■第20話 溜息
■第20話 溜息
サクラはリンコに促されるまま、駅前のコーヒー屋に来ていた。
チェーン店のそこは、社会人やらお洒落なOLが多い気がして
高校生が制服姿で入店するには、なんとなく躊躇いがあった。
リンコが慣れた感じで、フレーバーやら低脂肪乳やらセレクトしている。
サクラは数える程しかこの店には来た事がなかったので、適当に
期間限定のオススメを注文した。
窓側の席でふたり向き合って座った。
リンコは窓の外を眺め、コーヒーカップには口もつけず黙っている。
サクラはそんなリンコの様子を、ストローでズズズとドリンクを飲みながら
ぼんやり見ていた。
『ねぇ、今日ってさ・・・』
サクラがあまりに長い沈黙の時間に耐えられなくなり、口を開いた時。
『サクラ・・・私に嘘ついてること無いって言ったよね?』
急に深刻な顔を向けるリンコ。
『ぇ?』 驚くサクラへ、リンコは止まらない。
『隠してること無いって。言ったよね?』
身を乗り出して、憮然とした表情。
『ちょ、待って・・・なんの事ゆってんの・・・?』
訳が分からず目を白黒させているサクラへ、リンコは低く呟いた。
『サクラの家、訪ねてったの・・・。そしたら。』
意味が分かったサクラが、思わず目を落とす。
『先生が、サクラん家に入って行った・・・
チャイムも鳴らさずにガバってドア開けて・・・
サクラが、倒れた時も。
凄い勢いで抱き上げて・・・
あの時 ”サクラ”って呼び捨てにしてたの、私、聞いた。』
その怒っているような悲しんでいるような表情に、ひとつの推測が
頭をかすめた。
(リンコ・・・もしかして・・・?)
『隠す、とか。そーゆうつもりじゃなかったの。』
俯いて困惑顔を向け、呟く。
『ただ。あんまりヒトに言っちゃうと、ほら。
なんか、なんつーか。めんどくさい事になるってゆうか・・・』
『めんどくさい・・・?』
リンコが嘲笑するように繰り返す。
『・・・そんなに、私って信用な・・
『ぁ、ちが。”めんどくさい”はちょっと違う。
えーぇと・・・多方面に迷惑?とか、そうゆう・・・』
リンコの言葉を遮り、困り果てて俯き、指先でストローの袋を
いじっているサクラ。
何か言おうとして言葉を選び、結局言えずに口ごもっている。
『サクラの中途半端な態度、よくないと思う。』
そう言うと、リンコはカバンを掴み、走って店を出て行ってしまった。
その走り去る後ろ姿をただ黙って見ていた。
そして、それが見えなくなると、うな垂れ大きな大きな溜息をついた、サクラ。
『あたしが悪いのかー・・・?』
ハアァァ・・・
『どーしろってんだよ・・・。』
不機嫌そうに、もうひとつ大きく溜息を落とした。




