第115話 ミサトとの関係進展
# 第115話 ミサトとの関係進展
## 誘い
週末の魔法学園は、平日の喧騒がすっかり薄れ、どこか余裕のある空気が漂っていた。
セラは中庭のベンチに腰を下ろし、魔法理論の教科書を膝に広げていた。視線はページの文字を追っているようで、実際には何も入ってこない。
「……最近、忙しかったなぁ」
週末の冒険者稼ぎ、学園の授業、クラスメイトとの交流。充実はしているのだが、疲れも積み重なっている。消耗するだけの忙しさではない。それでも、体は正直だ。
「セラくん?」
聞き慣れた声がして、セラは顔を上げた。
そこには、ダークブラウンの短髪の女騎士・ミサトが立っていた。普段の鎧姿ではなく、落ち着いた色の私服。珍しい。
「ミサトさん?お珍しい」
「……あんた、今日、予定ない?」
ミサトが頬をわずかに染めながら、視線を逸らした。
「え?予定?特に……あ、明日の予習は済ませたけど」
「じゃあ、いい」
ミサトはセラの隣に座った。彼女の香水の香りが、春の風に乗って漂ってくる。
「セラくん、私と一緒に、王都に行かない?」
「えっ?」
自分の耳を疑った。
「王都、って……ミサトさんと?」
「そう。……二人で」
ミサトの声が小さくなる。普段の強気な女騎士とは違う、どこか恥ずかしそうな様子。
(「フン」と「あんた」の女騎士が、こんな小声で「二人で」と言っている。心臓がやばい。うるさい。非常にうるさい)
「ええ、もちろん行きたいけど……急に」
「急に、じゃないわよ」
ミサトは少し強調するように言った。
「ずっと、前から考えたことはあったの。最近、あんたと離れている時間が多いって」
確かに最近は、週末の冒険者稼ぎや学園の勉強で、ミサトと会う時間が減っていた。
「ごめん、ミサトさん。確かに最近忙しくて」
「別に謝ることないわよ。あんたも学業と冒険、両立してるんだから。それはそれで、あんたの素敵なところだし」
ミサトはそう言いながら、セラの腕にそっと手を置いた。
「ただ、私も。……あんたと、もっと一緒にいたいの」
彼女の瞳には、素直な好意が宿っていた。
「最近、考えることが増えたのよ。あんたのことばっかり。最初は嫌いだったのに、今じゃ、こうなっちゃって」
ミサトは自嘲気味に笑う。
(最初は嫌いだった、か。確かにあの頃は毎日喧嘩していた。苦手な相手が、時間をかけて大切な存在になっていく。そういうことが、この世界では起きる)
「ミサトさん……」
「で?行くの、行かないの?」
「もちろん行きます!ミサトさんと一緒なら、どこへでも」
セラの答えに、ミサトの顔がぱっと明るくなった。
「……よかった。じゃあ、準備して。すぐに出発するわ」
「今から?」
「今からよ。朝のうちに王都に着いて、一日楽しんで、夕方には帰ってくる。それで、いい?」
セラはミサトの手を握った。
「ええ、それでいい。むしろ、最高だ」
ミサトの手が、少し震えているのがわかった。
「……何見てんのよ」
「えっ、いや、なんでもないです。ミサトさんが可愛いって」
口を滑らせると、ミサトの顔がさっと赤くなった。
「っ!バカ!何言ってんの!」
ミサトはセラの腕を軽く叩いた。でも、その手つきは優しく、力はこもっていない。
「冗談、冗談。でも、本当だよ。ミサトさんは今、すごく可愛い」
「……もう、あんたには参るわよ」
ミサトはそう言いながらも、幸せそうな微笑みを浮かべていた。
「じゃあ、寮に戻って着替えてくる。ここで待ってて」
「はい、わかりました」
ミサトは立ち上がり、セラに背を向けて歩き出した。でも数歩進んでから、振り返って言った。
「……待っててよね」
「ええ、待ってます」
ミサトは満足そうに頷くと、中庭を出ていった。
