表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~  作者: 鳥助
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/98

9.痛み止めの改良(1)

「さて、どんな風に改良するべきか……」


 部屋を出たあと、私は廊下の壁にもたれかかり、ゆっくりと息を吐いた。胸の奥に残る、さっきまでの温かさと同時に、刺さるような悔しさ。


 でも、泣いている暇はない。


「問題点は、はっきりしてる」


 私は指を一本立てて、頭の中で整理を始める。


「第一に、保存ができないこと」


 生の薬草をすり潰しただけ。水分も多く、時間が経てば腐敗する。成分だって変質する。これは、知識としても、実感としても明らかだった。


「つまり、形を変えないといけない」


 乾燥、粉末化、もしくは別の媒体に移す。前世の現代の知識とゲームで培った知識が合わさって、次々と案が浮かび上がる。


「でも、乾燥させたら……成分、落ちるよね」


 乾燥によって失われる揮発性の成分。特に、痛みを抑える即効性の部分は、生の状態だからこそ強く働いていた。


 私は、二本目の指を立てる。


「第二の問題。効果を保ったまま、保存する方法がない」


 ただ保存できればいいわけじゃない。効く状態でなければ、意味がない。


「じゃあ、成分だけを他に移す?」


 頭の中で、錬金術の魔法の欄が思い浮かぶ。


「……ううん、そんな魔法はなかった」


 成分を他の物質に移すことも考えたが、そういう便利な魔法はなかった。


「だけど、錬金術で苦味は消せた」


 それは事実だ。【成分消去】で、不要な要素だけを取り除いた。


「……だったら消すだけじゃなくて、守る方向に応用できない?」


 今まで私は、いらない成分を削ぎ落とすことばかり考えていた。でも逆に必要な成分だけを、外界から切り離すことはできないだろうか。


「劣化の原因は、空気と水分と時間。それらと接触しない状態を作れれば……」


 思考が、一気につながる。


「表面を覆う薄い膜を作って、成分を閉じ込める」


 粉にする必要はない。液体にする必要もない。ただ、閉じ込めればいい。


「すり潰した状態のまま、保存できればいい」


 生の効果があって、保存が出来る。この方法が一番ベストだと思う。


 私は、三本目の指を立てた。


「第三の課題。携帯性と使用の簡単さ」


 痛い時に、すぐ使えないと意味がない。先ほどの形だと緊急時には向かない。私がイザベルお母様に付きっきりになれば問題は解決出来るが、現実出来ではない。


 やはり、ここは現代の薬の形が良いと思う


「……一口サイズ。錬金術で量を整えて、包んで……」


 そこまで考えて、私ははっとした。


「……これ、いける。ロキニン草の生効力を保ったまま、劣化を防ぐ。苦味は消去済み。使う時は、そのまま口に入れるだけ」


 失敗じゃない。方向性は、間違っていない。


「保存膜の作成、試してみよう」


 やるべきことは決まった。あとは、それにふさわしい素材を見つけるだけだ。


 ◇


「んー……これは素材じゃないな」


 手に取っていた葉をそっと指から離し、私は立ち上がった。あれからずっと森を歩き回り、保存膜になりそうなものを探しているけれど、そう都合よく見つかるはずもない。


「やっぱり、何かヒントがないと難しいか……」


 薬草でも、鉱石でもない。でも、成分を守れる何か。


 そんなことを考えながら、あてもなく森の中を進んでいると、不意に人の声が耳に届いた。


 それも、切迫した声じゃない。笑い声が混じった、やけに楽しそうな声。


「……この声、もしかして」


 好奇心を刺激され、私は音のする方へと駆け出した。


 木々の合間を抜けた先。そこには、森の中の小さな空き地で、村の子供たちが木の棒を手に、スライムと戦っている光景があった。


「よっしゃ! 倒したぞー!」

「こっちも大丈夫!」

「安全確認、よし!」


 掛け声も動きも、やけに様になっている。子供たちは役割分担までして、ぴょんぴょん跳ねるスライムの集団を、次々と叩き潰していった。


 その元気な様子を見て、私は前に出ていった。


「わー、今日もやってるねー」


 私が声をかけると、子供たちは一斉にこちらを振り向いた。


「ん? あ、ルイだ!」

「おっ、ルイ、やっほー!」

「ルイもスライムとホーンラビット狩りする?」


 次の瞬間、わっと駆け寄ってくる足音。木の棒を抱えたまま、泥だらけの子もいれば、妙に誇らしげな顔をしている子もいる。


 私は思わず笑ってしまった。


「うーん、今日は用事があるからいいかな」

「えー!」

「ルイ強いのに!」

「前に一人でスライム十匹まとめて倒してたじゃん!」


 そんなこともあったなぁ、と思い出す。私が姿を見せると、子供たちは自然と輪になって集まってきた。


 一応、私は領主の娘。それなりに立場もあるし、大人たちの前ではお嬢様として扱われることも多い。


 でも、ここでは違う。みんな、長年の友達のように親し気に話してくれる。


「ねえねえ、見てよ! 今日の作戦すごいんだぞ!」

