1.錬金術師がいない世界
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「ルイに啓示を伝える!」
神官の前で両膝を付き、胸元で手を組む。祈りのポーズを取ると、前にいる神官は錫杖を鳴らして祝詞を唱える。
すると、ステンドグラスから光が降り注ぐ。その光は私を照らし、神官との間に設置した水晶が光り輝いた。
なんか、ゲームのような光景。……ゲーム? なんで、ゲームっていう言葉を?
その時、私の頭の中にとある記憶が蘇ってきた。日本という国に生まれ、社会に出て働いてきた。仕事に追われる日々の癒しはゲームをする事。それも物作りゲームを中心にプレイしてきた。
えっ、待って。もしかして、私……異世界転生しちゃった? まさか、こんな時に記憶が戻るなんて! 今は将来に関わる大事な儀式の途中。急に目覚めても困るよ!
戸惑っていると、目の前に置かれた水晶の光が強くなり、その中に文字が浮かんできた。
「ルイの職業は……錬金術師?」
水晶に浮かんだ文字を不思議そうな顔をして神官が呟いた。
今日は十二歳に行われる、職業選定の儀式の日。この日に神様から啓示を受けて、その人に相応しい職業が与えられる。
この職業選定の儀式でその人の人生が決まると言っても過言ではない。どうしてもなりたい職業がある人は教会に通い詰めて祈りを捧げるほどだ。
その一生を決める職業が錬金術師。ふっふっふっ、これは勝った! 錬金術のゲームなら何十とやってきた、ハマりにハマったゲームだ!
錬金術師は色んな薬を作ったり、様々な機能が備わった装備を作ったり、便利な道具を作ったり出来る職業。物を作る過程はとても楽しくて、ゲームの中では夢中になった。
それが現実でも出来る? そんなの絶対に楽しいじゃないか! この世界にはどんな素材があって、どんなレシピがあるんだろうか? あー、早く錬金術を使いたい!
「錬金術師、か? それは初耳だが……一体どんな職業なんだ?」
ウキウキとしていると、お父様からそんな言葉が飛び出した。えっ、もしかして錬金術師って都会の職業? こんな田舎の領地には錬金術師がいないっていう事?
「男爵様も分かりませんか? 私も初めて聞きました。お待ちください、職業大辞典で調べてみます」
と、神官は言い、本棚から本を取ると中身を改めた。これは錬金術師が都会の職業だという可能性が出てきたね。だって、あんなに便利な物を作れるんだもの、きっと引っ張りだこに違いない!
すると、一緒に着いてきたアマリアお姉様が勢いよく私の両肩を掴んできた。
「ルイ、気をしっかり持って! きっと、調べれば分かる職業のはずよ!」
「凄い圧だよ! 落ち着いて!」
「大丈夫、大丈夫よ!」
「こらこら、アマリア。ルイが驚いているだろう? 落ち着いて」
興奮気味のアマリアお姉様を制するのは、ファルスお兄様。落ち着いた口調で窘めるが、アマリアお姉様は興奮したまま落ち着かない。
大丈夫! なんてったって、あの有名な錬金術師なんだから! 絶対にあるに決まっている。
るんるん気分で待っているが、いつまで経っても見つかったという声は聞こえない。それどころか、二人の顔が険しくなっていく。そして、ようやく口にした言葉は――
「この世に錬金術師という職業はありません。新しい職業が生まれたみたいです」
「新しい職業か……」
えっ、ちょっと待って。この世界に錬金術師という職業はないの!? 一体、どうして、なんで、ありえない! どんなゲームにもあった職業だよ!
錬金術師がいないってことは、この世界にはレシピがない? えっ、それって大丈夫なの!? 何をどう作ればいいか、全然分からないよ!
「そ、そんな……。ルイがこの世にない職業に就いてしまったっていうの? 一体、どうすれば……!」
「ア、アマリア……。気をしっかり持って。ルイも気をしっかり持つんだよ」
すると、アマリアお姉様が絶望したように床に膝と手をついて項垂れ、ファルスお兄様が励ました。いや、それ……私の立ち位置だから!
「ルイ、大丈夫?」
「うん、ファルスお兄様ありがとう。私は大丈夫だよ」
「そうだ。職業選定と同時に何か能力を貰えることがあるらしい。確認してみたらどうだ?」
ほう……それは良いことを聞いた。私はステータス画面を確認した。すると、錬金術と鑑定のスキルが生まれていた。
鑑定スキル、キターッ! これは錬金術を使う上では必須の能力じゃない!? これで錬金術を使う難易度がぐんと下がったような気がする。
難易度が下がったどころか、道が開けた。鑑定のスキルがあれば、レシピがなくても調合が出来るかもしれない。
というか、自分で自由に作れるから、制約がなくて逆にいい? 自分の思った通りに調合が出来る?
……いける。レシピがなくたって、調合が出来る!
「……今回の事は上の方にも報告させていただきます。もしかしたら、過去に例があるかもしれません」
「そうしてくれると、ありがたい。一生を決める職業が過去に例がない職業なのは大変だ。少しでも情報が欲しい」
「分かりました。では、今日の儀式はこれにて」
「世話になった」
儀式はそれで終了した。話しが終わったお父様が片腕で私の肩を掴んでその場で屈む。
「ルイの職業は錬金術師という新しい職業のようだ。どんな職業なのかは分からないが、これからは錬金術師として励みなさい」
「うん、早速励んでみる。何か効果のある物があれば、すぐに調合出来ると思うんだけどなー」
「錬金術師は調合をするものなのか? 効果のあるものなら家にあるぞ。それを使ってみるか?」
「えっ、あるの!? うん、すぐに使いたい!」
「私とファルスが使っている疲労を回復させるお茶だ。そんなものでいいか?」
「全然大丈夫だよ!」
なんだ、家に効果のある物があったじゃん! これを使えば、早速調合が出来るかもしれない!
やってやる、一からアイテムを作るんだ。この世界で、私にしか出来ないことがある。
私がはじまりの錬金術師だ!