セラは一人、ベンチに残された。
「……ミサトさんと、デートだ」
心臓が早鐘を打っている。
「二人で王都へ。……デートだ」
自分の胸に手を当てた。ドクドクと、鼓動が掌に伝わってくる。
鏡の前で着替えを確認した。銀髪のエルフの姿に、清潔感のある服。整えるたびに、なんとも落ち着かない気分になる。
中庭に戻ると、ミサトは既に待っていた。淡い黄色のワンピース姿。春の陽気に似合う、明るい色。
「……あんた、待たせすぎ」
「ごめん、少し時間がかかって」
「ん、まあいいわ。これから楽しむんだから」
ミサトはセラの腕を取った。
「行きましょう、セラくん」
二人は手を繋いで、学園の通用門へと向かった。
春の風が吹き抜け、二人の髪を揺らす。
「今日は一日、楽しもうね」
ミサトが幸せそうに言った。
「ええ、楽しみましょう」
## 街での時間
王都への街道は、春の光で輝いていた。
セラとミサトは手を繋いで歩いていた。街道の両脇には新緑の木々が並び、鳥たちがさえずっている。
「……久しぶりに、二人で歩くね」
ミサトがぽつりと呟く。
「ええ、そうだね。前回から、少し時間が経ったから」
「もっと、頻繁に会うべきだったな」
「いいや、ミサトさんも忙しいんだし。近衛騎士団の仕事、大変だろ?」
「うん。でも、あんたに会う時間は作るべきだったなって」
ミサトはセラの手を少し強く握った。
「これからは、もっと頻繁に会う約束、してよね」
「ええ、約束します」
「……あんたの手、温かいね」
「えっ?ああ、ミサトさんのも」
照れて答えた。手の温かさが、心臓に伝わってくるようだ。
こんなに誰かの手の温もりを意識したのは、いつ以来だろう。気づいたら、ミサトのことばかり考えている。
「あんたの前だと、素になれるのよ」
ミサトは独白のように言った。
「普段は、強気な女騎士を演じてるけれど……あんたの前だと、それがいらない」
「ミサトさんは、強くても優しくてもいい。どっちも、ミサトさんだよ」
ミサトは少し驚いたような顔をした。
「……あんたって、本当に優しいね。あんたの優しさは、相手を否定しない優しさ。誰かの長所を見る。悪いところじゃなく、良いところを見る。……そんな優しさ」
ミサトはセラの腕にそっと寄り添った。
「私、あんたのその優しさが、好きなの」
「……っ、何も言わなくていいわよ!ただの感想だから!」
ミサトは慌てて言い訳をしたが、顔は赤くなっていた。
(「フン」系の女騎士が「ただの感想だから!」と自己弁護をしている。可愛い。こういう表情が見られる関係になれたのは、本当に嬉しい)
王都の門に到着した。門番の兵士たちはミサトを見ると、敬礼をする。
「ミサト団長!」
「ああ、お疲れ様。今日は休暇だ」
「休暇ですか!?」
兵士たちが驚いていた。ミサトが休暇を取るのは、珍しいらしい。
(そりゃ珍しいだろう。仕事一徹な人間がある日突然「今日は休みます」と言う。それくらいのインパクトだ)
王都の中に入ると、賑やかな街の喧騒が二人を包んだ。
「どこから行く?」
「まずは中央広場に寄ろうか。その後、ゆっくり街を歩いて」
「了解」
中央広場へ向かう道中、人々の視線が二人に集まっていた。銀髪のエルフと、王宮近衛騎士団の団長。目立つ組み合わせだ。
「……少し、目立っちゃうね」
「ええ、でも構わないわ。今日は、あんたと二人でいるんだから」
広場では噴水の周りに人々が集まっていた。露店が並び、賑やかな声が響いている。
「わあ、賑やかだ」
「週末は特に賑やか。色々な人々が集まるから」
二人は露店を眺めながら歩いた。アクセサリー屋、雑貨屋、食べ物屋。
「あ、それ美味しそう」
セラがある屋台を指差した。甘い香りを漂わせる焼き菓子が売られている。
