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心の距離  作者: 桜井雛乃
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第八条

「あるみたいですよ? 私と妹子様が本当は禁断の関係なのではないか、そんな噂も」

 そんな訳がない。そう笑ってくれているからいいけれど、いつかその噂が本格的に広がりはしないか不安だ。

 妹子様は清純と、いつまでも清らかと伝えられている。

 その素晴らしい妹子様を、私が汚してしまったとばれれば私はどうなるのだろう。それに、私のせいで妹子様の清純のイメージが壊れてしまえば。

 別に私としては、妹子様と付き合っていることを恥じたりしていない。本当は堂々と公表したいし、自慢して回りたいくらいだ。

 それでも、妹子様に迷惑を掛けてしまうから……。それは絶対に嫌だから。

「不安に思う必要はありません。恐らくその種族の方々は、男性がじゃれている姿を見れば、誰もをそう思い妄想を広げるのですよ。まさか、本当に踏み込んだ関係だとは思っておりません」

 私の不安を掻き消すような笑顔を浮かべ、妹子様はそう言って下さった。更に不安をなくしてくれるように、優しく抱き締めて背中を摩ってくれる。

 妹子様の腕の中は、幸せでいっぱいだった。

 もう三十七が近いおっさんが、子供のようにあやされているなんてな。普通に聞いたら笑いものだ。

「本当ですか? それでは、私と妹子様がそう言う関係であると宣言しても大丈夫でしょうか? 大丈夫ですよね」

 太子が突然立ち上がるので、僕は抱き締めていた手を机にぶつけてしまう。

 そこまで痛くもないのだが、太子が心配そうにして慌てて謝るので、それが面白くて痛がってみたりする。こういう可愛い子は、からかい甲斐があっていい。

 思う存分からかうと、先程の言葉の意味を問うことにする。

「なぜそうなった」

 あまりに訳がわからなかったので、遂に僕は敬語を使うことすら忘れてしまっていた。

 噂を認めるようなことをわざわざして、何がしたいと言うのだろうか。僕はどうせ妄想だから大丈夫と言っただけで、その妄想を認めろと言っていない。

 宣言したらただの変態だ。

 いや、宣言しなくても変態には違いないんだけどさ。

「だったら、私が実は女性であったと言えば大丈夫ですか? ね、妹子様」

 楽しそうに言うけれど、太子の思考回路が謎で仕方がない。どうしてそうなったのか、本当に謎である。

 公式に僕と太子が付き合っているとして、皆に恋人として扱って欲しい。僕にだって、そんな思いはある。

 それでも、この国では偏見が。

 隋へ行って知った。もっと西の国では、同性との恋路を誰も拒みはしないと。

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