49.これからの道
第一章完
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「凄いわ、ルイ! 錬金術が正式に認められたのね!」
「よく頑張ったな、ルイ。本当に偉いよ」
屋敷に戻って王都での出来事を報告すると、アマリアお姉様とファルスお兄様は、自分のことのように目を輝かせた。次の瞬間、二人は揃って私を抱き寄せ、代わる代わる頭を撫でてくる。
「ルイの錬金術は、本当に素晴らしい技術だもの。最初から、いつかこうなるって信じていたわ」
「他に前例のないやり方だから、正直なところ心配もしていた。でも……ちゃんと評価された。これは大きな一歩だ」
その言葉一つ一つが、胸の奥にじんわりと染み込んでいく。褒められるのは慣れていない。けれど、家族に認められるのは、こんなにも嬉しいものなのか。
「えへへ。そんな、大したことじゃ……」
そう言いながらも、口元は自然と緩んでしまう。撫でられるたびに、嬉しさがこそばゆくて、少しだけ身をよじった。
「ほら、見て。顔がにやけてるわよ?」
「素直に喜べばいい。ルイが努力して掴んだ成果なんだから」
「……うん」
小さく頷くと、胸の奥が温かくなる。家族に囲まれて、こうして褒めてもらえる。それだけで、また頑張ろうと思えた。
そのとき、かすかな衣擦れの音が聞こえた。
「……ルイ」
はっとして視線を向けると、寝台で休んでいたお母様が、ゆっくりと上体を起こしていた。まだ顔色は万全とは言えないけれど、その瞳はやわらかく、私をまっすぐに映している。
「イザベルお母様……? 無理しないで」
慌てて駆け寄ろうとすると、お母様は小さく首を振り、穏やかな声で私を呼んだ。
「いいの。少しだけこっちへ来て」
その声に導かれるように、私は寝台のそばまで歩み寄る。お母様はゆっくりと腕を伸ばし、私の手を取った。
「王都でのお話……聞いていたわ」
その一言で、胸がきゅっと締めつけられる。
「大変だったでしょう。でも、よく頑張ったわね、ルイ」
静かで、あたたかな声。責めるでもなく、急かすでもない。ただ、私の歩みをそのまま受け止めてくれる声だった。
「皆のために考えて、努力して……あなたらしい錬金術を、ちゃんと形にしたのね」
「イザベルお母様……」
次の瞬間、そっと引き寄せられ、私はお母様の胸に抱きしめられていた。細い腕なのに、不思議と安心する。昔から変わらない、やさしいぬくもり。
「誇りに思うわ。あなたは、私たちの大切な娘よ」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。喉の奥が詰まって、うまく言葉が出てこない。
「……うん」
ただ、それだけ答えて、お母様の服をぎゅっと握る。背中を撫でる手はゆっくりで、穏やかで、心まで包み込んでくれるようだった。
家族のぬくもりに囲まれて、私は静かに思う。この人たちのために、もっと強くなりたい。もっと、役に立てる存在になりたい、と。
「本当に、ルイはよくやった」
低く、けれど深く響く声に、私は顔を上げた。
いつの間にか、ロザンお父様が私たちのそばに立っていた。その表情は穏やかで、しかし瞳の奥には確かな感慨が宿っている。
「誰かに言われて動いたわけじゃない。自分で考え、迷い、選び取って……錬金術の道を切り開いた」
お父様はゆっくりと言葉を選ぶように、続ける。
「王都で認められたという結果以上に、私はその過程が嬉しい。困難から逃げず、自分の信じたやり方を貫いた。その姿は実に立派だった」
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。厳しくも優しい、いつも背中で示してくれるお父様の言葉だからこそ、重みがあった。
「……ロザンお父様」
「もう胸を張っていい」
そう言って、お父様は私の前に膝をつき、そっと手を伸ばす。大きな掌が、いつもより少しだけ優しく、私の頭に触れた。
「ルイ。お前は、もう一人前の錬金術師だ」
その一言で、胸に溜まっていたものが一気にあふれそうになる。
「……はい」
震えそうになる声を、必死に抑えて答える。すると、お父様は小さく笑った。
「その返事で十分だ」
頭を撫でる手が、最後にぽん、と軽く置かれる。その温もりが、胸の奥にしっかりと刻まれた。
家族の視線が、やさしく私を包む。私は思う、この人たちに恥じない錬金術師でありたい、と。
「……ルイはこれからどうするんだ?」
ロザンお父様の問いに、部屋の空気が静まった。皆の視線が、私に向けられる。
私は一度、胸に手を当てて、ゆっくりと息を吸った。この答えは、もう何度も心の中で繰り返してきたものだ。
「……第一の目標は家族の病気を治すこと」
一瞬の沈黙。けれど、私は目を逸らさず、続けた。
「まだ分からないことが多いし、今の知識だけじゃ足らない。だから……薬師協会で、もっと素材の知識を学びたい。病に効く成分、体にどう作用するのか、正しく理解したい」
それは、逃げでも夢物語でもない。今の自分に出来る、確かな道筋だった。
「第二に……今回、解毒剤を作って分かったの」
握っていた拳を、そっと開く。
「錬金術は、自分のためだけの技術じゃない。他人のために使える。誰かを助けられる力なんだって」
王都での出来事が、脳裏をよぎる。苦しむ人、救われた人、驚きと安堵の表情。
「だから……」
私は、はっきりと顔を上げた。
「人の役に立ってみたい。錬金術を広めて、必要としている人に届けたい」
胸の奥が熱くなる。けれど、言葉は迷わなかった。
「私にしか出来ない錬金術があるなら、それを形にしたい。誰かの未来を、少しでも良く出来るなら……そのために、私は錬金術師でありたい」
言い切った瞬間、心の中で何かが、静かに定まった。
「……それが、私の目標だよ」
しん、とした空気の中で、私は背筋を伸ばす。家族の前で口にしたこの決意は、もう後戻り出来ない。
すると――。
「ルイが誰かのことを思って力を使おうとするのは、とても尊いことよ。だから……必ず、やり遂げなさい」
イザベルお母様の声は、弱々しさを感じさせないほどまっすぐだった。その言葉に、ロザンお父様も深く頷き、穏やかな笑みを浮かべる。
「そんな想いを胸に抱いていたとはな……。ルイは、あの日からずっと成長し続けている」
誇らしげな眼差しが、私を包む。
「だったら、私はそんなルイを全力で支えるわ!」
アマリアお姉様は一歩前に出て、楽しそうに胸を張った。
「素材探しには、私の力が必要でしょう? 遠慮しないで、何でも言ってちょうだい」
「僕も力になりたい」
ファルスお兄様も、少し照れたようにしながら続ける。
「出来ることは限られているけれど……それでも、ルイのために出来ることがあるなら、何でもやるよ」
胸がいっぱいになる。この人たちがいてくれるから、私は立っていられる。この人たちがいるから、前を向ける。
「……みんな、ありがとう」
私は一人一人の顔を見渡し、深く息を吸った。
「私、これからも錬金術師として頑張る。迷っても、立ち止まっても……この道を、ちゃんと歩いていく」
言葉にすると、不思議と心が澄んでいく。決意は、もう揺がない。
家族の温もりに背中を押されながら、私は静かに思う。この手で未来を掴み取ろう。誰かのために。そして、この大切な居場所を守るために。