「それ、王都の名物よ。『蜂蜜のパンケーキ』って言うの」
「蜂蜜のパンケーキ?食べてみたい」
二人は屋台でパンケーキを購入した。温かいパンケーキは、蜂蜜の甘い香りを漂わせている。
一口食べると、甘さとバターの風味が口いっぱいに広がった。
「……おいしい!」
「でしょ?王都の名物だから」
ミサトも一口食べ、満足そうに微笑んだ。
「甘いけど、くどくない。いい味だね」
「ええ。……あ、セラくん、口の周り、ついてる」
「えっ、どこ?」
「ほら、そこ」
ミサトが指差す場所を、セラは手で拭おうとした。でも、ミサトが手を伸ばし、彼の口元を指先で拭った。
「……ここ」
彼女の指先が、セラの唇に触れた。一瞬、時が止まったような感覚。
「……っ、ご、ごめん!無意識に!」
ミサトは慌てて手を引っ込めた。顔が真っ赤になっている。
「い、いや、大丈夫です。ありがとうございます」
顔が熱い。こういう瞬間に備える術は、まだ持っていない。
「……もう、何なんのよあんたは。私、調子ずらちゃうじゃない」
ミサトは小声で文句を言ったが、その声に怒りはなかった。
二人はパンケーキを食べ終え、再び歩き出した。
「次はどこに行く?」
「服屋を見に行かない?あんたに、新しい服が似合うか選んであげる」
「ええ、いいですよ」
商業区にある服屋『シルク・アンド・レーザー』へ向かった。
「あんたには、こっちのシャツが似合いそう」
ミサトが水色の薄手のシャツを手に取った。
「試着してみてよ」
試着室から出てくると、ミサトは目を丸くした。
「……お似合い。その色、あんたの肌の色にぴったり」
「本当に?」
「ええ。銀髪に水色、とても爽やか。……似合いすぎて、少し嫉妬しちゃうかも」
「嫉妬、ですか?」
「冗談よ。でも、本当に似合うわよ。これ、買ったら?」
「ええ、買います」
誰かに服を選んでもらうのは、珍しい経験だ。「自分に似合う色」を意識するようになったのも、最近のことかもしれない。
「次は私の番。あんたに見てほしいの」
ミサトが何着かを手に取り、試着室に入っていった。
数分後、彼女が出てきた。淡いピンクのワンピース姿。
「……どう?」
ミサトが少し恥ずかしそうに聞いた。
「……綺麗だ。すごく似合ってる」
「ありがとう。……じゃあ、これにするわ」
二人は店を出て、再び街を歩いた。
「楽しいね」
「ええ。あんたと一緒だと、どんな場所も楽しくなる」
「俺もだ。ミサトさんと一緒なら、どこへでも行きたい」
「……あんたって、口が上手いのね」
ミサトは少し照れながら、セラの腕を強く握った。
「……このまま、ずっと歩いていたいな」
「ええ、俺も」
二人は手を繋いで、王都の街を歩き続けた。春の陽気が二人を温く包み込み、幸せな時間が流れていく。
## 夕食
王都の夕暮れ時、街はオレンジ色に染まっていた。
セラとミサトは、夕食のためにレストラン『月光の庭』を訪れていた。
「ここ、前回来た時にも気に入ってたの」
「ええ、覚えてます。雰囲気がいい店だね」
店内はロウソクの灯りに照らされ、ロマンチックな雰囲気に包まれていた。静かな音楽が流れ、テーブルには白いクロスがかけられている。
王都でこういう店に来られるようになったのは、学園に来てからのことだ。王宮まで歩いて行ける場所に、今は住んでいる。
二人は窓際の席に案内された。外には、夕暮れの王都が広がっている。
「綺麗だね」
「ええ。王都の夕暮れは、いつ見ても美しい」
「何にする?」
「シーフードのパスタが好きよ。新鮮な魚介類を使ってて、とても美味しい」
「じゃあ、それにしよう」
「ええ、私も同じにする」
二人はシーフードのパスタを注文した。注文後、静かな時間が流れた。
「……ねえ、セラくん」
