましたし、確かに毒を塗ったナイフで、わずかに傷をつけるだけで私の命は消えるでしょう。


「怖くないのですか?」


 ミカが少し怒った口調でそう問いかけてきました。


 自分が殺されそうになったと言うのに、顔色ひとつ変えていなかったからでしょう。


「うーーん。この感覚ってきっと説明しずらいのだけれど、カナリアという霊獣は、とても死と近しいところにいる霊獣なのよ。どちらかと言えば闇色が似合う位にね。どうして金色なのか不思議だと思えるわ。死はいつも身近にあるので、怖いという感覚ではないの」


「それじゃぁ、いったいどんな感覚だというのですか?」


「安息かな。やっとこれで重荷から解放されるのだというイメージが、私にとっての死なのよ。私の死が戦争の幕開けになるというのでもなければ、それほど騒ぐ問題でもないの」


「そいつぁ。重症だなぁ。ノリスの旦那もかわいそうに」

 ノブはしみじみとそう言った。


 ノブほど命の輝きや喜びを発散させている霊獣はいないから、確かにノブからみたらナナは困った人なのかも知れなかった。


 その時リンダが、また口を開く。

 無口なリンダにしては珍しい事だ。


「同じ」


 なるほど、リンダの死生観はナナと似ていると言いたいのだろう。

 無口で物静かなリンダと天然のナナとの間に、奇妙な連帯感が結ばれた瞬間であった。


 聖堂にやってきたのは、ごく僅かの人でしたけれども、私はいつもにも増して丁寧にフルートを奏でました。

 なんだか命を慈しみたい気分だったのです。


「うわぁ、これって宴会よね」

 私は思わず歓声をあげてしまいました。

 だってまるで日本の宴会みたいな風景が出現しているのですから。


 ずらりと並べられたテーブルには、懐かしい日本食がこれでもかと並べられています。

 大根サラダの隣がおはぎだったり、煮魚のとなりにところてんがあったりと、いろいろ不思議なところもありますが、それでも久しぶりの日本食に、地球からの転移組のテンションは上がりっぱなしです。


 しかもお酒だけは多種多様に用意されていますから、あしたはきっと全員が二日酔いになります。

 なんて巨大な宴会場を作り上げたんだろう。


 

 私がしみじみと感心していると、レイがやってきました。


「ナナ、ちょっといいかい」


 きっと先ほどの暗殺者のことでしょう。

 私が立ち上がると、ごく自然にリンダも付き添います。


 レイはリンダが一緒でも何もいいませんでした。



「ナナ。ナナにとってここの暮らしは辛いのかな」


 レイはどうやら私が死を恐れないと言ったことを、気にしているようです。


「大丈夫よレイ。レイたちは結局この冷戦を冷戦のまま終わらせるでしょうね。ホットな戦いにはならないわ。プレスペル皇国だって2年もすれば、国も落ち着くし私はノリスと結婚する。私たちにも、レイやセンにも子供が出来て、きっとその子供たちも沢山の冒険をするでしょう」


「そうだな、ナナ。そして我々はこの天球に千年の平和をもたらしたと記録されるだろう。やがていつしか霊獣は生まれなくなり、科学が発展し霊獣は魔法使いや妖精と同じようにおとぎ話になるのだろうな」


「ええ、そうしていつかはこの天球にも寿命がやってきます。星にも死は訪れるのですから」


「そうだな。その時子孫たちは、あの星空に希望をつなぐのだろうか? 宇宙船で宇宙に飛び出していく?」


「もしかしたら、誰かが次元の割れ目を見つけるかもしれない。かって地球がこの星を犠牲にして延命を図ったように、この星がどこかの世界を犠牲にするのかも」


「面白いなぁ。ナナ。なんと壮大な話だろう。我々の千年の寿命なんて瞬きする間もありはしないじゃないか」


「それを言うならレイ。人間はその十分の一しか生きないのですよ。それでも懸命に生きていくのです。つまりはそういう事なのでしょう」


「なるほど。それがナナの見ている世界という訳か」


 レイは納得してくれたようです。

 私が決して死を見据えて、生きているわけではないということを。

 私が見つめていたのは、永久に巡る命の営みでした。


 そうして未来はおおよそナナの予想通りとなりました。

 ゴルトレス帝国とプレスペル皇国、そしてウィンディア王国は、やはり均衡を保つことになりましたし。ナナはノリスと結婚しました。


 地球からの転移者にも、子供たちが生まれましたし、アースパーティの冒険譚は多くの子供たちに愛され、霊獣の子供も例外ではありません。


 こどもたちの冒険はやがて砂漠の英雄の物語へと続き、さらなる事件と冒険が巻き起こります。

 アイオロス王は、とっとと国を我が子に押し付けて、冒険物語に一役かうことになるのですが、またそれは別のお話。


 ナナとレイとセンの物語は、ひとまずここでおしまいです。

 続きはまたの機会にいたしましょう。

 それではまた。

 いつかお会いする日まで。

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