第十五条
「ねえ太子、やっぱり僕、太子と一緒に仕事場に行きたい」
何を思ったんだろうか。
妹子様は突然そんなことを仰り、私に潤んだ瞳を向けて来た。
やはり新しく男を作ったと言うことなのだろうか。
私と一緒に仕事をしている人だったら、どうして私がいない間に妹子様に会うことが出来ようか。それでは、休みが多かったりと私と仕事の時間が全然違う人を、疑うしかないんだろう。
家に連れ込むだけでは飽き足らず、仕事場へ行き私の目の前で愛を囁くつもりなんだろうか。
そんなのはさすがに耐えられない。
大好きな妹子様が他の男の元へと言ってしまうなんて、そんなの耐えられる筈がない。
「ねえ太子、どうして僕は家でお留守番なのですか? いつでも太子と一緒にいたいのに、どうしてお部屋で待っていなくてはいけないのですか? 折角倭に帰って来れたのに、折角一緒に住めるようになったのに。どうして昼間は離れ離れなのですか?」
胡坐を掻いた私の隣に、妹子様はきちんと正座をする。
そして私の方を向くと、綺麗で無邪気な瞳を潤ませて、悲しそうな表情で訴え掛けて来た。
以前ならば妹子様の訴えを聞けば、すぐにそれを叶えようと努力していただろう。
それなのになぜか、今の私は。
仕事場でも太子と一緒にいたくて僕はそう言ったのに、太子からは答えが返ってこなかった。
どうしてなの? やっぱりもう僕のこと、嫌いになっちゃったの? ねえ太子、何か答えてよ。
僕は太子のことが大好きなの。ずっと一緒にいたいだけなのに、どうして太子はそうしてくれないの? せめて、その理由だけでも教えてよ。
仲良いと思われるの恥ずかしければ、話し掛けたりもしないから。
だからお願い、一緒にいてよ。
「ならば妹子様は、どうして仕事へ行きたいのですか? 私以外に妹子様の可愛らしい姿を見せたくないし、妹子様に私以外の人を見て欲しくないのです。妹子様が倭に帰って来てくれたから、もう二度と放したくないのです。妹子様は私だけのものでいて下さい! だって、不安になっちゃうから」
僕はまっすぐ太子の方を向いているけれど、太子は全く僕の方を見てくれない。
それどころか、俯きながら、僕の反対側を見ている。一つも僕のことを見てくれない、少しも僕の目を見てくれない。
僕のことを見てくれない。太子のことを見せてくれない。
そう思うと悲しくなってきて、寂しくなってきて、いつの間にか僕は泣いてしまっていた。
本当は慰めて欲しいくせに僕は俯いてしまう。