ミサトがそっと手を伸ばし、テーブルの上でセラの手を握った。
「ん?」
「あんたのこと、考えてるのよ。……最近、よく」
「僕のこと?」
「ええ。あんたが何をしてるか、どんな顔をしてるか、何を考えてるか。そんなことばっかり考えてる」
心臓が騒ぎ出した。こういう言葉をまともに受け取ると、対処の仕方がわからなくなる。
「僕もだよ。ミサトさんのこと、よく考える」
「……本当?」
「本当だよ。ミサトさんが何してるかな、元気かな、今日も忙しいかな。そういうことを、よく考える」
ミサトは少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。
「……嬉しい。あんたも、私のことを考えてくれてたんだね」
「ええ。いつも」
「……バカ」
ミサトは小声でそう言ったが、その声には深い愛情がこもっていた。
ウェイターが料理を持ってきた。香り高いシーフードのパスタだ。
「いただきましょう」
二人は食事を始めた。パスタは絶品で、新鮮な魚介類の味が口いっぱいに広がる。
「美味しいね」
「ええ。やっぱりこの店、好きかも」
## カトレアの緊急連絡
服屋を出て、二人で街の大通りを歩いていた時だった。
セラの懐で、魔法通信の結晶が急に発光した。
(珍しい。平時にはほとんど鳴らないはずだが)
「ちょっと待って」
ミサトに断って、結晶を耳に当てた。カトレアの声だった。いつもの豪快さが消えていた。
「セラ! 商会が狙われた。今すぐ来てほしい。緊急だ」
「どこにいる」
「王都の西区、仮の倉庫だ。場所は分かるか? 以前一緒に行った——」
「分かった。五分で行く」
通信を切ると、ミサトが既に表情を変えていた。声で大体わかったらしい。
「カトレア?」
「ええ。商会に何かあったみたいです。申し訳ないけど——」
「行きなさい」
ミサトがすぐに言った。迷いがない。
「でも、今日は——」
「でも、じゃない。仲間が呼んでるんでしょ。行きなさい、バカ」
「バカ」は口癖だ。でも今日のそれは、怒っていない。むしろ、押し出すような言葉だった。
「ありがとう。必ず戻る」
「分かってる。こっちのことは心配しなくていい。自分の仕事をしなさい」
ミサトが腕を組む。視線は正面を向いていた。その横顔が、少しだけ寂しそうに見えたが、セラには確かめている暇がなかった。
西区の倉庫まで走った。
着いてみると、倉庫の扉が半壊していた。木材が外側に吹き飛んでいる。魔法の痕跡だ。
中に入ると、カトレアが壁際で息を整えていた。傷はない。ただ、顔が青かった。
「遅い」
「五分だ」
「七分だ」
言い合っている場合でもなかった。
「何があった」
「商会の荷物を一時保管していた倉庫が、いきなり魔法で攻撃された。俺が中にいたから、弾き返したけど——」
倉庫の端を見た。棚が一か所、中身ごと崩れている。カトレアが「弾き返した」という痕跡が、壁の焦げ跡に残っている。
「一人でやったのか」
「あたりまえでしょ。でも、三人相手だった。二人は逃がした。一人は——そこ」
隅に人物がいた。意識を失っている。縄で縛られていた。
「ドワーフの商人の護身術、というやつです。相手は魔法使いだった。でも、あたしも伊達に商人の修羅場をくぐってない」
カトレアが肩をすくめた。その顔には、既に普段の強さが戻りつつあった。ただ、手が微かに震えているのを、セラは見た。
「……怖かっただろう」
「やかましい。あたしが怖いわけない」
「三人を相手に一人で対処した。それは怖かったとは言わない。でも、呼んだ理由はなんだ。こっちに来てから、全部もう片付いてる」
カトレアが少し黙った。
「……倉庫の隅に、これが落ちてた」
手渡された紙を見た。ボロボロで、一か所焦げている。でも文字は読めた。
