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この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~  作者: 鳥助
第一章

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37.ポーションの作成(1)

「じゃあ、ポーション作りを始めようか」


 机の上に素材を並べ、私は深く息を吸った。調合は手順を間違えれば、効果が薄れるどころか失敗作になる。だからこそ、最初の工程が重要だ。


「まず作るのは、回復の核になる成分だね」


 選んだのは二つ。自然治癒能力を高める作用を持つ、マリンドの葉。そして、傷そのものの再生を助ける成分を含有する、トルッカの蜜。


 どちらも回復系だが、役割は微妙に違う。マリンドの葉は身体全体の回復力を底上げする素材。トルッカの蜜は損傷部位そのものに働きかける素材だ。


 この二つを別々に使えば、効果は限定的になる。けれど、【合成】によって性質を重ね合わせれば、話は変わる。


「全体の治癒力を高めた状態で、再生を促す……」


 つまり、回復しやすい土台を作った上で、傷の修復を一気に進める構造だ。通常の傷薬よりも、明らかに高い薬効が引き出せるはず。


 理屈は通っている。あとは、この考えが【合成】という形で正しく再現されるかどうか。


「まずは基礎。【成分抽出】からだね」


 マリンドの葉を手に取り、観察する。


「成分を抽出しやすいように葉を細切れにして、水に浸す。水でダメなら、お湯で。お湯がダメなら、葉を乾燥させる。この手順でやっていこう」


 ここまでは手慣れてきた感じだ。やっぱり、今までの錬金術の経験が私を強くしてくれる。


 まな板の上でマリンドの葉を【切断】する。細かく切ると、それを水の入った容器に入れて、混ぜ棒でかき混ぜる。そして、【成分抽出】を施す。


「さて、水は変化しているかな?」


【???の水】


・微量の自然治癒能力を高める作用を持つ


「あっ、出てきた! じゃあ、更に進めると?」


【???の水】


・少量の自然治癒能力を高める作用を持つ


「来た来た! 方法はこれで良いみたい!」


【マリンドの葉の水】


・自然治癒能力を高める作用を持つ


「よし! 成分抽出、完了!」


 これは良い調子だ。こんなに早く成分抽出が成功するなんて思ってもみなかった。


 出来上がった合成物を脇に避け、私は次の素材へと視線を移した。次の工程は、トルッカの蜜だ。


「問題は……蜜の【成分抽出】だよね」


 これまで扱ってきた素材は、ほとんどが固形だった。葉や枝、根といったものなら、水に浸してスキルを使えば問題なく抽出できた。


 けれど、トルッカの蜜は最初から液体に近い。この状態で、いつも通り水に入れて【成分抽出】を使ったらどうなるのか。


「……成分が薄まる? それとも、問題なく分離される?」


 蜜そのものが媒介になっている可能性もある。だとしたら、水を加えることで、かえって効率が落ちるかもしれない。


 かといって、全く別の方法をいきなり思いつけるわけでもない。理屈は大事だけど、錬金術は最終的に結果がすべてだ。


「考えてても、答えは出ないか」


 私は小さく息を吐き、気持ちを切り替える。


「とにかく、実験あるのみ!」


 失敗しても学びになる。そう自分に言い聞かせながら、トルッカの蜜へと意識を集中させた。


 いつも通りに容器に水を入れ、その中にトルッカの蜜を入れる。混ぜ棒を入れると、【成分抽出】を発動させた。


「これで、どうだろう……」


 不安になりながらも、鑑定をかけてみると――。


【失敗の水】


・正しく成分抽出が出来なかった水


・微量の傷そのものの再生を助ける成分を含有する


「あー、ダメだった! やっぱり、水に入れると成分が薄まるんだ!」


 なんとなく予想はしていたけれど、すぐに結果が出るなんて……。錬金術は非情だ。


 私は容器の中の水をじっと見つめた。失敗。けれど、完全な失敗じゃない。


「……微量、は出てるんだよね」


 鑑定結果をもう一度確認する。正しく成分抽出は出来ていないが、傷の再生を助ける成分は、確かに少しだけ存在している。


 ということは、方法そのものが間違っているわけじゃない。問題は、条件だ。


「やっぱり、水が多すぎるんだ」


 トルッカの蜜は、もともと液体に近い。しかも、蜜という性質上、成分が均一に溶け込んだ状態で安定している可能性が高い。


 そこに水を加えたせいで、成分の濃度が一気に下がった。【成分抽出】が分離しようとしても、対象が薄まりすぎて、うまく掴めなかったんだと思う。


「固形素材と同じ扱いをしたのが、失敗の原因だね」


 葉や枝なら、成分は素材の内部に閉じ込められている。だから、水という媒介を使って外に引き出す必要があった。


 でも、トルッカの蜜は違う。最初から成分が溶け込んだ状態で存在している。つまり――。


「水は媒介じゃなくて、邪魔だったんだ」


 なら、やるべきことは一つしかない。水を使わない。もしくは、最小限に抑える。だが、そこで気づいてしまった。


「ちょっと待って……。マリンドの葉の水とは【合成】出来ない?」


 マリンドの葉の水とトルッカの蜜を合わせると、トルッカの蜜の成分が薄まって効果が出ない可能性がある。じゃあ、マリンドの葉の【成分抽出】は失敗だった、ということになる。


「じゃあ……マリンドの葉の【成分抽出】から、やり直しか」


 私は顎に指を当てて考え込む。問題は分かっている。水だ。


「葉っぱを、水に浸さずに【成分抽出】する方法……」


 トルッカの蜜は、水で薄めると成分の密度が落ちる。二つの素材を掛け合わせたいのに、水という余計な媒介が入るせいで、狙った反応が起きにくくなっている。


 つまり必要なのは、水の代わりになる媒介。


「……素材同士を、直接かけ合わせる?」


 思考が、一本の線でつながった。


 トルッカの蜜は液体だ。それ自体が、十分に成分を受け取れる環境になっている。


 だったら、刻んだマリンドの葉をトルッカの蜜に直接混ぜる。


 その状態で、【成分抽出】を蜜ではなく、葉に対して発動させる。葉から引き出された成分は、水ではなく、周囲にあるトルッカの蜜へと溶け込むはずだ。


「そうすれば……」


 水で薄まらない。成分密度を保ったまま抽出できる。抽出と同時に、蜜へ成分を移行させられる。


 理屈としては、むしろ効率がいい。


「その後で【合成】をかければ、二つの成分を一気に重ねられる……」


 単なる代替案じゃない。これは、最初から水を使わない前提で組み立て直した手順だ。


「この方法なら、水を使わずに成分を合成できる!」


 胸の奥が、少し熱くなる。失敗は無駄じゃなかった。ちゃんと、次につながっている。


「立ち止まってる暇はないよね」


 私は材料を手に取り、作業台へと向き直る。


「やり方が見えたなら、あとは実験あるのみ!」


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