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この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~  作者: 鳥助
第二章

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60.薬師協会専属の冒険者の実力(1)

 王都を出て二日。街道を抜け、いくかの小さな村と丘陵を越え、夜は野営をしながら進んだ先。ようやくその姿が見えてきたのは、空を覆い尽くすかのように広がる濃緑の壁――クレクスの大森林だった。


 遠目に見ただけでも、その森がただの森ではないことは分かる。幾重にも重なった木々の梢は絡み合い、太陽の光を拒むかのように分厚い天蓋を作り、森の内部は昼間であっても薄暗いという話は聞いていたけれど、実際に目の当たりにすると、その圧倒的な存在感に思わず息を呑んでしまう。


「着いたぞ。ここがクレクスの大森林だ」


 アルビスさんは、懐かしむように目を細めながらそう言うと、森の入口近くにある太い樫の木に馬を繋ぎ、手際よく荷物を降ろしていく。その動きには一切の無駄がなく、何度も同じ準備を繰り返してきた者だけが持つ自然さがあった。


「馬はここで待機だ。森の中は足場も悪いし、魔物も多い。連れて行くより置いていった方が安全だ」

「分かった。戻ってくるまで、ちゃんと待っててね」


 私は馬の首を撫でてから、背負い袋の紐をぎゅっと締め直す。森の入口に立った瞬間、ひやりとした湿った空気が頬を撫で、土と苔と、どこか甘い草の匂いが混ざった独特の香りが肺の奥まで入り込んできた。


 いよいよだ。王都近郊の森とは明らかに違う、濃密で、重たくて、生き物の気配に満ちた空間に、胸の奥が高鳴る。


「行くぞ。足元に気をつけろ」


 アルビスさんはそう言うと、迷いなく森の中へと足を踏み入れた。私はその背中を追いながら、一歩、また一歩と大森林の中へ入っていく。


 数歩進んだだけで、外の光は急激に弱まり、木々の隙間から差し込む細い光の筋が、舞い上がる塵を照らして幻想的な景色を作り出していた。地面は柔らかい腐葉土に覆われ、ところどころに太い根が張り巡らされている。


 すると、前を歩きながらアルビスさんが口を開いた。


「ここにはな、薬師協会で使っている素材の半分以上が存在している」

「半分以上……!?」

「あぁ。王都で流通している薬の原料の多くは、この森から運ばれていると言ってもいい」


 歩きながらの説明だというのに、その声はよく通り、周囲の音に紛れない。しかも、彼は足場の悪い地面をものともせず、枝を軽く払い、根をひらりと避け、まるで見えない道がそこにあるかのようにすいすいと進んでいく。


「俺は長年、ここで素材採取の仕事をしてきた。薬師協会の専属になってからは、月の半分はこの森にいたな。だから、この大森林のことはよく知っている」


 そう言いながら、アルビスさんは右手側の茂みを指差す。


「そこの低木の下、見えるか? あれがセイフウ花だ。まだ時期が早いから蕾だが、あと二週間もすれば薄青い花を咲かせる」

「へぇ! アルビスさんって素材にも精通しているんだ!」


 言われてよく見れば、葉の影に隠れるように小さな蕾がいくつもついている。私は必死に目を凝らしてようやく気づいたのに、アルビスさんは歩きながら一瞬で見つけていた。


 すごい……。まるで森と会話しているみたい。


「素材はな、ただ生えている場所を知っているだけじゃ駄目だ。季節、湿度、日当たり、周囲の魔力の流れ……そういうものを覚えておくと、次に来たときにどこを探せばいいか分かる」


 彼はしゃがみ込み、地面の苔を指で軽くなぞる。


「この辺りは湿気が強い。だから苔がよく育つ。逆に、少し標高が上がって風通しが良い場所では、乾燥に強い薬草が多い。森は広いが、理屈を知れば怖くない」


 その言葉には、長年この場所で積み重ねてきた経験の重みが滲んでいた。


 そして再び立ち上がると、何の迷いもなく進路を変え、太い木の幹の間を縫うように歩いていく。本当に、自分の庭みたいだ。


 枝が顔に当たりそうになる前に払い、ぬかるみに足を取られそうになる前に避け、遠くでガサリと鳴った音に一瞬だけ視線を向けて状況を判断するその姿は、ただの冒険者ではなく、この森に認められた住人のようにすら見えた。


「まずはイイキカの葉を集める。風邪薬の基礎になる素材だ。これなら、群生地がある。行こう」

「うん、分かった!」


 私は気を引き締め直し、背中の荷物の重みを感じながら、その背中を追う。ここは、王都の外れとは比べ物にならないほど危険な場所。でも同時に、無数の可能性が眠る宝庫でもある。