「……邪教団」
「ああ。あたしの商会を標的にした理由は分からない。でも——これを見た瞬間、一人でいるのが怖くなった。正直に言う。だから呼んだ」
セラは紙を丁寧に持ち直した。
(邪教団。昨日も図書館でこの名前を見た。二日続けて——)
「分かった。今日のことを全部、ギルドと警備隊に報告する。カトレア、お前も証言できるか」
「当然だ」
縛られた男から証言を取るのと、倉庫の状況を記録するのに一時間かかった。警備隊が来て、対応を引き継ぐまで、もう三十分かかった。
解散したのは、夕暮れ少し手前だった。
「ミサトさん待たせてしまった」
「言いなさい。折り返し連絡しなかったのか」
「……すっかり忘れてた」
「最悪だ」
カトレアが呆れた顔をする。ドワーフの視線はいつも人の動きをよく見ている。
「まあ、ミサトさんのことだから、理解してくれてると思うが——ちゃんと謝れよ。誠意は行動で示すものだ。商人としての基本だからな」
「分かった。ありがとう、カトレア」
「別に」
カトレアが踵を返す。その背中が少し小さく見えた気がしたのは、気のせいか。
「カトレア」
呼び止めた。
「……怖かった、と言える相手がいて、よかったと思う」
振り返ったカトレアの顔に、一瞬、表情が浮かんだ。それはすぐに消えて、いつもの豪快な笑いに変わった。
「ギャハハ! 何を言ってるんだ、セラ。あたしにはそういう相手が一人いる。それだけで十分だ!」
大きな笑い声を残して、歩き去っていった。
(カトレアは強い。でもああして呼んでくれた。それが今日の大事なことだ)
セラはミサトに連絡を入れながら、もと来た道を戻り始めた。
## 夕食
王都の夕暮れ時、街はオレンジ色に染まっていた。
セラとミサトは、夕食のためにレストラン『月光の庭』を訪れていた。
「ここ、前回来た時にも気に入ってたの」
「ええ、覚えてます。雰囲気がいい店だね」
店内はロウソクの灯りに照らされ、ロマンチックな雰囲気に包まれていた。静かな音楽が流れ、テーブルには白いクロスがかけられている。
王都でこういう店に来られるようになったのは、学園に来てからのことだ。王宮まで歩いて行ける場所に、今は住んでいる。
二人は窓際の席に案内された。外には、夕暮れの王都が広がっている。
「綺麗だね」
「ええ。王都の夕暮れは、いつ見ても美しい」
「何にする?」
「シーフードのパスタが好きよ。新鮮な魚介類を使ってて、とても美味しい」
「じゃあ、それにしよう」
「ええ、私も同じにする」
二人はシーフードのパスタを注文した。注文後、静かな時間が流れた。
「……ねえ、セラくん」
ミサトがそっと手を伸ばし、テーブルの上でセラの手を握った。
「ん?」
「あんたのこと、考えてるのよ。……最近、よく」
「僕のこと?」
「ええ。あんたが何をしてるか、どんな顔をしてるか、何を考えてるか。そんなことばっかり考えてる」
心臓が騒ぎ出した。こういう言葉をまともに受け取ると、対処の仕方がわからなくなる。
「僕もだよ。ミサトさんのこと、よく考える」
「……本当?」
「本当だよ。ミサトさんが何してるかな、元気かな、今日も忙しいかな。そういうことを、よく考える」
ミサトは少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。
「……嬉しい。あんたも、私のことを考えてくれてたんだね」
「ええ。いつも」
「……バカ」
ミサトは小声でそう言ったが、その声には深い愛情がこもっていた。
ウェイターが料理を持ってきた。香り高いシーフードのパスタだ。
「いただきましょう」
二人は食事を始めた。パスタは絶品で、新鮮な魚介類の味が口いっぱいに広がる。
「美味しいね」