「俺が前に出て、こいつが横から叩くんだ!」

「んで、私が周りを確認する」

「へぇ、ちゃんと役割分担してるんだ」

「だろー? この前、ルイが言ってたやつ!」

「言ってた……?」

「囲まれる前に倒せって!」

「あと、油断すると跳ねてくるから気をつけろって!」


 あぁ……言ったかもしれない。何気なく教えたつもりだったけれど、ちゃんと覚えて実践しているらしい。


「えらいえらい。ちゃんと成長してるね」

「へへー!」

「褒められた!」

「やったー!」


 頭を撫でると、子供たちはくすぐったそうに笑った。その無邪気な笑顔を見て、胸の奥が少し温かくなる。


「でも、疲れちゃったー。甘いもの食べに行こ」

「いいね! 森の飴でも食べに行くか!」

「ルイも一緒に行こう?」

「じゃあ、一緒に行こうかな」

「やったー!」


 子供たちは嬉しそうに声を上げ、私の手を引いて森の奥へと歩き出す。枝をかき分け、踏み慣れた獣道を進んでいくと、やがて一本の大きな木の前で立ち止まった。


 幹には、無数の古い傷跡。ここがそれだと、ひと目で分かる。


「よっしゃ、穴開けるぞー!」


 一人の子供が手慣れた様子でナイフを取り出し、幹にぐっと突き立てた。鈍い音とともに刃が食い込み、ナイフを引き抜いた瞬間――。


 とろり。


 淡い琥珀色の蜜が、ゆっくりと穴から溢れ出した。


 蜜は幹を伝って流れ落ちるが、数拍も経たないうちに、ぴたりと動きを止める。空気に触れた部分から、まるで飴のように固まっていった。


「じゃあ、もらいっと!」

「俺も俺も!」

「わーい!」


 子供たちは競い合うように、固まった蜜を指で剥がし、そのまま口に放り込む。


「んー、あまーい!」

「森に来たら、やっぱりこれだよなー」

「これが目当てで来てるかもしれない」


 貴重な甘味に、みんな満面の笑みだ。


 私も一欠片を手に取り、口に入れる。軽く歯に当たったあと、すぐにとろりと溶け出す。


「……美味しい」


 小さく呟いた瞬間、舌の上で弾けるように甘さが広がった。

 

 ほんの数拍前まで、確かに飴だったものが、今はもう何の抵抗もなく喉へと流れていった。


 空気に触れると固まって、水分を含むと溶ける。頭の中で、その性質を言葉としてなぞる。


 私は無意識のうちに、指先に残った蜜を親指と人差し指でそっと擦り合わせていた。表面は、かちりとした感触がある。だが力を入れると、内側はしっとりと粘りを持ち、簡単に形を変える。


 乾燥すれば、形を保つ。湿れば、崩れる。そして体内に入れば、抵抗なく溶ける。


「……あ」


 思わず、息と一緒に声が漏れた。


 胸の奥で、ばらばらだった考えが、一気に一本の線に繋がっていく。今まで、何度も悩んできた問題。効果はあるのに、保存できないという致命的な欠点。


 でも、もし。この蜜で、薬草を包んだら?


 空気を遮断し、乾燥と劣化を防ぐ。持ち運びができ、必要な時まで形を保つ。そして、口に入れれば――体内の水分で自然に溶け、薬草だけを解放する。


 私は、ゆっくりと視線を上げた。


 傷だらけの幹から、静かに溢れ、固まり、また次の蜜を生み出す琥珀色の滴。それはまるで、森そのものが用意してくれた答えのように見えた。


 人工じゃない。無理もない。自然の理に沿った、完璧な保護膜。


「……これ、使えるかもしれない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載!

スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~

旧作

転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

追放を計画的に利用して自由を掴んだ王女、叡智と領地改革で無双する

転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした

スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜

ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる

元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~

異世界喫茶で再出発ライフ

ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する

推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする

過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった


この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

コミュ障クラフターの私、引き継いだ能力が異世界では規格外すぎて無自覚に無双してしまう件~地味に暮らしたいだけなのに、なぜか注目されて怖いんですが~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