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この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~  作者: 鳥助
第一章

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35/99

35.ポーションを作る

「さて……どんな効果を組み合わせて、薬を作ろうかな」


 私は生活圏素材辞典を開き、ページをめくりながら思考を巡らせる。目的はただ一つ。この世界の治療の在り方を、もう一段階先へ進めること。


「この世界で一般的なのは、塗り薬による治療だよね」


 傷口を洗い、必要なら縫合し、その上から薬を塗る。薬効で炎症や痛みを抑えつつ、最終的には自然治癒力に委ねる。それが、この世界における標準的な治し方だ。


 理にかなっているし、間違ってはいない。けれど――。


「決定的に足りないのは、時間を短縮する発想だ」


 ふと、前世――ゲームの記憶が頭をよぎる。


 飲めば即座に傷が塞がり、体力が回復するポーション。この世界には、そういう飲んで治す治癒薬が存在しない。


 理由は分かる。生体の回復を内側から一気に促すのは、素材的にも、理論的にも難易度が高い。下手をすれば体に過剰な負荷をかけてしまう。


 でも――。


「もし、それが実現できたら?」


 治癒を待つ時間がなくなる。戦闘中でも、移動中でも、致命傷になる前に立て直せる。


「本来、治癒薬ってそうあるべきなんじゃないかな」


 傷を覆うだけじゃなく、体の内側から治す。自然治癒力を待つのではなく、意図的に引き上げ、加速させる。


 そのためには、単純な回復成分だけじゃ足りない。再生を促す成分など、それらをどう組み合わせてどう作用させるか。


「……うん、ただの塗り薬の延長じゃダメだね」


 私は辞典のページを指でなぞりながら、素材と効果の関係を頭の中で組み立てていく。


 これは、既存の治療法の改良じゃない。治癒薬という概念そのものを、作り直す試みだ。


「傷を治すための回復力。そして、飲んだ瞬間に作用する即効性。この二つを成立させられれば、飲んで治る回復ポーションは理論上、完成するはずだ」


 私はそう結論づけて、指先で辞典の縁を軽く叩いた。


 重要なのは、この二つの効果が同時に、かつ無理なく働くこと。どちらか一方だけでは意味がない。


 回復力だけが高くても、発現が遅ければ結局は自然治癒と大差がない。逆に即効性だけがあっても、回復量が乏しければ応急処置にしかならない。


「……つまり、必要なのは速さと質の両立だよね」


 即効性を担う素材。回復量を支える素材。


 その二つが、しっかりと柱になるように成分を組み立てなければならない。


「それに適した素材は……あっ。これなんてどうかな?」


 私は辞典の中の一項目に指を止めた。


【リンドリンドの樹液】


・舐めると、すぐに体がじんわりと温かくなる成分を含む。


「即効で反応が出る素材だね」


 理屈は分からなくても、効果が早いという事実は重要だ。舐めただけで体感できるほどなら、体内に取り込まれた瞬間から作用しているということになる。


「この即効性をポーションに付与できれば……」


 回復成分が体内に入ったその瞬間から、薬効を発現させられる。塗って待つ必要も、時間経過を前提にする必要もない。


「うん、方向性としては悪くない」


 ただし、即効性があるだけでは不十分だ。これはあくまで引き金であって、治癒そのものを担う役割ではない。


「だから、リンドリンドの樹液は主役じゃない」


 あくまで補助。回復成分を前に押し出すための加速装置。


「回復量を確保できる素材と、どう組み合わせるか……」


 私は再び辞典に目を落とし、次の素材候補を探し始めた。速さは、これで確保できる。あとはどれだけ治せるかだ。


「傷の回復、傷の回復……」


 私は辞典をめくりながら、思わず唸った。


 回復系素材は、思っていた以上に多い。止血、炎症抑制、痛みの緩和、組織修復。用途ごとに細かく分類されている。


 けれど。


「……どれも、似たようなことしか書いてないな」


 傷の回復を助ける。自然治癒力を促進する。


 そんな曖昧な表現ばかりで、肝心の回復量がどれほどなのかは分からない。


「回復量が低かったら、意味がないんだよね」


 今回作ろうとしているのは、即効性があって、なおかつ高い回復量を持つポーション。一般的な塗り薬の延長では、目的に届かない。


 辞典に並ぶ素材の多くは、市場でも普通に出回っているものばかりだ。それだけ安全で扱いやすいということでもあるけれど、裏を返せば――


「劇的な効果は、期待できないってことか」


 私は一度、視線を辞典から離して考え込んだ。素材そのものに限界があるなら、別の方向から回復量を引き上げる必要がある。


「もし……回復量そのものを高められたら?」


 その瞬間、ひとつの考えが浮かんだ。


「……そうだ。【合成】」


 今まで【合成】は、性質の違う成分を組み合わせて、新しい効果を生み出すために使ってきた。即効性と回復力、安定性と持続性。異なる役割を噛み合わせるためのもの。


 でも。


「同じ回復系の成分同士を、かけ合わせたらどうなるんだろう?」


 回復するものと、回復するもの。性質が似ているからこそ、互いを邪魔せず、むしろ強め合う可能性がある。


「相乗効果で、回復量そのものが底上げされる……?」


 もしそれが可能なら。一般的に出回っている素材しか使わなくても、性能だけは別物のポーションが作れる。


「うん……試してみる価値は、十分ある」


 私は静かに頷き、【合成】の構成を頭の中で組み立て始めた。既存の常識を壊すなら、まずは組み合わせ方から。


 私は辞典を読み込んでいき、傷を治してくれる効果のある素材を見繕っていった。

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