「ええ。やっぱりこの店、好きかも」
「また一緒に来たいね」
「ええ、ぜひ」
二人は食事を楽しみながら、穏やかな会話を交わした。学園の話、冒険者の話、二人のこと。様々な話題について語り合った。
「……ねえ、セラくん」
食事が終わった頃、ミサトが真剣な表情で言った。
「ん?」
「私、あんたのことが……好きなの」
セラはハッとした。
「……好き」
ミサトははっきりと言った。
「最初は嫌いだった。でも、だんだんと好きになった。そして今は……もう、どうしようもないくらい好き」
彼女の瞳には、真っ直ぐな好意が宿っていた。
「あんたの優しさが好き。あんたの強さが好き。あんたの笑顔が好き。……あんたの全部が好き」
(「あんたの全部が好き」。ミサトがこんなストレートな言葉を言うとは。いつも「フン」とか「あんたね」とか言っている人が、「全部が好き」と。心臓がうるさい。爆発しそうだ)
「ミサトさん……」
「驚かせた?ごめんね。でも、伝えたかったの。……あんたに、私の気持ちを」
ミサトはセラの手を両手で包み込んだ。
「私、あんたと一緒にいたいの。ずっと」
セラは深呼吸をして、自分の気持ちを言葉にした。
「僕も、ミサトさんのことが好きだ。……最初は犬猿の仲だったけど、だんだんと惹かれていって。そして今は、ミサトさんのことが、大好きだ」
ミサトの目に涙が浮かんだ。
「……あんたも、私のこと、好きなのね」
「ええ、好きだ。大好き」
「……嬉しい。本当に、嬉しい」
ミサトは涙を拭い、微笑んだ。
「私、幸せ」
「俺も幸せだ。ミサトさんに出会えて、本当によかった」
二人は手を握り合い、互いの瞳を見つめた。
ロウソクの光が二人を優しく照らし、幸せな時間が流れていく。
「……これからは、もっと頻繁に会おうね」
「ええ、約束する。週末には、できるだけ会おう」
## 素直になるミサト
食事を終え、二人は王都の公園へ向かった。
夜の公園は、静まり返っていた。街灯の光が道を照らし、虫の声が静かに響いている。
「綺麗な夜だね」
「ええ。夜の公園、落ち着くわね」
二人は公園の小道を歩いた。手を繋いで、静かな夜の散歩。
こうして夜に誰かと並んで歩く。それがただ、気持ちのいいことだと知ったのは最近のことだ。
「……ねえ、セラくん」
ミサトがぽつりと呟く。
「ん?」
「私、今までずっと……強くあろうとしてきたの」
「強く?」
「ええ。女騎士として、近衛騎士団の団長として。……弱さを見せちゃいけないって、ずっと思ってきた」
ミサトは少し自嘲気味に笑った。
「でも、あんたの前だと、それがいらないのよ。弱くてもいい、泣いてもいい、素気でもいい。……あんたの前だと、私が私でいられる」
セラはミサトの手を強く握った。
「ミサトさんは、強くても優しくてもいい。どっちも、ミサトさんだよ」
「……あんたって、本当に優しいね」
「ただの事実だよ」
ミサトは少し照れて微笑んだ。
「……ありがとう、セラくん。あんたがいてくれて、本当に良かった」
「俺もだ。ミサトさんに出会えて、よかった」
(この世界に来て、こんなふうに誰かに言葉をかけてもらえるようになるとは思っていなかった。ミサトに出会えたのは、本当に良かった)
二人は公園のベンチに座った。夜風が心地よく、二人の髪を揺らす。
「……ねえ、セラくん」
ミサトがセラの肩に寄りかかった。
「ん?」
「私、もっと素直になりたいなって、最近思うの」
「素直に?」
「ええ。あんたに対して、もっと素直になりたい。……好きって、もっと言いたい。一緒にいて、もっと幸せだって、伝えたい」
ミサトはセラの腕を抱きしめた。
「セラくんのこと、大好き。離れたくない。ずっと一緒にいたい」
彼女の言葉は、素直な好意そのものだった。