 アルビスさんという頼もしい案内人と共に、この大森林から必要な素材を必ず持ち帰る。その決意を胸に、私は一層深く、緑の闇の中へと足を踏み入れていった。


 ◇


 ◇


「ここが群生地だ」


 そう言ってアルビスが足を止めた先は、背の高い木々に囲まれながらも、ぽっかりと陽光が差し込む小さな空間で、周囲よりもわずかに地面が盛り上がり、水はけが良さそうなその一帯に、低木が一面に広がっていた。


「わぁ! 本当だ!」


 思わず駆け寄る。


 そこには、濃い緑色の楕円形の葉を何枚も重ねるように茂らせた低木が群れを成し、葉の縁にはわずかに銀色の産毛のようなものが光を受けてきらきらと輝いていて、風が吹くたびにさらさらと擦れ合う音を立てていた。


 これ、絶対それだ。胸を高鳴らせながら、私はそっと一枚に手を伸ばす。


「鑑定」


 小さく呟くと、視界の端にウィンドウが開く。


【イイキカの葉】


 効能:熱を抑える効力がある


「間違いない! 本物のイイキカの葉だよ!」


 振り返ってそう言うと、アルビスは腕を組み、どこか誇らしげに顎を上げた。


「言っただろう。ここは確実に群生している場所だ」

「すごいよ、アルビス! こんな場所、私一人じゃ絶対見つけられなかった!」


 素直にそう言うと、アルビスは一瞬きょとんとしたあと、少しだけ視線を逸らしながら鼻を鳴らした。


「……まぁ、長年通っていれば覚える」


 けれど、その口元はわずかに緩んでいる。やっぱり、嬉しいんだ。


「よし、話している時間がもったいない。採取を始めるぞ。葉は傷をつけないように、根元から丁寧に摘め。若すぎるものは残せ。次に来たときのためだ」

「うん!」


 二人並んでしゃがみ込み、低木に手を伸ばす。


 葉は思ったよりもしっかりとしていて、引きちぎるのではなく、茎の付け根を指で軽くひねると、ぷつりと小さな音を立てて綺麗に外れた。傷をつけないよう、重ねないよう、籠の中に丁寧に並べていく。


 森の中は静かで、遠くで鳥の鳴き声が響き、風が葉を揺らす音がさざ波のように広がる。無心で摘み続けていると、あっという間に手持ちの籠がいっぱいになった。


「もうこんなに……」

「いい群生地だからな。だが欲張るなよ。取り過ぎは禁物だ」

「分かってる」


 私は籠を抱えたまま、小さく息を吸い込む。そして、意識を集中させた。


【素材保管】瞬間、籠の中のイイキカの葉がふっと霧のように消える。


「……なっ!?」


 横で見ていたアルビスが、目を見開いた。


「今、何をした?」

「えっと……【素材保管】。錬金術の魔法の一部だよ。採取した素材を、劣化しない状態で保管できるの」

「……保管、だと?」


 アルビスは空になった籠と、私の顔を交互に見つめる。


「どこに消えた」

「専用の保管空間、みたいなところ。必要なときに取り出せるし、時間経過の影響もほとんど受けないの。新鮮なまま保存できるから、薬の効力も落ちにくいんだ」


 説明しながら、私はもう一度意識を向け、さっき収納したイイキカの葉を一枚だけ取り出してみせる。すると、手の中に先ほどと変わらない瑞々しい葉が現れる。


「……」


 アルビスはしばらく無言だった。やがて、低く息を吐く。


「錬金術の魔法は、調合だけだと思っていた」


「うん、そう思われがちだけど……素材の管理も、効力の抽出も、補助も、色々あるよ」

「……なるほどな」


 彼は顎に手を当て、真剣な目で私を見る。


「それはとんでもない力だ。素材採取の常識が変わる。腐敗を気にせず遠征できるし、品質も保てる。薬師協会が知れば、喉から手が出るほど欲しがるだろう」


 その言葉に、私は思わず背筋を伸ばす。


「だが」


 アルビスの声が低くなる。


「希少な魔法だ。便利であるほど、狙われる。金にも権力にもなる力だ。誰かに知られれば、利用しようとする者も出てくる」


 森の静けさが、急に重たく感じられた。


「……うん。分かってる」


 だから、今まで軽々しく人前では使わなかった。でも今回は、信用できると思ったから見せた。


「アルビスには隠すつもりなかった。でも、他の人には気をつける」

「それでいい」


 彼は短く頷く。


「力は武器だ。同時に弱点にもなる。扱いを間違えるな」

「うん」


 私は力強く頷き、再び低木へと向き直る。イイキカの葉はまだまだある。目的はこれだけじゃない。


「よし、どんどん集めよう!」

「あぁ。次の群生地もある。手早く終わらせるぞ」


 森の奥から、どこかで魔物の遠吠えのような声が微かに響いた。けれど、私たちは手を止めない。


 頼れる案内人と、私の錬金術。二人で力を合わせれば、この大森林だって怖くない。そう信じて、私たちは再び素材採取に精を出した。

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この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

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