(普段「フン」しか言わないミサトが、こんなことを言う。聞いていて、胸が熱くなる)
「僕もだ。ミサトさんのことが大好き。離れたくない。ずっと一緒にいたい」
セラはミサトを抱きしめ返した。
二人の体温が混ざり合い、幸せな瞬間が流れていく。
「……こうしてると、夢みたい」
ミサトが小声で言った。
「夢じゃないよ。ここにいる、僕たちだ」
「……そうね。夢じゃない。現実よ」
彼女はセラの胸に顔を埋めた。
「……この現実が、ずっと続けばいいのに」
「続くよ。僕たちが、続けるから」
「うん。……あんたと一緒なら、きっと大丈夫」
二人は夜の公園で、静かな時間を過ごした。
星が瞬く空の下、二人は互いの気持ちを確認し合っていた。
## 新たな関係
夜が更け、二人は帰り道についた。
王都から学園への道は、静かだった。月明かりが道を照らし、二人の影を長く伸ばしている。
「……楽しかったね」
「ええ。最高の日よ」
「僕もだ。ミサトさんと一緒に過ごせて、本当に幸せだった」
「……あんたも、そう思ってくれてよかった」
ミサトはセラの手を強く握った。
「今日のこと、忘れないわ」
「僕も忘れない。一生」
「一生、って。……大げさね」
「大げさじゃないよ。本当に、忘れない」
「……っ、バカ。そういう言葉、平気で言えるから」
「でも、本心だから」
「……ん、わかってる。あんたのことだから」
信頼されているのがわかる。言葉の重みが違う。「あんたのことだから大丈夫」という信頼を、ミサトから受け取っている。
二人は手を繋いで歩き続けた。
「……もう少しで、着くね」
ミサトが少し寂しそうに言った。
「ええ。……別れがたい」
「私もそうよ。でも、また会えるから」
「そうだね。また会える」
「ねえ、セラくん」
「ん?」
「来週の週末も、会える?」
「ええ、もちろん。予定があれば、空けるよ」
「うん。じゃあ、また来週」
二人は約束を交わした。
魔法学園の通用門が見えてきた。
「……着いちゃったね」
「ええ。……もう少し、歩いていたかった」
「僕もだ」
二人は通用門の前で立ち止まった。
「……じゃあ、また明日」
ミサトが言った。
「ええ、また明日」
セラが頷くと、ミサトは少し考えてから近づいた。
「……っ」
彼女はセラの頬に、そっとキスをした。
(心臓が止まるかと思った。こういう瞬間に備える方法が、どこにも書いていない)
「……はい、これでおしまい」
ミサトは少し照れた顔で言った。
「ミサトさん……」
「また明日ね、セラくん」
ミサトはそう言うと、学園の中に入っていった。
セラは一人、通用門の前に立っていた。
頬に残るキスの感触。手に残る彼女の体温。
「……幸せだなぁ」
心の中でそう呟いた。
「ミサトさんと、これからもずっと一緒にいられたらいいな」
その願いを胸に、学園の中へと歩き出した。
月明かりが彼を照らし、新しい一歩が始まろうとしていた。
二人の関係は、今日確かなものになった。
素直な好意、伝わり合った気持ち、そして未来への約束。
「最高の日、だ」
寮への道を歩きながら、今日一日を振り返った。
朝の誘い、街での散策、蜂蜜のパンケーキ、服屋での選択、夕食での告白、公園での語らい、そして別れ際のキス。
すべてが、最高の思い出になった。
(魔法学園に来てから、こんな一日を過ごすことになるとは思っていなかった。でも、確かにここにいて、今日のことは全部本当のことだ)
「ミサトさん、大好き」
心の中でそう呟き、寮への道を歩き続けた。
春の夜が静まり返り、彼の足取りは軽かった。
新しい関係が始まった。そして、明日もまた、二人の物語は続いていく。
それは、幸せな物語の始まりだった。
# 第115話 完




